アニメ音楽丸かじり(11)
MOSAIC.WAVライブレポ、『けいおん!』サントラ発売!
和田 穣
5月30日に赤坂BRITZで行われた、MOSAIC.WAVの初ツアー「Superluminal Ж MOSAIC.LIVE」の東京公演に参加してきた。メンバーはMOSAIC.WAVの2人、み〜こ(ヴォーカル)と柏森進(キーボード)に加えて、UNDER17での活動でも知られる小池雅也(ギター)が参加。更にはクマキヒロノブ(ベース)、岩田ガンタ康彦(ドラムス)、大串友紀(マニピュレーター)といったMOSAICのライブではお馴染みの面々だ。CDでは打ち込み中心のサウンドが多いが、ライブでは生バンドでの演奏にこだわるのも彼らの魅力のひとつ。
序盤の「Magical Hacker☆くるくるリスク」「愛の個人授業」「Love Cheek?」「Love Cheat!」からすでにかなりのヒートアップで、柏森が「大丈夫なのか」と心配するほど攻撃的なセットリスト。それでもみ〜こが「よく訓練された愚民ファン」と言うように熱心なMOSAICファンがほとんどで、年齢層も若めということもあってか観客のボルテージは上がりっぱなしだ。7曲目には「片道きゃっちぼーる」(『ぽてまよ』OP)が披露され、「もきゅもきゅ」コールで会場がハッピーなムードに包まれる。
中盤には様々な仕掛けが用意されており、オーディエンスを飽きさせないための工夫が光った。面白かったのが、各メンバーがニンテンドーDS、ゲームボーイミクロ、iPodなどの携帯機を持ち寄り、音楽ゲームを使って自分の担当パートをゲーム機で演奏するという試み。これが意外にもちゃんとしたアンサンブルになっていて驚かされた。恐らくは各自がかなり練習したのではないかと思う。その無駄な情熱と意欲こそがオタクらしく、彼らが愛される理由のひとつだと感じた。
恒例のソロタイムは、ドラムスが「スーパーマリオブラザーズ」、マニピュレーターは「スパルタンX」、小池アニキのギターソロはディスクシステムの起動サウンドから始まるメドレー。そしてキーボードの柏森は「ファイナルファンタジー」シリーズの戦闘曲をメドレーで演奏する。いずれも懐かしのゲーム音楽の名作ばかりでオールドファンは大喜び。
ゲストに鶴田加茂(なんと初音ミクのコスプレで登場)を加えた編成で、彼の代表曲「みくみくにしてあげる♪」も演奏。このジョイントによるCDのリリースも発表された。
終盤は「洗脳・搾取・虎の巻」「ギリギリ科学少女ふぉるしぃ」「魅惑のツンデロイド」など畳みかけるような代表曲のラッシュ。本編ラストとなった「妄想網 Ж Superluminal」では原曲の超高速テンポを生ドラムで完璧に演奏し、まるで初期メタリカのような激しいスラッシュビートに場内の盛り上がりも最高潮に達する。
当然のアンコールには「最強○×計画」(『すもももももも』OP)「ガチャガチャきゅーと・ふぃぎゅ@メイト」という、オタクアンセムともいえる2曲で応え、怒濤のようなコールとジャンプがあちこちでわき起こる。最後は「SPACE!WAVE!AKIBA-POP!!」で締めて3時間近くに及んだライブは幕を閉じた。
一口にオタク層が好む音楽と言っても様々だと思うが、特にアニメソング、ゲーム音楽、声優ソングは比較的幅広く支持されてきたと言えるだろう。MOSAIC.WAVはこれら全ての要素を包含し、「AKIBA-POP」という新しいジャンルを作り上げてしまった先駆者だ。
以前であれば、ゲーム音楽はテクノ文化を、声優ソングはアイドル文化を引きずっており、ファンもアーティストもそれぞれ異なる集団を形成していたように思う。
