アニメ音楽丸かじり(14)
7月からの新OP・ED特集!(その1)

和田 穣

 7月7日、さいたまスーパーアリーナにて「超時空七夕ソニック」に参加してきた。7時きっかりに開演、10時終演という3時間の長丁場でしかもMCがほとんどなし! 膨大な楽曲ストックを持つ菅野よう子ならではの濃密なコンサートとなった。
 渡辺信一郎監督の手によるオープニング映像の後は、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』からの「トルキア」でライブがスタート。シートベルツのリズムセクションが登場し、菅野よう子はグランドピアノを操る。
 スポットライトを浴び、May'n、中島愛、坂本真綾、ORIGA、山根麻以の5人が揃って登場し、会場にどよめきが起こる。てっきりゲストシンガーは自分の持ち歌だけを交互に歌うのかと思っていたので、いきなりのこの豪華ハーモニーは予想外だった。その後も5人は多くの曲に登場し、持ち歌以外ではコーラスをとったり、ダンスやアクションで会場を盛り上げたりと大活躍していた。
 2曲目も同じく『攻殻SAC』からOP「inner universe」。ORIGAのヴォーカルに坂本真綾のコーラスが絡むという、まさにこの会場でしか聴けないオリジナルバージョンだ。3曲目は『マクロスFrontier』からOP「ライオン」。もちろんMay'nと中島愛のデュエットで、会場もヒートアップする。全体的に『マクロスF』楽曲は会場の反応がよく、ファンの多さがうかがえた。
 ここでシートベルツのブラスセクションが登場。「Want It All Back」「What Planet Is This ?」とアップテンポのファンキーなナンバーが続く。その後の「タチコマの家出」「はとどけい」「Cat Blues」はパフォーマンスタイム。ひよこに扮したダンサーが登場し、菅野本人はリコーダーを吹いたり、踊ってみたりと会場を和ませる。
 「be human」でScott Matthewが登場し、渋い歌声で堂々と歌い上げた後は、坂本真綾のアカペラによる「tune the rainbow」を挟み、『MACROSS PLUS』から同じくアカペラで始まる「Voices」だ。歌ったのは中島愛で、オリジナルの新居昭乃バージョンにも劣らない透き通るような歌唱だった。さらに「ダイアモンドクレバス」「gravity」と菅野よう子のバラードにおける代表曲が続き、会場は感動的なムードに包まれる。
 コンサートの盛り上がりが最初のピークに達したのは、坂本真綾のデビュー曲「約束はいらない」(『天空のエスカフローネ』OP)。曲の途中でエンドステージに陣取ったワルシャワフィルにスポットが当たり、荘厳なストリングスが流れ出すと、会場から凄まじい反響。菅野よう子は指揮台でオケを操る。「射手座☆午後九時Don't be late」「星間飛行」と『マクロスF』からの最新ヒットが続き、中島愛の「キラッ☆」で会場のテンションも最高潮にヒートアップする。
 本編のラストは「超特盛りメドレー」と題した18曲にも及ぶ長大なメドレー。「創聖のアクエリオン」「What 'bout my star?」「プラチナ」「rise」「奇跡の海」「蒼のエーテル」「指輪」と新旧の代表曲を織り交ぜた圧巻の内容だった。ただいずれも1コーラス程度であったため、「もっと聴きたい!」と思ってしまったのも確かではあるのだが。
 アンコールは「Yo Pumpkin Head」そして遂に出た「Tank!」(『カウボーイ ビバップ』OP)で異様なまでの盛り上がり。シートベルツといえばまずはこの曲であり、これを聴くために会場に来た人も多かったことだろう。
 続いては『エスカフローネ』『∀ガンダム』『アクエリオン』のBGMを中心としたワルシャワフィルのメドレー。さすが長年にわたって菅野楽曲を演奏してきたオケだけあって、隅々にまで配慮の行き届いた充実の演奏だった。
 まさかのワルシャワフィル版「SMS小隊の歌」で爆笑の渦を巻き起こした後は、菅野によるこの日唯一のMC。相変わらずの可愛らしい声に反して、Scott MatthewとSteve Conteには英語で、ワルシャワフィルにはポーランド語で謝辞を述べるなど才媛ぶりを見せる。
 そして「アナタノオト」では中島愛と会場が一体となった大合唱。ここで大団円かと思いきや、最後の最後でサプライズがあった。『∀ガンダム』から「MOON」が披露され、謎に包まれていたGabriela Robinその人が初めてステージで歌声を披露したのである! その正体について語るのは野暮だろうから、会場に来た人だけの楽しみとさせておいていただきたい。
 以上、大興奮、大満足の3時間だった。このようなライブはもう2度と見れないのではないか、そう思わせるほどゴージャスな、極上のエンタテインメントである。菅野よう子の豊かな才能と、それを支える素晴らしいミュージシャン、そして菅野の音楽を愛するファンが一体となった幸福な一夜となった。
 特に5人の歌姫は、持ち歌以外にも多くの楽曲を担当し、リハーサルはかなり大変だったと思う。忙しい中、たった一夜のコンサートのために多くの時間を割いたのは、それが「菅野のため」だったからに他ならない。オーケストラを含む数多くの出演者、数十名ものスタッフが関わった一大イベントだったが、「菅野へのリスペクト」を皆が共有していたからこそ、成功裡に幕を閉じたのではないかと感じた。

