アニメ音楽丸かじり(76)
『ラグランジェ』主題歌、『ドットハック』サントラが発売!
和田 穣
2年ほど前、『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』のCD紹介で、「宮川秦と羽田健太郎が相次いで亡くなったので、作曲は息子の宮川彬良に依頼するのではないかと思った」というような事を書いた。結局それは『復活篇』では実現しなかったのだが、今年はいよいよ現実になるようだ。新作アニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』の音楽に宮川彬良の起用が決定したのである。本作はTVシリーズとして作られているが、放映時期はまだ未定であり、まずは4月7日から順次劇場公開していくとのこと。「生前の父に教えを受けたことはほとんどない」と語る宮川彬良が、果たしてどのような『ヤマト』音楽を作り出すのか。実に楽しみだ。
さて今年最初に紹介するのは、年明け早々ながら「早くも2012年ベストソングが出てしまったか!?」と感じた1曲。現在放映中の『輪廻のラグランジェ』オープニング主題歌で、中島愛が歌う「TRY UNITE!」だ。エンディング主題歌「HELLO!」とのカップリングで2月1日にCDがリリースされる。初回限定盤にはアーティストPVを収録したDVDが付属予定だ。作品自体の好評もあり、今期の主題歌シングルの中でもヒット性の高い1枚ではないだろうか。
楽曲面ではなんといってもラスマス・フェイバーの起用に注目が集まる。スウェーデン人のミュージシャンで、20歳ごろまでジャズピアニストとして活動。その後ハウスミュージックに転向し、DJとして成功を収めた。菅野よう子をはじめ日本のアニメ音楽からの影響も公言しており、アニソンのワールドワイド化を象徴するような人物だ。アニソンをジャズアレンジでカバーした「プラチナ・ジャズ」シリーズでも知られ、中島愛の「星間飛行」も同シリーズで取り上げた縁がある。
「TRY UNITE!」もソフトで軽快なハウスビート、美しいストリングアレンジ、そしてモードを使った菅野よう子的なメロディラインと、ラスマス・フェイバーのバックグラウンドを融合させた1曲となっている。外国人が作ったとは思えないほど、日本のアニメ主題歌としてきちんと成立しているのは面白いところだ。ファルセットを駆使した中島愛のボーカルは、デビュー当時に比べると長足の進歩を見せ、もはやランカ・リーの幻影に縛られることもないだろう。
エンディング主題歌「HELLO!」はポップな曲調とタテノリのリズム、小気味いいストリングアレンジが初期の坂本真綾を思わせ、フライングドッグらしい楽曲。別売してもおかしくないクオリティで、カップリングしてくれるは嬉しいところだ。
『輪廻のラグランジェ』オープニング・エンディング主題歌「TRY UNITE!/Hello!」(中島愛)
初回限定盤:VTZL-36/1890円/フライングドッグ
通常盤:VTZL-35124/1365円/フライングドッグ
2月1日発売予定
[Amazon]
次に紹介するのは、1月21日に劇場公開されたばかりの『ドットハック セカイの向こうに』のサントラ盤だ。『.hack』シリーズ初の劇場長編であり、『.hack//G.U. TRILOGY』に続く3DCG作品となる。まもなく開始10年を迎える長期シリーズだが、今回はカタカナとなった作品表記、桜庭ななみ・松坂桃李・田中圭といった俳優陣のキャスト起用、柔らかいタッチのCGキャラクターと、ややこれまでと色合いが異なっている。ストーリーも、劇中のオンラインゲーム「THE WORLD」のプレーヤーが意識不明になる、という骨子は初期シリーズと同様だが、より現実世界でのトピックを豊富に盛り込んでいる。恋愛模様なども絡めており、若者同士の青春ドラマのような雰囲気もあるのだ。
そういった路線を踏まえて、音楽もピアノやアコースティックギターを用いた、シンプルで暖かみのある楽曲を多数収録。これらを日常シーンなどに配している。一方で「THE WORLD」のシーンではオペラ風のボーカリーズを多用し、荘厳な雰囲気を作り出している。日常とゲーム世界の劇的な切り替わりが、本盤最大の聴きどころだろう。
それから同作の主題歌で、KOKIAが歌う「光をあつめて」も同じく1月25日にリリースされる。先述した『ドットハック』の特徴にあわせ、この楽曲もピアノを中心としたシンプルなバックに、繊細に歌い上げるハートウォームなバラードだ。初期の『.hack』を彩っていた梶浦由記のサイバーなBGMや、主題歌「Obsession」などのSF調の世界とは正反対であり、本作での路線変更を象徴するような楽曲だろう。
(価格はすべて税込)
(12.01.24)