アニメ音楽丸かじり(50)
昨年発売されたサントラCDを振り返って
和田 穣
今回が新年最初の更新、そして連載50回目の節目となる。皆さま今後ともどうぞよろしく。毎年1月上旬はCDのリリースが少ない時期で、あまり取り上げる作品もない。そこで今回は、昨年リリースされたサントラ盤の中から、特に印象に残ったものや、個人的に愛聴しているCDを紹介しながら、2010年を振り返ってみようと思う。
昨年のアニメ情勢について触れると、まず劇場アニメが充実していたことは特筆されるべきだろう。『涼宮ハルヒの消失』『劇場版銀魂 新訳紅桜篇』『TRIGUN Badlands Rumble』『ブレイクブレイド』『宇宙ショーへようこそ』『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』『Colorful』『REDLINE』『マルドゥック・スクランブル 圧縮』など、力作・話題作・ヒット作が次々に公開された。そんな劇場作品のサントラの中から、個人的に印象に残ったのは以下の3枚。それぞれ音楽のあり方が全く違う、というところに注目していただきたい。
劇場アニメ編
まず『Colorful』は、近年観た劇場作品の中でもトップクラスの出来映えだと感じた作品。原恵一監督らしい繊細で丁寧な演出が隅々まで行き渡り、「家族」という地味で難しいテーマを存分に描ききっていた。
本作のサントラは、作劇に見合った抑制の効いたもので、派手さやケレン味とは無縁の実直な音楽だ。楽器編成もピアノとストリングスを両軸に据えた、いたってオーソドックスなもの。音楽が自己主張する場面は少なく、あくまで映像が主体。劇伴としての機能を優先させた音作りだった。
『Colorful』の音楽が素晴らしいのは、映像から感じとれる温度と、音楽の持つ温度が常に一致していること。落ち着いた場面に、過度に情熱的な音楽を流して、ムードを損なうようなシーンがないのだ。これは監督と作曲家との意思の疎通が万全で、お互いの意図に齟齬がなかったということ。当たり前のようでいて、なかなか難しい事だと思う。
2つ目は『TRIGUN Badlands Rumble』。この作品は積極的に音楽を前面に出し、楽曲によって世界観を作っていくタイプのアニメだった。音楽を担当した今堀恒雄は日本を代表するギタリストでもあり、そのスキルを活かしたギターサウンドは、TV版OP曲「H.T.」に代表されるように、『TRIGUN』の作品世界には欠かせないものだ。
楽曲はギターと打楽器を中心に構成され、ブルース、ロック、カントリーなどを中心としている。湿り気を徹底的に排した作風は、西部劇を現代的に再構築したようで、まさに作品の方向性そのもの。音を聴いているだけで、荒涼とした風景や、荒くれ者が闊歩する情景が浮かんでくるようなサントラだった。
3つ目の『REDLINE』はさらに音楽の自己主張が強く、アメコミ調の濃厚な絵柄にも負けないだけの、強烈なインパクトがあった。レースシーンでは特に大音量で音楽をガンガン流しており、ある種コンサート映画のようにも見える作りだった。劇伴と主題歌を担当するのはジェイムス下地。CM音楽や歌ものを得意とする作曲家で、いわゆる劇伴らしい楽曲とは異質のサウンドを求めての起用だったのだろう。
メインテーマ曲「Yellow Line」では、延々と続く激しいビートと、目まぐるしく動き回るレースシーンの映像とがマッチし、巨大アリーナのライブ会場にいるような高揚感を感じさせてくれた。個人的には、2010年作品の中で最も「劇場で観てよかった」と感じた作品だ。
TVアニメ編
TVアニメにも色々と注目作があった。まずは2010年を代表する作品のひとつ、『刀語』のサントラだ。『化物語』のヒットで注目された西尾維新の原作であり、毎月1話を1時間枠で提供するという、珍しい放映スタイルでも話題になった。
音楽を手がけた岩崎琢は、『結界師』『天元突破グレンラガン』等で、様々な音楽スタイルのミクスチャーに挑戦し、アニメ劇伴の新しい可能性を追求してきた作曲家だ。打ち込みのビートに民族色あふれるヴォーカルを乗せ、時代劇でもありファンタジーでもあるような『刀語』の世界に、絶妙にマッチした音楽を提供した。
Blu-ray/DVDのCMでも頻繁に流れていた「Bahasa Palus」は、作品全体を象徴するような楽曲。オルティンドーを思わせる独特の歌唱は、ヴォーカリーズ(歌詞のない歌唱)を得意とする福岡ユタカが起用された。
個人的に2010年にもっともよく聴いたのが『FAIRY TAIL』のサントラ盤。「ケルト音楽+ヘヴィメタル」という個性的なスタイルで、重厚でアップテンポの音楽が目白押し。印象に残るメロディも多く、聴いていてテンションが上がる1枚だった。曲順はロックバンドのアルバムを模して構成されており、曲長も長めの作り。アニメ本編に詳しくない人でも、サントラ単体で楽しめるタイプの作風だった。
作曲を担当した高梨康治は、本作と『ハートキャッチプリキュア!』により、年間を通じてTVに楽曲が流れ、大活躍の1年となった。
2010年の最後を飾ったのが、12月29日に発売された『Panty & Stocking with Garterbelt』のサントラ。1月10日付のオリコンの週刊アルバムランキングで、10位に入るヒットとなった。
m-floの☆Taku Takahashiがプロデュースした楽曲の数々は、R&Bやヒップホップを中心とした洋楽色の強いもので、『パンスト』の特徴であるカートゥーン調の絵柄と相性もぴったりだった。
変身シーンに使用された「Fly Away」、ミュージッククリップ風にフィーチャーされた挿入歌「D City Rock feat. Debra Zeer」、ED曲「Fallen Angel」のサウンドは、英語詞をフィーチャーしたモダンな作風。日本人が作り出したものとは思えなかったし、それまでのアニメサントラの概念を大きく打ち破るものだった。
『Panty & Stocking with Garterbelt』The Original Soundtrack(音楽:TCY FORCE produced by ☆Taku Takahashi)
VTCL-60236/3,045円/フライングドッグ
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以上、劇場3作品、TV3作品のサントラを振り返ってみた。それぞれの作品ごとに、音楽の位置づけや役割が異なるだけでなく、楽曲の方向性がまったく異なるところが面白い。クラシック、ロック、カントリー、R&B、ヒップホップとなんでもアリである。
『REDLINE』『刀語』『パンスト』あたりのサントラを聴くと、もはやアニメのサントラで「これをやってはダメ」などというジャンルは存在しないのだと思う。多種多様なアニメの作風に応じて、劇伴も多種多様に進化している。2011年もさらに先鋭的な音楽で、我々を驚かせ、楽しませてくれる事を期待したい。
(価格はすべて税込)
(11.01.11)