 さて今回は7月から始まった新番組の主題歌の中から、気になる作品をピックアップしてみようと思う。まず言いたいのは今期のアニメ主題歌にはいい曲が多い! ということ。話題性のある曲やクオリティの高い曲が揃っていて、とても1回では紹介しきれないのだ。そこで今回はまず第1弾として、7月下旬にリリースされた発売済みのCDから3点を紹介する。8月に発売予定のCDは次回に取り上げる予定だ。

 フジテレビNOISE枠の新番組は、志村貴子原作・カサヰケンイチ監督による『青い花』だ。女性同士の恋愛に踏み込んだいわゆる「百合」的な作品。キャラクターの細やかな心理描写を得意とする志村貴子の原作と、『ハチミツとクローバー』『キミキス pure rouge』などで恋愛ものに定評のあるカサヰ監督との相性は、放映前の予想どおりに良好だと感じた。
 OP主題歌は空気公団が担当。すでに10年以上の活動歴を持つグループだが、アニメの主題歌はこれが初めてとなる。作品名そのものをタイトルに冠しただけあって、作品のテーマをよく咀嚼して、歌詞の短いセンテンスに凝縮している印象だ。冒頭の「君がいてよかった」という言葉は、主人公ふみとあきらの間にかよう気持ちを代弁しているかのよう。
 曲調は、荒井由実時代のユーミンを思わせる歌声とニューミュージック的なサウンドに、10ccのような美しいコーラスワークが映えるバラードだ。CDの価格がやや高いが、これは4曲入りのミニアルバム仕様となっているため。ちなみに表題曲以外の3曲もなかなかの仕上がりである。

『青い花』OP「青い花」(空気公団)

LASM-4021/2,000円/ランティス
発売中
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 TBS系列で放映が開始された『大正野球娘。』は、神楽坂淳のライトノベルを原作とした新番組だ。木曜深夜枠で関連楽曲が続々とヒットを記録した『けいおん!』の後番組だけに成功が期待されていると思うが、OP主題歌はそれに応えるだけのキャッチーな楽曲となったのではないだろうか。
 この曲の特徴は、実に豪華な制作陣を揃えているということ。作曲を担当する服部隆之は、本作ではBGMもあわせて担当。かつて劇場『スレイヤーズ』シリーズや『機動戦艦ナデシコ』の音楽で名を馳せたが、ここ数年はアニメから遠ざかっていただけにこの起用は嬉しい限りだ。
 作詞はCooRieのヴォーカルrinoで、『成恵の世界』OP「流れ星☆」や『美鳥の日々』OP「センチメンタル」などの代表曲を持つ。デビュー当時から作詞は自身で行っており、キャラクターソングを中心に提供曲も数多い。
 編曲は大久保薫。作編曲を手がけた『ネギま!?』OP「1000%SPARKING!」や『みなみけ』OP「経験値上昇中☆」のほか、編曲のみを担当した『魔法先生ネギま!』OP「ハッピー☆マテリアル」や『舞—乙HiME』ED「乙女はDO MY BESTでしょ?」などこれまで多くの名曲を手がけてきた。
 本作のOPもこれらの大久保楽曲と同様に、明るくはじけるような曲調、ストリングスを活かしたゴージャスできらびやかなサウンドが特徴だ。コンガのリズムも軽快で夏らしく、レジャーやドライブのお供にもおすすめできる。

『大正野球娘』OP「浪漫ちっくストライク」(鈴川小梅、小笠原晶子、川島乃枝、宗谷 雪(CV:伊藤かな恵、中原麻衣、植田佳奈、能登麻美子))

LACM-4628/1,200円/ランティス
発売中
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 チュンソフト伝統のサウンドノベルゲーム最新作で、「日本ゲーム大賞2008」フューチャー部門を受賞するなど評価の高いWii用ゲーム「428〜封鎖された渋谷で〜」。この作品には2本のボーナスシナリオが収録されており、そのひとつをTYPE-MOONが手がけたことが話題になった。このシナリオを原案に制作されたアニメが、新番組の『CANAAN』だ。
 制作は富山県に本社を構えるピーエーワークスで、『true tears』に続くTVシリーズ第2弾となる。武内崇の画風を忠実に再現したキャラクター描画は、TYPE-MOONファンにとっても満足度の高い仕上がりだろう。
 OP主題歌「mind as Judgment」を歌う飛蘭(フェイラン)は本盤がメジャーデビュー。これまでは主にPCゲームの楽曲を中心に活動してきたほか、『喰霊—零—』の第1話で使用された挿入歌「Dark Side of the Light」を担当し、5月3日に行われた「喰霊—零— THE LIVE」にも出演している。
 楽曲は作詞:畑亜貴、作編曲:上松範康(Elements Garden)というヒットメーカーコンビによる布陣であり、こちらも納得の仕上がりではないだろうか。ヘヴィなディストーションギターを中心としたデジロックで、随所にレゾナンスの効いたシンセが入る。目まぐるしいまでにテンポが早いのが特徴で、たたみかけるような超高速のストリングスアレンジは上松範康ならでは。彼の代表曲である『魔法少女リリカルなのはA’s』OP「ETERNAL BLAZE」にも負けないほどハイテンションの1曲だ。

『CANAAN』OP「mind as Judgment」(飛蘭)

LACM-4630/1,200円/ランティス
発売中
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(価格はすべて税込)

(09.07.28)