MOSAIC.WAVのライブを見て感じたのは、主な客層である若いファンは楽曲がテクノ調であってもアイドル調であっても、分け隔てなく楽しんでいるように見えることだ。このフラットな感性には、動画サイトの普及も一役かっていると思う。過去の様々なコンテンツを並列して見ることができるし、異なるジャンルを組み合わせたマッシュアップが日常的に行われているからだ(同じことはPerfumeのファンにも言える)。
そういった新世代のファンと、彼らにふさわしい音楽を提供するMOSAIC.WAVが同時代に出会ったことは幸福だと言えるだろう。その相乗効果は、会場での盛り上がりから肌で感じることができる。終演後、多くの観客がとても満ち足りた表情をしていたのが印象的だった。
OP「Cagayake!GIRLS」、ED「Don't say "lazy"」、そして挿入曲「ふわふわ時間」もオリコン週間チャートでトップ5入りするなど、今年を代表するヒット作になりそうな『けいおん!』。早くもサウンドトラックが6月3日に発売されたので紹介しよう。全36曲を62分に収録する。
楽曲は作品のテイストにぴったりの、まったりと和める曲、軽やかで爽快な曲、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しげな曲などが中心だ。ピアノ、オルガン、マリンバなど「学校の音楽室」を思わせる音色が多用されているのは偶然ではないだろう。また、勇壮なラッパや壮大なストリングスなどの使用は避けており、音楽のスケールを限定したことで『けいおん!』らしい、心地よい箱庭空間のような雰囲気が際だっていると思う。
音楽を担当した百石元(ひゃっこく・はじめ)は元々はギタリストとして世に出たミュージシャンで、すでに音楽歴25年を数える大ベテランだ。国内の著名アーティストとのレコーディングやツアーを数多くこなした後に渡米し、アメリカでは主にジャズ畑での活動を行う。一方で自身のソロではニューエイジやアンビエント系の楽曲を発表するなど、多彩なスタイルを操るのが特徴だ。
サントラの収録曲でいうと「Morning dew」にはフュージョンの要素が感じられるし、「Small flashing」の小気味いいオルガンとウォーキングベースはなかなかにジャズ的。さわ子先生がメインの5話ではコテコテのヘヴィメタルが多用されていたが、この辺りの曲にはギタリストとしてのセンスが存分に発揮されている。総じて作曲者の多彩なキャリアが作品によくマッチしていると言えるだろう。
お次はこちら。5月13日に発売された『天元突破グレンラガン 螺巌篇』サウンドトラック・プラスだ。4月25日より公開中の劇場『グレンラガン 螺巌篇』のため、岩崎琢が新たに書き下ろした3曲を収録。サントラのシングルというのも近年では珍しいケースだ。新曲だけをパッケージしてリリースしてくれるのは、TV盤のサントラをすでに持っているファンにとってもありがたいことだろう。
1曲目「そのまま黙って燃えてくれ〜天におわす神」はスクラッチサウンドにオペラがのり、ストリングが包み込むという岩崎琢得意のミクスチャー。「お約束と言う事で、ひとつ」はしっとりと包み込むようなストリングスが美しい。3曲目「俺の×××は宇宙一」は、お馴染みの「Row Row Fight the Power」の掛け声で始まるヒップホップ曲。シンプルなバックにL-VOKAL(彼はこのリリックを書くためにTV『グレンラガン』全話を視聴したそうだ)のソリッドなラップが乗る。間奏はストリングスがアラブ風のメロディを奏でるエキゾチックな展開で、再びラップを挟んだあと「仕方ねえ!1分20秒だけ媚びてやる」などでお馴染みの勇壮なテーマがリプライズされる。ここで劇場で感じたアツい記憶を呼び覚まされた人も多いだろう。
TV版のサントラを持っていない人には『グレンラガン』BGMの入門編として手頃なお値段であるし、岩崎琢の音楽に興味がある人の「最初の1枚」にもおすすめできるCDだ。
(価格はすべて税込)
(09.06.08)