アニメ音楽丸かじり(5)
Kalafina初アルバム発売記念・梶浦由記特集!
和田 穣
5月22日からアメリカのマサチューセッツ州ボストンで開催されるアニメコンベンション「Anime Boston 2009」で、劇場『空の境界』の海外初上映が行われる。7部作の中からどの章が上映されるのか、あるいは全章をやるのかはまだ不明だが、いずれにしても奈須きのこがWeb上で発表した小説が同人誌となり、講談社ノベルスで出版され、劇場アニメとなって遂に海外進出まで果たしてしまうとは驚くべきことだ。これまでの経緯を見守ってきた関係者やファンにとっても感慨はひとしおだろう。
ちなみにこのイベントは2001年から開催されており、昨年は1万4千人規模の参加者を集めたという。主題歌を担当するKalafinaと作曲者の梶浦由記も招待を受け、ライブを披露する予定だ。ボストンといえば、ポピュラー音楽教育の最高峰・バークリー音楽大学がある場所。僕の友人・知人にも何人か留学経験者がいるが、学校内やその近辺では素晴らしく質の高いライブが頻繁に開催されていると聞く。
Kalafinaが紡ぎ出すハーモニーに、耳の肥えたボストンの聴衆がどう反応するのか楽しみだ。いずれなんらかのかたちで映像がリリースされることに期待したい。
そのKalafinaだが、3月4日にアルバム「Seventh Heaven」と、TVアニメ『黒執事』ED曲となるニューシングル「Lacrimosa」を同時にリリースした。既に購入して楽しんでいるファンの方も多いと思うが、僕も事前にサンプル盤を入手しており、早くこの連載で紹介したいと思っていた。それだけ内容の濃い、充実した作品ということだ。
まずはアルバムの方から紹介しよう。「Seventh Heaven」はKalafinaにとって初のアルバムで、発売日の3月4日にはオリコンのデイリーランキング8位に入るなど、ファンにとって待望のCDと言えるだろう。全14曲を収録し、この中には『空の境界』主題歌の7曲が全て含まれている。
CDには初回限定版と通常盤の2種があるが、この限定版がなかなか凝った作りで面白い。まず箱からしてCDでは異例の縦長で、開いた右側から取り出す形状だ。これがもう明らかに講談社BOXの装丁にそっくり!(笑) 講談社BOX+アニメスタイル共同編集の『空の境界』画コンテ集シリーズをお持ちの方は、サイズもぴったり重なるのでぜひ隣に並べてみていただきたい。
ブックレットには原作者の奈須きのこによるライナーノーツが記載されているのも嬉しいところ。『空の境界』主題歌の7曲に大いに共感したようで、楽曲の深いところまで踏み込んだ解説を寄せている。これには作曲者の梶浦由記本人も一読して感激したそうだ。主題歌7曲の一覧は以下のとおり。
第一章 俯瞰風景「oblivious」
第二章 殺人考察(前)「君が光に変えて行く」
第三章 痛覚残留 「傷跡」
第四章 伽藍の洞 「ARIA」
第五章 矛盾螺旋 「sprinter」
第六章 忘却録音 「fairytale」
第七章 殺人考察(後)「seventh heaven」
初回限定版にはDVDが付属し、上記の一章から四章の各曲にはライブ映像が、五章から七章の各曲についてはPVを収録している。Kalafinaとしてのライブ映像はこれが初出で、ファンにとっては嬉しいプレゼントだろう。昨年7月と12月に行われた梶浦由記ライブのオープニングアクトとして出演した際の映像だと思うが、ライブでも完璧な各メンバーの歌唱力には驚かされる。特に「oblivious」冒頭のヴォーカリーズにはゾクッとさせられた。
最後にCDの内容だが、第七章の主題歌でタイトル曲でもある「seventh heaven」を劇場公開前に聴けてしまうのが大きなポイントだろう。今までの主題歌と同様に、楽曲の内容は映画と密接にリンクしているため詳細は明かさないが、過去の主題歌6曲、そして映画全体を振りかえるような美しく雄大なバラードである。特にこれまで全章にわたって劇場で観てきた熱心なファンにとっては、万感の思いがこみ上げてくるはずだ。
「Seventh Heaven」がこれまでの集大成とすると、新曲「Lacrimosa」はこれからの方向性を占う楽曲だ。Kalafinaにとって4枚目のシングルで、初めて『空の境界』以外のタイアップ。TVアニメ『黒執事』2クール目からのED曲である。
Lacrimosaとはラテン語で「涙の日」という意味で、モーツァルトやフォーレの作品で知られるミサ曲「レクイエム」の一節からの引用と思われる。歌詞は「Lacrimosa dies illa(涙の日、その日こそ)」と続き、本作でもそのように歌われる箇所がある。
梶浦由記の音楽には様々なバックボーンが見てとれるが、聖歌や合唱曲はその中でも重要な要素だろう。多くの楽曲で「梶浦語」と呼ばれる独特の言語による壮麗なコーラスが導入されており、彼女の音楽の大きな特徴となっている。
特にKalafinaの楽曲では『空の境界』の作品性も踏まえてか、音楽面でもビジュアル面でも今まで以上にゴシック色を強く打ち出しているように思う。そしてこういったテイストは『黒執事』のヴィクトリア朝風の舞台設定とも相性が良かったのだろう。
曲調は3拍子の重たいリズムに乗り、ドラマティックなストリングスが流れるというもの。メロディと歌唱には悲劇的で張り詰めた雰囲気が漂い、「涙の日」という曲名にぴったりだ。
初回限定版にはDVDが付属し、『黒執事』ノンクレジットEDと「Lacrimosa」のPVが収録される。こちらも要注目だ。
最後に先月25日に発売されたFictionJunctionのアルバム「Everlasting Songs」を紹介しよう。こちらもユニット初のアルバムで、これまで梶浦由記が提供してきた主題歌・挿入歌などを中心に、多数の歌い手を起用した豪華なセルフカバーアルバムとなっている。梶浦本人がブログで語っていたように、CDの容量を目一杯使った76分の収録時間は、歌ものとしてはかなりのボリュームだ。
主な楽曲をいくつか挙げておこう。まず特筆すべきはYUUKA(南里侑香)との久々の新曲「記憶の森」、こちらは17日にリリースされるOAD『ツバサ春雷記』のED主題歌だ。
そのほかOAD『ツバサ TOKYO REVELATIONS』OP主題歌「synchronicity」、OVA『真救世主伝説 北斗の拳 トキ伝』ED主題歌「花守の丘」、OVA『コゼットの肖像』ED主題歌「宝石」、TV『LOVELESS』ED主題歌「みちゆき」など、いずれもリアレンジされた上での新録バージョンだ。歌い手にはこれまでFictionJunctionに参加してきたYUUKA、KAORI、KEIKO、WAKANA、YURIKO KAIDA、ASUKAが勢揃いする。特にこれまでコーラスを中心に梶浦ソングを支えてきた、貝田由里子のソロ歌唱が2曲聴けるという点も嬉しい。
梶浦由記はこれまでも多くの名曲を生み出してきた作曲家だが、今回紹介した3枚の充実ぶりからも明らかなように、特に歌ものに関してはいまノリにのっているという印象だ。Kalafinaのメンバーを始めとする多くの優れたヴォーカリストとの出会い、そして『空の境界』との出会いが彼女の創作意欲を刺激しているのだろうか。まずは『空』の最終第七章の劇場公開、Kalafinaの海外進出、そしてその先の活動についてもますます彼女から目が離せなくなりそうだ。
(価格はすべて税込)
(09.03.09)