アニメ音楽丸かじり(55)
カラフルで多彩な『夢喰いメリー』サントラ

和田 穣

 まずは、今回の大震災で被害を受けた方にお見舞いを申し上げたい。「東京タワーの尖端が歪んだ」という報道を聞いた時には、思わず2009年に放映された『東京マグニチュード8.0』を思い出してしまった。まさかあれに近い出来事がこんなに早く起きるとは、現実が想像を遙かに超えている。TVで被災地の映像を見た知り合いのご老人が「これほどのひどい破壊は、東京大空襲以来です」と言っていたのが印象的だった。
 twitterに掲載される被災地の画像に、アニメのDVDやグッズなどが写っていると、もう何ともやるせない気持ちになる。だが逆に考えると、好きなアニメの放映を心の支えにしている方もいるはずだ。そういった方々のためにも、各TV局には可能な範囲で放映を継続していただければありがたい、と切に願う。

 今月下旬のCDリリース予定だが、TVアニメサントラの新譜はゼロという寂しい状況。そこで今月上旬に発売されたCDの中から、前回の記事で紹介しきれなかった作品を紹介したい。
 まずは3月2日に発売されたのが、現在放映中の『夢喰いメリー』のサントラ盤だ。全24曲収録の77分。音楽担当は『おジャ魔女どれみ』『明日のナージャ』で知られる奥慶一。日本国内では後続番組『ふたりはプリキュア』のヒットの影に隠れてしまった印象もある『ナージャ』だが、海外での放映機会には恵まれており、同作のサントラは2008年のJASRAC賞国際賞を受賞している。
 作中の白眉は、6分にも及ぶ「メインテーマ」。バイオリンをメイン楽器に据えたコンチェルト風で、ドビュッシーやラベルを思わせるカラフルなオーケストレーションが魅力的。1話のアクションシーンを始め各話でたっぷりとフィーチャーされており、本作を象徴する楽曲だ。この曲を聴いて「おっ!? このアニメは音楽がいいかも!」と感じた方も多かったのでは、と予想する。
 クラシックとロックを融合させた「いざ!夢魔よ!!」「夢喰いメリー」が戦闘シーンなどの要所を締め、「エルクレスの歌」「メリーと夢路」では幻想的なフルートソロがフィーチャーされている。本作は幻界や白昼夢など夢の世界が重要なモチーフとなっているが、視聴者を現実世界から夢に誘う役割を、フルートが担っているようだ。
 4曲目「イチマ」では琵琶と尺八の共演、7曲目「妖気と決意」はテクノ調、9曲目「メランコリー」は、スクリャービンを思わせるモダンで神秘的なピアノソロ、17曲目「エルクレスの恐怖」はわらべうた、20曲目「白昼夢」はスティーブ・ライヒの合奏曲のようなミニマル風。恐ろしく曲調の幅が広いが、それでいていずれも付け焼き刃に陥ることもなく、総じてクオリティが高い。作曲者の豊富な音楽知識と、豊かなアイディアが際だつ内容となっている。また、生楽器をたっぷりと使っており、豪勢でバラエティ豊かなサウンドを楽しめる1枚でもある。

『夢喰いメリー』オリジナルサウンドトラック(音楽:奥慶一)

PCCG-1156/3,000円/ポニーキャニオン
発売中
[Amazon]

 近年ではアニメの主題歌も、1クール内に目まぐるしく変わるケースが増えており、音楽スタッフもさぞや大変だろうと思う。神前暁が全主題歌を担当した『化物語』、ニコニコ動画でエンディング曲を公募した『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などの例もあるが、『刀語』も全12話にそれぞれ固有のエンディング曲が流れる、という贅沢な作りだった。
 その中から第1話〜第6話までのエンディング曲と、とがめ(田村ゆかり)、七実(中原麻衣)による新録のキャラクターソング2曲を収録した『刀語』歌曲集 其ノ壱が3月2日にリリースされた。全8曲収録で37分。
 方向性は「ランティス所属アーティストの競演」とでもいうべき印象で、ゴシック調を持ち味とするALI PROJECTや妖精帝國が起用されているあたりが面白い。『刀語』の作風に寄り添うというよりは、個性の強いアーティストたちが『刀語』という素材をどう料理するか、を楽しむべきなのだろう。歌詞はそれぞれの話数で、七花と対決した剣客たちをテーマにしているのが特徴だ。

『刀語』歌曲集 其ノ壱

LASA-5058/2,500円/ランティス
発売中
[Amazon]

(価格はすべて税込)

(11.03.22)