アニメ音楽丸かじり(78)
『とらドラ!』ベスト盤は大団円の1枚!
和田 穣
男性読者の皆さん、バレンタインの成果はいかほどだっただろうか。僕は……まあゼロではないのでよしとしておこう。アニメの企画盤などでクリスマスソングは定番のネタだが、バレンタインソングというのは意外に少ない。そもそも音楽業界全体でも、バレンタインソングの数はクリスマスソングを大きく下回る。近年だとPerfumeの「チョコレイト・ディスコ」(2007年)は楽曲・企画性ともなかなかに秀逸だったが、やはり定番といえばいまだに国生さゆりの「バレンタイン・キッス」(1986年)という事になるだろうか。『らき☆すた』におけるカバーで若いアニメファンにも広く知られているし、『テニスの王子様』では主要キャラ(男性!)が次々に本曲をカバーするという恐るべき企画があった(わざわざジャケットデザインまでオリジナル盤に似せている)。そんな中でも個人的にオススメなのが「THE IDOLM@STER」の水瀬伊織によるカバー。はじけるようにポップで跳躍の多いメロディと、釘宮理恵の甘いロリータボイスとの相性は完璧で、思わず悶え転がるほど極上の萌えソングに仕上がっている。聴覚上はオリジナルよりも1オクターブほど高く聞こえるが、実際のキーは1つ上がっているだけ。このあたりは釘宮マジックというべきだろう。
「THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 2 -SECOND SEASON- 01 水瀬伊織
COCX-36739/1,800円/コロムビアミュージックエンタテインメント
発売中
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今回紹介するのは、2月8日にリリースされた『とらドラ!』のベスト盤「√HAPPYEND」だ。発売後の紹介となってしまったにも関わらず、キングレコードの担当者が深夜にバイク便でサンプル盤を届けてくれた。実にありがたいことである。
CDは計15曲収録で61分。TVアニメオープニング主題歌の「プレパレード」「silky heart」、エンディングの「バニラソルト」「オレンジ」は勿論のこと、PSP版ゲーム「とらドラ・ポータブル!」から主題歌の「コンプリイト」と、同曲シングル盤のカップリング曲「プリーズ フリーズ」を収録している。そのほかWEBラジオ「とらドラジオ!」から「カ・ラ・ク・リ」「恋クラゲ」の2曲、2009年4月にリリースされたキャラクターソングアルバム(KICA-968)から大河・実乃梨・亜美が歌う「フラスコレーション」と、キャラクターソング5曲(大河・実乃梨・亜美・竜児・北村)も含まれている。
TVアニメ『とらドラ!』が放映を開始した2008年といえば、前年にネット上で話題になっていたPerfumeが、オリコンチャートで初の首位を獲得、さらには武道館公演を実現させ、いよいよ本格的にブレイクした年だ。テクノポップへの追い風の吹く中、『とらドラ!』のスタッフは、主題歌のみならず関連楽曲の多くにテクノポップ風の味つけを施していた。時宜を捉えた感性の鋭さもさることながら、アニメ・ゲーム・ラジオ・CDなどのメディア展開において、サウンド面で「『とらドラ!』と言えばテクノポップ」という統一感を演出した事は特筆に値するだろう。
主要な楽曲の多くを作詞した渡邊亜希子の貢献も大きい。「プレパレード」「フラスコレーション」に代表されるように、徹底して恋心にスポットを当てたテーマ性と、プレパラートやフラスコなど理科の実験道具を歌詞に持ち込んだセンス、女子高生らしい屈託のない言葉遣いなど、『とらドラ!』の作品性との相性は抜群だった。
そしてこのアルバムのために収録された新曲「√HAPPYEND」。タイトルからして、しっとりしたバラードを予想していたが、これが「プレパラード」「コンプリイト」のようにアップテンポで、早口の歌い回しが印象的なナンバー。あくまで明るく前向きでアグレッシブな曲調である。歌詞のテーマはこれまでの「恋」から遂に「愛」へ。「なりふり構わないくらいに愛してるって事なんだ」という歌詞の一節は、まさしく大河から竜児へのメッセージだろう。僕は初めてこの曲を聴いた時に、大河が顔を真っ赤にしながら竜児に愛を伝えるシーンが容易に想像でき、微笑ましさに笑いながらホロリと嬉し涙がこぼれてしまった。まさにハッピーエンド、大団円を体現するような1曲であり、『とらドラ!』の熱心なファンほど深い感興を覚えるのではないだろうか。
(価格はすべて税込)
(12.02.21)