アニメ音楽丸かじり(7)
『銀魂』ベスト、『SOUL EATER』OST2を紹介!
和田 穣
春の新番組の中で音楽面が話題になりそうなのは、やはり高校の軽音楽部をテーマにした『けいおん!』という事になるのだろう。制作を担当する京都アニメーションは『涼宮ハルヒの憂鬱』でも活き活きとしたライブ演奏の描写で話題を作ったが、今回の『けいおん!』では実在する楽器を忠実に再現しているのが興味深いところだ。楽器のチョイスにしても、学生バンドの経験者ならニヤリとさせられるような個性的なものが選ばれている。
オープニングの映像などからメインキャラクター4人が使用している楽器を特定し、おおよその値段を調べてみたので「彼女達と同じ楽器で演奏してみたい!」という人がいたら参考にしてみてほしい。
ギターはギブソンのレスポールスタンダード。黄色の木目地の上からチェリーレッドを塗った、いわゆるサンバースト塗装のモデルだ。1960年頃から存在する伝統的なカラーリングで、当時のものはもちろんプレミア価格になっているが、現行品でも店頭価格で25万円くらいはする。主人公・唯のような高校生が買うにはなかなか勇気がいるモデルだ。
ベースはフェンダーのジャズベース。左利き用モデルでべっこう柄のピックガードを施したもの。エレキベースの定番中の定番といえる機種で、プロ・アマ問わず幅広く使用されている。こちらは10万円前後のお値段。
キーボードはコルグのTriton Extremeで76鍵モデル。デジタルシンセではあるのだが音色を豊かにするための真空管を搭載しており、この管が放つ青い光が印象的。すでに生産・販売は終了しており、中古価格は10〜15万円あたりを推移しているようだ。
ドラムスはヤマハのヒップギグのセットで色はメローイエロー。バスドラムと椅子の中にすべての部品を収納することができるという、可搬性に優れたコンパクトなモデルだ。新品でだいたい20万円弱のお値段。フロアタムとシンバルはセットに含まれないので、別途用意する必要がある。シンバルにはジルジャンを使用している。
以上4点、いずれもなかなかに特徴ある楽器たちだが、それなりに値が張るため、学生の方にはちょっと購入が難しいかもしれない。ただ楽器としての品質や音のよさは確かな製品ばかりなので、もし購入できれば「一生モノ」になるのではないだろうか。
さて、今週は番組改編時期という事もあって新譜のリリース数は控えめ。そこで最近発売されたCDの中で、今まで取り上げそこねてしまったものを2点ほどピックアップしてみたいと思う。
まずは先月25日にリリースされた、『銀魂』の主題歌集「銀魂BEST」をご紹介。2006年4月の放映開始から、2008年7月までのOP・ED曲をすべてコンプリートしたCDだ。今となっては懐かしい第1期OP「Pray」から第10期ED「This world is yours」まで、時系列順に全15曲を収録している。6月末までの期間限定生産となっており、特典としてDVD、BOX、ブックレット、ピンナップが付属。DVDには各OP・EDのノンクレジット映像が収録されている。
本作の主題歌を担当するのは、ソニーミュージック系列のアーティストであるという他にはあまり共通項がなく、それぞれの音楽性もバラバラだ。たとえば、第1期OP「Pray」を歌うTommy heavenly6はご存じのとおりthe brilliant greenの川瀬智子であり、彼女が好む1980年代の洋楽テイストはこの曲のメロディにも垣間見える。第2期OP「遠い匂い」を歌うYO-KINGは真心ブラザーズ出身で、こちらは一転してかなりフォーク色が強い。
それでも全体の統一感が損なわれていないのは、いずれもギターをフィーチャーしたロックサウンドであるためではないだろうか。『銀魂』はBGMでもギターを多用したロック色の強さが持ち味なだけに、主題歌にも同様のトータルディレクションが働いているのだろう。このCDで改めて全主題歌を聴き、スタッフのバランス感覚に唸らされた。
3月末をもって1年にわたる放映を終了した『SOUL EATER』は、五十嵐卓哉監督にとって2006年に放映されて好評を博した『桜蘭高校ホスト部』以来のTVシリーズ監督作品となった。すでに関連CDがいくつか発売されているが、先月18日に岩崎琢が手がけたサウンドトラック盤の第2弾がリリースされたので紹介したい。
CDは全22曲で72分とたっぷり収録。ヴォーカルやラップが入ったトラックが7曲も含まれているのが特徴で、これらの楽曲は劇中でも大きなハイライトとなっている。打ち込みのビートやサントラらしい雄大なストリングスを基調としながらも、そこにジャズ、ロック、ヒップホップ、教会音楽等のエッセンスを加えたスタイルは『結界師』『天元突破グレンラガン』以降の岩崎サウンドに特徴的なもの。いわゆる劇伴の王道的な作風とは大きく異なるスタイルで、もはやなんでもありという孤高の境地に達しているように思える。
作曲者によれば1曲目の「in his mind,DB sways his shoulders and dances」のコンセプトは「縦笛で演奏するトーキング・ヘッズ」とのこと(笑)。もうその着想の奇抜さだけでも笑ってしまう。
ハイライトは9曲目「kindertotenlied」で、クラシックに詳しい人なら曲名でピンと来たかもしれないが、マーラーの歌曲で知られる「亡き子をしのぶ歌」の詩をそのまま使ったものだ。そのせいか、うねるような弦楽がどことなくマーラー的にも聞こえる。劇中では魔女メデューサのテーマとして使われており、彼女とその子クロナとの関係(鬼神にするための実験台とした)との関係を考えると、なかなかに倒錯的だ。
作品のファンやサントラファンは勿論のこと、ありきたりの音楽には食傷している音楽マニアにもおすすめできるような、斬新で時代の先端をいくサウンドに仕上がっていると思う。
(価格はすべて税込)
(09.04.06)