アニメ音楽丸かじり(38)
manzoの初アルバム、ジブリのマリンバカバー集が発売!
和田 穣
珍しく夏風邪をこじらせて、2日間ほど寝込んでしまった。こういう時は買い溜めしてあったBDの消化に充てるのがいいだろうと、TOTOのライブ、Suaraのライブを視聴して大いに満足する。いい音楽を聴くと、身体的なコンディションが最悪でも少しは元気が出てくるから不思議だ。それに音楽ライブというものは、BDの高画質・高音質のメリットを享受しやすいコンテンツではないかと思う。
そして、ミュージックBDで過去最高の売上を記録したという「けいおん! ライブイベント〜レッツゴー!〜」も視聴。個人的には作品の大ファンというほどではないが、それでも強く印象に残る内容だった。声優さんによる楽器演奏はわずか2曲だが、そこに至るまでの努力や重圧を想像すると、あふれ出す涙を抑えきれなかった彼女達の気持ちはよく分かる。
よく「ライブは一期一会」と言うけれど、職業音楽家は同じ曲を毎日のように繰り返し演奏するのが仕事だから、長期ツアーではどうしても慣れや弛緩が生じてくる。一方で『けいおん!』のライブイベントは横浜アリーナ公演の1回のみ。声優さん達のひたむきな演奏には、職業音楽家では出せない一発勝負の緊張感と清々しさがあった。どちらが上というものではなく、プロ野球と高校野球の違いのようなものだ。
さて今回は、いつも紹介しているアニメサントラとは、ちょっと毛色の違う作品を2点取り上げてみたい。
『げんしけん』『天体戦士サンレッド』主題歌などで知られるmanzoのアルバム「大役萬」が8月11日にリリースされる。過去に萬Z(量産型)としていくつかCDを出しているが、manzo名義ではこれが初のフルアルバムだ。レコード会社のご厚意でサンプル盤をいただいたのだが、manzoの多芸多才ぶりとサービス精神、そして昭和期のTV番組へのオマージュが詰まっていて楽しいアルバムだった。
内容はもちろん『サンレッド』主題歌の「溝ノ口太陽族」「続・溝ノ口太陽族」(USA版のほう)を含むほか、初CD化の『秘密結社 鷹の爪カウントダウン』ED曲に加えて、書き下ろしの新曲9曲を収録する。『サンレッド』で主役を務めた高木俊を始め、岩田光央、山口理恵といった声優とmanzo本人が共演するショートコント「今夜は決めてヤる!」でも笑わせてくれる。
タイトル曲「大役萬」は麻雀をテーマにした歌詞に、『サンレッド』でお馴染みとなった戦隊ものチックな曲調。インストの「哀しき刑事BURAI-MAN」は、「太陽にほえろ!」「大都会」あたりを連想させる哀愁のトランペットが可笑しい。ラストの「萬チェ☆大歌謡祭」は、いかにも昭和の歌謡番組っぽいゴージャスな音楽に乗せて、manzoがスタッフクレジットを読み上げるという趣向だ。現在30代以上の、昭和期のTV番組で育った世代には、ニヤリとさせられる曲調やアイディアがたっぷり詰まった作品だと思う。興味がある方は、公式サイトで収録曲を試聴できるのでチェックしてみてほしい。
お次はマリンバ奏者2人とパーカッションによる女性ユニット、minimumsによるスタジオジブリ作品のカバーアルバム「ジブリの森〜山本二三の世界〜」を紹介しよう。ジブリ関連楽曲をカバーしたアルバムは、それこそ山のようにリリースされているが、美術監督の名を冠したCDというのはなかなかに珍しい。山本さんがminimumsのライブを見てそのサウンドに惚れ込み、この企画が実現したのだとという。ブックレットには本人監修のもと、『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』などの背景画も使用されている。
収録曲は「君をのせて」「となりのトトロ」「もののけ姫」「カントリーロード」といった主題歌のインストアレンジが中心。他に『風の谷のナウシカ』『紅の豚』などからも劇中曲がピックアップされている。
「ジブリの森」という副題は伊達ではなく、マリンバ2台による柔らかで奥深い音色は、まさに緑深い森林そのものといった雰囲気がある。多くの作品で森林の表現に力を入れてきた、山本二三の背景画のイメージにベストマッチの楽器編成ではないかと思う。
(価格はすべて税込)
(10.07.20)