アニメ音楽丸かじり(4)
『Genji』『絶チル』のサントラが発売!
和田 穣
今月25日はアニメ・ゲーム関連のCDだけでも100枚近くが発売されるリリースラッシュ。このタイミングで冬期新番組の関連CDが一気に発売されるためで、アニソン・サントラファン諸子は買い逃しのないよう、今のうちから資金を確保しておくのが吉だ。
取り上げたいCDはいくつもあるのだけれど、今回はその中から泣く泣く2枚に絞ってお届けする。残念ながら紹介できなかった作品については、今後の連載で追々扱っていく予定だ。
出崎統監督が日本文学の古典中の古典・源氏物語の世界に取り組んだ注目の作品、『源氏物語千年紀 Genji』のサントラが早くも25日にリリースされる予定だ。個人的にも楽しみに視聴している番組で、端麗な杉野昭夫キャラと凝りに凝った光源処理が、毎回めくるめく美と官能の世界を見せてくれる。大人でも思わず照れてしまうほどの色気にあふれた画面作りは、さすが出崎監督というべきか。
CDは「高雅〜メインテーマ」で幕を開けトータル58分に全27曲を収録。OP・EDは含まれていないが、劇伴と作風が大きく違うのでこれは妥当な判断だろう。
音楽を担当するのはS.E.N.S. Project。映画「非情都市」やNHKスペシャル「故宮」、ドラマ「あすなろ白書」の音楽で知られる劇伴界のベテラン、S.E.N.S.の2人(深浦昭彦・勝木ゆかり)に、ピカソの森英治を加えたチームだ。アニメの劇伴では『xxxHOLiC』シリーズを手がけた実績がある。作曲クレジットでは深浦が2曲のみで、残りを勝木と森がほぼ半分ずつ担当。
音楽の基本線はメロディアスで透明感のあるいつものS.E.N.S.節で、3人のピアノとシンセ、そしてストリングスが一体となってゆったりとした叙情的なメロディを奏でるものだ。題材が源氏物語ということで和風の味付けも施されており、ゲストで加わった琴と篠笛の演奏もフィーチャーされている。「高雅〜メインテーマ」は篠笛のフレーズをストリングスがなぞりながら展開する民俗音楽的な作風で、かつて川井憲次がTV版『吸血姫美夕』で見せたアプローチを思わせる。
また随所に登場する尺八は担当奏者がクレジットされていないが、恐らくは深浦昭彦の愛器YAMAHA VL1を用いてシンセで演奏したものだろう。彼はライブのソロなどでよくこの機種をメインに使用している。実は僕も1台所有しているのだが、尺八の再現度は本当に素晴らしく、他の追従を許さないレベルだと思う。
この作品における音楽の使われ方はとても興味深い。通常は台詞が多いシーンでは音楽を控えめに、音楽が主張する場面では台詞を控えめにするものだが、本作では多くの場面で両者を同じくらい前に出してぶつけているため、映像に独特の浮遊感・非現実感が生まれているのだ。これによって濡れ場が多い作りながら生々しさが軽減され、視聴者がすんなりと映像美に集中できるように配慮されているのではないかと思っている。
今年3月末をもって満1年続いたアニメ放映が終了となる『絶対可憐チルドレン』。すでに主題歌、キャラクターCD、ドラマCDなど関連CDが25枚以上発売されているほか、昨年6月にはサントラ第1弾がリリースされた。今月25日にはいよいよシリーズ後半を彩る楽曲を中心とした、サントラの2作目が発売予定だ。全41曲を収録予定で、曲名がすべてひらがな・カタカナなのは第1弾に続いてのお約束である。
音楽担当はここ数年コンスタントに年間2〜3本のTVアニメを手がける売れっ子・中川幸太郎。4月からは『07-GHOST』の音楽にも起用される予定で、今年もスケジュールはぎっしりと埋まりそうだ。
中川幸太郎といえば、過去に手がけた『スクライド』『ガン×ソード』『コードギアス 反逆のルルーシュ』で見せたブラス(金管)を主体とする作風のイメージが、個人的には強く印象に残っている。父、弟、叔父がプロの管楽器奏者という一家の出であり、金管使いの巧さには定評のある作曲家だ。本作もサントラ第1弾と同様にブラスをフィーチャーしたジャズテイストが基調で、1960〜70年代のハリウッド映画やアメリカのTVドラマを想起させるスパイもの、探偵もの、刑事ものの雰囲気。『R.O.D』シリーズで岩崎琢が見せたアプローチに近い、と言えばイメージしやすい方もいるかな。
ブックレットには川口敬一郎監督、音響監督の松岡裕紀を始めとする音響スタッフの座談会を収録。なかなか興味深い話が盛りだくさんである。番組当初から監督が「007」シリーズを念頭に置いて音楽を発注していたこと、初期に発注した音楽(恐らくサントラ第1弾に収録されたもの)があまりに格好よすぎたため、後から日常シーンや叙情的なシーンを補強する音楽を追加したことなどが語られている。たしかにサントラ第1弾に比べると、番組のストーリーが終盤へ向け重みを増していることもあって、ピアノやストリングスを用いたエモーショナルな楽曲が増えているように思う。
日曜朝10時という枠でしかも小学生3人が主役のアニメながら、アダルトでジャズ風味満点の音楽という組み合わせ。一見ミスマッチにも思えるが、原作のもつアクション・コメディ・超能力といった要素、そしてB.A.B.E.L.とP.A.N.D.R.A.という組織同士の戦いに、往年のスパイ映画に似たテイストをかぎ取った川口監督のセンスが面白い。そしてそれに妥協のない音楽で応えた中川幸太郎の手腕もさすがである。番組が終わってもこの先長く愛聴したいと思わせるような、骨太のサウンドトラックに仕上がった。
(価格はすべて税込)
(09.02.23)