アニメ音楽丸かじり(15)
7月からの新OP・ED特集!(その2)
和田 穣
夏の新番組の中で個人的に注目しているのが『化物語』だ。西尾維新の原作、新房昭之監督にシャフトという制作陣が魅力的なのは勿論、音楽担当に神前暁が起用されたのも気になるところ。
これまでは『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『かんなぎ』『空を見上げる 少女の瞳に映る世界』など京都アニメーションおよび山本寛監督の作品を主に手がけてきた彼が、シャフトと初のタッグを組む事でどのようなケミストリーが生まれるのか、個人的にも興味津々なのである。
まだ放映の途中ではあるが、今のところこの組み合わせはよい方向に転がっており、神前暁にとっても新境地を切り開く作品となりそうだ。特に、多くの楽曲でミニマル・ミュージック的なスタイルが採用されているのには驚かされた。TVアニメの劇伴としてはあまり前例がない、野心的な試みと言えるだろう。
ミニマル・ミュージックとは、あるフレーズを何分も(時には何十分も)執拗に繰り返し、楽器を増減したり旋律を追加しながらゆっくりと変化していく音楽スタイルのこと。繰り返し効果による没入感と、重層的に折り重なるリズムのテクスチャーが持ち味だ。映像音楽では、映画「エクソシスト」のテーマ曲や『風の谷のナウシカ』のオープニングでの使用例が有名だ。
僕が見た印象では、『化物語』の特徴である「たたみかけるような会話劇」にミニマル・ミュージックはよくマッチしている。会話を邪魔する事もなく、むしろ非日常的なまでに饒舌な会話の応酬に、逆にある種のリアリティを与えているかのようにも思える。
なぜ本作において神前暁の楽曲がこれだけ効果的に機能しているのか、その映像論・音楽論的な背景についてはまだ上手く言葉にまとめるまでに至っていない。サントラ発売の折にでもまた改めて特集してみたいと思う。
さて、その『化物語』のエンディングテーマ曲「君の知らない物語」が8月12日にリリースされる。楽曲制作を担当するsupercellは「メルト」「ワールドイズマイン」「ブラック★ロックシューター」などの初音ミクを使用したオリジナル曲が、それぞれニコニコ動画で100万ビューを超える人気を博したクリエーター集団。なお、これらの楽曲を収めたデビューアルバム「supercell」は10万枚以上のセールスを記録した。ヴォーカルを担当するnagiは「ガゼル」の名義でも知られ、こちらもニコニコ動画で人気の高い歌い手だ。
楽曲はロックサウンドを基調にしながらもピアノが清涼感を演出しており、爽やかなチューンに仕上がっている。nagiの繊細で透き通るような声が、歌の主人公となる女の子の気持ちを丁寧に綴っていくのが好印象だ。織姫と彦星、夏の大三角など天体観測をモチーフにした歌詞も夏っぽさ満点であり、王道的な青春ソングとなっている……というのがTVサイズでの印象だが、フルバージョンを聴くと実は女の子の視点は未来にあり、思いを伝える事ができなかった「あの夏」を回想して歌っていたという事がわかる。タイトルのとおり物語性を重視した楽曲であり、全体をとおして聴く事でより深い印象が与えられると思う。
初回限定版にはビデオクリップを収録したDVDが付属するので、購入を検討している方は早めに入手しておくとよいだろう。
『化物語』ED「君の知らない物語」(supercell)
通常盤:SRCL-7081/1,223円/ソニーミュージックエンタテインメント
8月12日発売予定
[Amazon]
現在放映中の『うみねこのなく頃に』のOP主題歌を歌うのは、原作ゲーム版の主題歌「うみねこのなく頃に」も担当している志方あきこ。2001年に同人サークルVAGRANCYでキャリアをスタートさせ、現在までに同人CDを13作、メジャーでのアルバムを5枚発表している。作曲・編曲・歌唱を1人でこなす多才なアーティストだ。
本曲の民俗音楽的なリズムと多重録音による荘厳なコーラスは、梶浦由記や河井英里の作風との近似性も感じさせるが、歌詞は造語ではなくれっきとしたイタリア語。それも『うみねこ』の作品内容を踏まえたオリジナルの歌詞となっているので、興味のある方は調べてみると面白いだろう。
志方あきこ作品の最大の特徴である緻密なコーラスワークは、独力で数十、数百のオーバーダビングをこなし、混声合唱のように聞こえる部分も本人の歌声を重ねたものだという。制作時の苦労やかかった手間暇は恐らく大変なものであっただろう。海外ではヴァレンシア、アディエマスといった先行事例があるが、日本では彼女がこの手法の第一人者ではないかと思う。作品の持つゴシック・ホラー色をさらに高めた圧巻のコーラスを、ぜひ一度耳にしてみてほしい。
人気ゲーム「THE IDOLM@STER」の星井美希役で知られる声優・長谷川明子のデビューシングルは、現在放映中の『アラド戦記 スラップアップパーティー』の第2クールED曲となっている「LEVEL∞(インフィニティ)」だ。
なんといってもこの曲のウリは、「聖剣伝説」「ロマンシング サ・ガ」「カルドセプト」など数多くのゲーム音楽を手がけてきた伊藤賢治の作曲、そして「ファミソン8BIT」シリーズを手がけたKPLECRAFTによるピコピコ感満点のサウンドだ。これは実際にファミコン実機から収録されたもので、現代の耳で聞いても太く伸びのあるサウンドは、ファミコンの音源がいかに魅力的だったかという事がわかる。
これら個性的なスタッフのチョイスは、『アラド戦記』の原作がゲームであること、そして過去に「ファミソン8BIT」で「THE IDOLM@STER」を取り上げた事がきっかけとなったのではないかと思う。ゲーム用語を随所に散りばめた歌詞、RPGの戦闘シーン曲を思わせる曲調も面白い。「ゲーム音楽とポップスの融合」というコンセプトを、高い完成度で具現化した斬新なスタイルの音楽だ。
(価格はすべて税込)
(09.08.10)