アニメ音楽丸かじり(46)
遂に劇場公開!『マルドゥック・スクランブル』特集
和田 穣
OVA『とある科学の超電磁砲』OP主題歌「future gazer」が10月13日に、現在放映中の『とある魔術の禁書目録II』OP主題歌「No buts!」が11月3日に相次いで発売され、狙ったのかは分からないが、競作のようなかたちになった。同じ世界観を共有する姉妹作品(本編とスピンオフ)であり、主題歌もトランスの要素を取り入れたポップスであるところは共通しているが、その曲調はガラリと違うのが面白い。
flipSideの「future gazer」は、これまでの『超電磁砲』主題歌の路線をきちんと継承した、メロディアスでポップな楽曲。僕はOVAを購入したのだが、OP映像も長井龍雪監督らしい丁寧な演出で、これまで以上にいい出来だと感じた。初回限定盤にはアーティストPVを収録したDVDが付属しており、エジプトロケを敢行したゴージャスな内容。flipSideのPVではお馴染みの、特別ゲストの登場もあるぞ!
川田まみが歌う「No buts!」はイントロのド派手なシンセからして、なかなかに過激なチューンだ。1期シリーズの「masterpiece」もアニメ主題歌としてはかなりアグレッシブだったから、予想外とまでは言えないのだが、ライトでポップな『超電磁砲』と比べるとその違いが際だつ。僕は勿論こちらも大好きだ。同じく初回限定盤には、アーティストPVを収録したDVDが付属する。
OVA『とある科学の超電磁砲』OP主題歌「future gazer」(flipSide)
初回限定盤:GNCA-0181/1,890円/ジェネオン・ユニバーサル
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通常盤:GNCA-0182/1,260円/ジェネオン・ユニバーサル
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『とある魔術の禁書目録II』OP主題歌「No buts!」(川田まみ)
初回限定盤:GNCV-0027/1,890円/ジェネオン・ユニバーサル
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通常盤:GNCV-0028/1,260円/ジェネオン・ユニバーサル
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いよいよ11月6日より劇場公開がスタートした『マルドゥック・スクランブル 圧縮 The First Compression』。原作は『蒼穹のファフナー Dead Aggressor』の脚本でもお馴染みの冲方丁によるSF小説。2003年に原作が刊行されてからはや7年が過ぎ、一度はOVAが制作中止になった事もあった。ファンにとっては本当に待ちに待った映像化だと言えるだろう。原作3巻を、劇場映画3部作として順次公開する事が決まっている。
サントラは10月6日とかなり早めにリリースされている。内容は42分で全26曲収録とやや少なめ。映画の上映時間が65分と短いことも関係しているのだろう。初回生産分には外箱がつき、本編カットを掲載した32ページのフォトブックが封入される。
音楽を担当したのはコーニッシュ(Conisch)。これまでに『ひとひら』『鉄のラインバレル』『ヘタリア Axis powers』などを手がけてきた、29歳の若き作曲家だ。ピアニストとしての活動歴も豊富で、今回の『マルドゥック』でも自身のピアノをフィーチャーしているほか、シンセ演奏やプログラミングも自ら行っている。
『マルドゥック』のSF設定はなかなか個性的でユニークだ。これまで多くのサイバーパンクSFでは、身体機能の拡張や、人体とコンピュータネットワークとの接合というテーマを扱ってきた(勿論『マルドゥック』もその例外ではない)。インターフェースとしては、脳や脊髄を始めとする神経系を充てる事が多かったが、『マルドゥック』ではそれが「人工皮膚」に由来するというところに独自性がある。サイバーパンク史において「皮膚感覚の拡張」という新しい分野を切り開いた作品だ。それだけに、ありきたりなSF的ビジュアルでは物足りないし、音楽にもそれまでにない独自性を期待していた。コーニッシュの楽曲は、どうやらその期待に応えてくれそうだ。
PVでもお馴染みの1曲目「The Preface of Mardock Scramble」は本作を象徴する楽曲。スリリングなストリングスのフレーズと、目まぐるしく変化していくコードが印象に残る。2曲目で主人公・バロットのテーマ曲「Balot-The little girl in the huge city- 」は、ノスタルジックなピアノバラードで始まりながら、途中からミニマルミュージック風に展開し、ヘリコプターの回転音やバグパイプ風のソロが入るという凝った構成。この複雑なハイブリッド感が『マルドゥック』の作風によく合う。作曲者が最も苦労したという、敵役・ボイルドのテーマ「Boild-Steps of darkness-」は、メタリックなノイズや怪しげなシンセ音が、ボイルドの屈折した性格を反映していて面白い。
そして注目の主題歌は、亡き本田美奈子が残した録音を元に新アレンジを施した「アメイジング・グレイス」。彼女のクラシックサイドの活動を代表する名曲であり、多くの人に知られる愛唱歌でもある。あまりによく知られた楽曲であるため、『マルドゥック』の個性・独自性をスポイルしてしまうのではないかと危惧していたが、コーニッシュの素晴らしい編曲により、映画のラストを飾るに相応しい、ドラマティックで壮大なナンバーに仕上がっている。
(価格はすべて税込)
(10.11.16)