アニメ音楽丸かじり(75)
新春企画:サントラと主題歌から見た2011年
和田 穣
あけましておめでとうございます。2012年も「アニメ音楽丸かじり」をよろしく。
毎年1月上旬はCDのリリースが1年でも最も少ない時期のひとつ。紹介する作品もあまりないのが実情だ。そこで今回は新譜紹介ではなく、昨年のアニメ音楽界で印象的だったトピックを、昨年このコラムで紹介してきたCDと絡めながら振り返ってみたい。
2011年に目立ったのは、まず2010年に引き続いての高梨康治、梶浦由記の活躍だ。高梨は『NARUTO』の劇場版、『スイートプリキュア♪』のTVシリーズと劇場版をこなし、今やすっかり長期シリーズの中心スタッフの1人と言ってもいいだろう。バンドマン出身である彼のサウンドは、常にその中心にハードロックがある。『プリキュア』ではそこに煌びやかな音色や、爽快なコーラスを加えて作品性との擦り合わせを行い、『NARUTO』では和楽器とロックの融合を果たしてきた。作品のニーズと自らの個性を高い次元で融合できるところが、彼の人気の秘訣ではないか。
梶浦由記は3月に2枚目となるソロアルバム「FICTION II」を発表したほか、2007〜2010年までの長きに渡り関わった『空の境界』の音楽集をリリース。FictionJunction名義では、『セイクリッドセブン』主題歌「stone cold」を書き下ろした。そしてなにより2011年を代表する話題作『魔法少女まどか★マギカ』『Fate/Zero[第1期]』の2作品で劇伴を担当したことが特筆される。『まどマギ』ではKalafinaに提供したED主題歌「Magia」もヒットさせ、まさに絶頂期と形容できるような大活躍の1年だった。
一方で残念な出来事としては、2011年は菅野よう子のアニメ劇伴が『劇場版マクロスF 恋離飛翼〜サヨナラノツバサ〜』のみで、TVシリーズはゼロだったこと。今月から放映を開始した『アクエリオンEVOL』での復活を期待したい。
それから神前暁の体調不良による休業も、大いに心配させられた。休業前最後の仕事となった、TVアニメ『THE IDOLM@STER』OP主題歌「READY!!」が相変わらずキャッチーな仕上がりだっただけに、その存在の大きさを改めて痛感したものだ。年末にようやく発売された『化物語』の音楽集も印象深い。そしていよいよ今月スタートの『傷物語』から本格復帰となるようで、2012年も彼の音楽から目が離せなくなるだろう。
歌手としてすでに活躍していた黒石ひとみが(Hitomi)が、2011年の大作『ラストエグザイル ―銀翼のファム―』の音楽を担当し、いよいよ作曲家としての地位を確かなものにしたのも、記しておくべきだろう。歌手としてのスキルを存分に生かし、挿入歌やコーラスをふんだんに使ったスタイルは、新しい劇伴のかたちを世に示したのではないか。
主題歌の分野を振り返ってみると、まず印象に残るのがヒャダインの『日常』主題歌でのデビューだ。ニコニコ動画の常連投稿者でありながらプロの作曲家という、一昔前では考えられなかったスタンスは現代ならでは。これまで京都アニメーション×ランティスの作品では、『ハレ晴レユカイ』『もってけ!セーラーふく』など女性声優の斉唱スタイルの主題歌で一時代を築いたが、ヒャダインの起用によりこれを打ち破った点も高く評価したい。
もうひとつ印象的だったのが、『輪るピングドラム』のED曲としてcoaltar of the deepersが起用されたこと。NARASAKIは『さよなら絶望先生』以降、アニメ関連の仕事を多くこなしているため、人選としては不思議ではない。だがシューゲイザーという、ややマニアックなジャンルで活動するdeepersの名義で、アニメ主題歌を担当するというのは驚きだった。またリミックスのボーカルに堀江由衣を起用したのも、「絶望少女達」からの連続性を感じさせる。
田村ゆかりが『C3』オープニング主題歌「Endless Story」で、東洋的なロックサウンドに挑戦し、新境地を切り開いたのも印象的だった。これまでアイドルポップを中心に歌ってきただけに、従来と異なるファン層を開拓するきっかけになるだろう。
それでは最後に、2011年の「私的サントラベスト3」を発表したい。僕が昨年特に楽曲クオリティに感銘を受けたサントラをみっつ選んだもので、それぞれにランクの上下はない。
まず2月に発売された、劇場『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』のサントラ。音楽を担当したのは、元クライズラー&カンパニーの斉藤恒芳である。劇場『ファフナー』は小規模の上映だったため、やや地味な印象があるかもしれないが、このサントラはぜひチェックしていただきたい。
「わかりやすさ」を求められがちな劇伴の世界にあって、本作では敢えてストラヴィンスキーやショスタコーヴィチを始めとした、近現代のクラシック作曲家を思わせる緻密かつカラフルな作風を貫いており、その志の高さと技術の確かさを評価したい。
続いて3月に発売された『夢喰いメリー』のサントラ盤。音楽は『おジャ魔女どれみ』『明日のナージャ』で知られる奥慶一だ。こちらもフランス音楽風の「メインテーマ」を筆頭に、日本の伝統音楽風、スクリャービン風、ミニマル・ミュージック風と様々なスタイルを用いながら、それぞれを完全に自家薬籠中のものとしているところが素晴らしい。作曲者の豊富な音楽知識が垣間見える。
それでいて知性偏重に陥るところがなく、「メインテーマ」では万人に愛されるような美しいメロディを書いているし、いわゆる戦闘曲もクラシックとロックを融合した典型的なスタイルでありながら、美しさと激しさを両立させている。
11月にリリースされた『機動戦士ガンダムUC』サントラ第2弾は、前二者と違ってことさらバラエティ豊かな曲調や、珍しい音楽語法が駆使されているわけではない。あくまで正攻法であり、アニメ劇伴の王道的なスタイルだ。それでいながら随所に良質のメロディが散りばめられ、アニメ視聴後も印象に残る楽曲が多かった。楽器配置やシンセの音使いも練りに練られた印象で、作品の各場面におけるムードを、最大限に引き出す配慮がなされていたように思う。音質面での素晴らしさも特筆すべきだろう。
(価格はすべて税込)
(12.01.10)