アニメ音楽丸かじり(66)
『輪るピングドラム』ED主題歌は要注目!
和田 穣
前回の記事で紹介したRO-KYU-BU!のデビューシングル「SHOOT!」が8月17日にリリースされ、オリコンの週間ランキングで10位となかなか快調な滑り出し。近年ではアニメ主題歌がランキングに入る事も珍しくはなくなっているが、新ユニットでこの実績はなかなかのもの。Animero Summer Live 2011-Rainbow-にも出演を果たし、10月5日にはフルアルバム「RO-KYU-BU! 1st Album 『pure elements』」を発売予定。10月23日には東京公演、30日には大阪公演が決定しており、アニメ『ロウきゅーぶ!』終了後もかなり本気の活動を展開するようで楽しみだ。おそらくファンは放課後ティータイムやスフィアを好む若い層が中心になるだろうから、ライブはきっと盛り上がるはず。
先鋭的なビジュアルと奇抜な設定で話題の『輪るピングドラム』は、幾原邦彦監督が久々に手がけるTVアニメ。もちろんオリジナル作品であり、ハイセンスさと下品さが絶妙なバランスで混淆する幾原監督ならでのは異色作だ。
この作品のエンディング主題歌「DEAR FUTURE」が8月31日に発売される。担当アーティストはcoaltar of the deepers。「大槻ケンヂと絶望少女達」の楽曲や、『Paradise Kiss』『はなまる幼稚園』『デッドマン・ワンダーランド』などの劇伴を手がけたNARASAKI率いるグループだ。coaltar of the deepersは彼の幅広い活動歴の中でも、自ら作曲・打ち込み・ボーカル・ギターをすべて担当するなど「本丸」に位置づけられるグループであり、シューゲイザーにヘヴィロックの要素を加えた独特のサウンドは、音楽マニアやミュージシャンにも受けがいい。活動歴20年を超えるグループだが、EPやアルバムでのCDリリースを主軸にしており、シングル盤は意外にもこれが初めて。
「DEAR FUTURE」は浮遊感のあるコード進行やボーカルに、エッジの立ったギターを乗せた、まったく普段のNARASAKIサウンドそのまま。アニメ主題歌だからといって肩肘を張ったり、視聴者におもねるような様子は微塵もない。これは『輪るピングドラム』という作品だからこそマッチした手法だろう。今 敏と平沢進のマッチングに見られるように、異色の映像には異色の音楽がよく似合うのだ。ジャケットデザインも、アニメ本編で使用されている背景画像がバッチリと決まっていて格好いい。
本盤はマキシシングル扱いで、「DEAR FUTURE」のオリジナル版に加えてカバーバージョン3曲、リミックス3曲を収録した計7曲。カバーにはSECRET SHINE、Ringo Deathstarr、成田忍といった面々が参加し、リミックスは牛尾憲輔、堀江由衣、渋谷慶一郎、WATCHMANという個性的な顔ぶれ。WATCHMANはNARASAKIと共に『はなまる幼稚園』の劇伴を手がけたほか、これまでたびたび共演してきたアーティストだ。coaltar of the deepersのサポートメンバーだった時期もある。
ちなみに本作のオープニングを歌っているやくしまるえつこは、2010年に渋谷慶一郎と共演しており、相対性理論+渋谷慶一郎の名義でアルバムをリリースしている。その渋谷が、今度は堀江由衣をボーカルに据えたトラックを制作するのだから面白い。coaltar of the deepers、相対性理論ともにサブカル者や音楽マニアに受けがいいバンドだし、渋谷慶一郎も芸大出身ながら電子音楽にのめり込むタイプで、似たような傾向を持つ。
つまりNARASAKIは、本盤でサブカル・音楽マニアとアニメファンの橋渡しをしようとしているのではないか。その両方にアンテナのある彼だからこそ、可能なチャレンジであるように思う。おそらくは「大槻ケンヂと絶望少女達」が切り開いた、アングラ、アニメ、サブカル、アイドル声優が入り乱れるボーダレスな世界を、より一層推し進めようとしているのだろう。今後も彼の動向から目が離せなくなりそうだ。
(価格はすべて税込)
(11.08.30)