アニメ音楽丸かじり(6)
山本正之とI'veのCD-BOXを特集!

和田 穣

 5月3日、SHIBUYA-AXで『喰霊—零—』のライブが開催されることとなった。主演と主題歌を担当した茅原実里・水原薫のほか、挿入歌を歌った美郷あき、yozuca*、飛蘭、妖精帝国などが参加予定。チケットの予約情報など詳しくは公式サイトを参照してほしい。昨年放映されたアニメの中でも、意表を突くストーリー展開とダイナミックなアクションで人気の作品だけに、ライブでの盛り上がりも大いに期待できそうだ。個人的にも行きたいと願っているが、チケットが争奪戦な気がするので果たして取得できることやら……。

 ここのところ『ヤッターマン』が熱い。リメイク版TVアニメの放映に加えて、実写映画版が先週の興行収入ランキングで1位を獲得するヒットとなった(ちなみに2位は『ドラえもん 新 のび太の 宇宙開拓史』)。そして映画に使用された「ヤッターマンの歌2009」によって健在振りを示したのがご存じ山本正之。アニメソングの分野を代表するシンガーソングライターである事は言うまでもないだろう。彼の作品を集めたCD-BOX「THE パカパッカン」が3月25日に発売されることとなった。
 主な内容は1990年代に発表したオリジナルアルバムが中心で、DISC-1「才能の遺跡」(1993年)、DISC-2「サスクハナ号の曳航」(1994年)、DISC-3「アノ世ノ果テ」(1995年)、DISC-4「マサユキ天国」(1996年)、DISC-5「演歌の帝王」(1996年)、DISC-6「アニメの大王」(1997年)、DISC-7「桃の花」(1998年)と年代順に収録されている。そしてDISC-8とDISC-9はシングル文庫シリーズとして発表された作品をまとめ、DISC-10には近年の作品が収録されている。BOX仕様ということもあり価格は安いとは言えないが、すでに多くの盤が入手困難となっているため希少価値は高い。ブックレットには本人による全曲解説を掲載しているのもポイントだ。
 聴きどころ満載のBOXなのでいくつかポイントを紹介したい。まずアニメファンとしてはやはりDISC-6「アニメの大王」に注目だろう。山本が他の歌手に提供したアニメ主題歌のセルフカバーアルバムだ。自身も多くの主題歌を歌ってきただけに、いずれもさすが堂に入った仕上がりとなっている。最後に収録された「降臨!アニメの大王」は1997年当時話題となっていたノストラダムスの予言をネタに、アニメとアニメソングへの思いを高らかに歌い上げた楽曲。
 個人的に好きなのが、彼の長編シリーズの代表作と言える「サスクハナ号の曳航」だ。ペリー提督の乗艦・サスクハナ号をモチーフに繰り広げられる20分にも及ぶストーリーが、シンプルなメロディに乗せて朗々と綴られる。語り部としての山本正之の魅力がぎゅっと詰まった作品だ。
 DISC-8に収録された「アニメがなんだ」は自作のアニメソングを引用しながら、アニメ業界への皮肉や批判、そしてユーモアも交えたメッセージソング。茶化して面白おかしく歌っているようだが、その根底には「子供達が見ているんだ。作り手は責任重大だぞ」という熱い思いが込められている。アニメに携わる者ならば、襟を正さずにはいられないメッセージではないだろうか。
 担当したアニメソングと同様に、オリジナル作品でも多くの楽曲に見られる軍歌・歌謡曲調のメロディライン。一度聴いたら忘れられない親しみやすさが山本ソングの魅力だ。巧みな節回しを駆使した歌唱力、パロディや言葉遊びを交えた饒舌な歌詞などいずれも唯一無二の個性。僕もこの記事を書くにあたって久々に彼の作品をたっぷりと聴き、改めてその魅力にしびれてしまった。

THE パカパッカン/山本正之

BBCA-3007/18,900円/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
3月25日発売予定
[Amazon]

 もう1つCD-BOXの情報をお届けしよう。『Kanon』『おねがい*ティーチャー』『シスター・プリンセス RePure』等の音楽のほか、KOTOKO、川田まみなど多くのアニメソング歌手を世に送り出してきたI've。今年で結成10周年を迎えるにあたり、これを記念したスペシャルCD BOX「Departed to the future」が3月25日にリリースされる。I'veの誇る5人の歌姫、KOTOKO、川田まみ、島みやえい子、MELL、詩月カオリが発表する新曲シングルCDとDVDを1枚づつパッケージしたもの、つまりシングルCD5枚とDVD5枚の計10枚で構成されたBOXということだ。
 CDの仕様は5人共通で、まず新曲が1曲とそのカラオケ、今年1月に行われた武道館ライブから1曲というもの。ライブではそれぞれI'veでのメジャーデビュー曲がチョイスされており、これまでの活動の歴史を振りかえる趣向になっている。
 新曲について簡単にコメントしておこう。川田まみ「L'Oiseau bleu」はピアノとアコギを中心としたアコースティックで爽やかなナンバー。KOTOKO「snIpe」はハードなサウンドと目まぐるしいコード進行が鮮やかな楽曲。彼女にとって新たな代表曲となりそうなポテンシャルを感じる。
 島みやえい子「Paranoia」はトランス色の強いバックトラックに物悲しいコーラスが乗るメロディアスな佳曲。MELL「殻の蕾」は多彩なサウンドの展開とヴォーカルの表情の変化が聴きどころだ。詩月カオリ「end of refrain 〜小さな始まり〜」は可愛らしいアイドル風ポップス。それぞれが新境地を感じさせる曲調となっているのも意図的なのだろう。
 DVDの方は各新曲のPVと、I've結成10周年を記念して制作された映画「Departed to the future」の一部分が収録される。映画といってもこの作品に公開予定はなく、いまのところこのBOXで視聴するしかない。もちろん歌手5人も出演している。
 以上のように新曲、ライブ、PV、映画を組み合わせた野心的な企画のBOXであり、これがファンにどのように受け入れられるのかが興味深いところだ。

I've Sound 10th Anniversary 「Departed to the future」 Special CD BOX

GNCV-0100/10,500円/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
3月25日発売予定
[Amazon]

(価格はすべて税込)

(09.03.23)