アニメ音楽丸かじり(86)
『エウレカAO』は現代日本作曲界の縮図!

和田 穣

 現在放映中の『咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A』が、麻雀全国大会Aブロック準決勝を描いた第9話から俄然面白くなってきた。ついに打ち筋を見せた咲の姉、宮永照の圧倒的な麻雀力。そしてそこに果敢に挑む千里山高校の園城寺怜。病身の天才が、体力の限界を横目で睨みながら、全てにおいて自分を上回る強敵に挑む。これはまさに少年漫画を思わせるような熱い王道展開だ。
 音楽面での特徴と言えば、まずはエンディング主題歌の使い方。近年では複数の主題歌を揃えるTVアニメは珍しくないが、『咲-Saki-阿知賀編』では物語の内容や、麻雀の試合展開によってマイナー調でメロウな「Futuristic Player」と、明るくポップな「Square Panic Serenade」の2曲を使い分けているところに特徴がある。たとえば本編が重苦しい展開の時には前者を、希望を持たせる展開の時には後者を使うなどして、うまく余韻を残しているのだ(もちろん、これは前シリーズから引き継がれた伝統だ)。ちなみにED主題歌シングルには両方の楽曲が入っているので、安心して購入できるところもポイントが高い。
 劇伴では、シリーズのラスボス的存在である宮永照の登場シーンで、まるで怪獣映画のようにおどろおどろしい音楽や、戦争映画を思わせるダイナミックな音楽が流れるのが面白い。このあたり、来月のサントラ発売に合わせて語ってみたいと思う。

『咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A』ED主題歌「Square Panic Serenade」

LASM-4133/1,200円/ランティス
発売中
[Amazon]

 『エウレカセブンAO』のサントラ盤第1弾が6月27日に発売される。全30曲収録でOP主題歌、ED主題歌などは収録されていない。各楽曲はいずれも1分半から2分の尺にきっちり収められており、長尺の曲や効果音などは含まれていないのが特徴だ。
 本作は2005年に放映された『交響詩篇エウレカセブン』の続編だが、前作の佐藤直紀から、Nakamura Kojiへと音楽担当がバトンタッチされた。これまでSUPERCAR、iLL、LAMAなどで活動してきたミュージシャンで、アニメの劇伴はこれが初めての経験となる。バンドマン出身らしくロックテイストを前面に出した曲もあるが、ハウスっぽい打ち込みや、シンセによるトーンクラスター、ストリングスを絡めたバトル曲など、曲調のバラエティは実に幅広い。13曲目「Pied Piper Pipes <チーム・パイドパイパー2>」など、スティーブ・ライヒ風のミニマルミュージックもある。
 特筆すべきはストリングス主体のメロウな楽曲の美しさで、特に30曲目「Anma Maman <母>」は僕のお気に入り。3話で主人公・アオの母親であるエウレカが、空から降ってきたシーンの回想に使用された。シンプルで物憂げなサティ風の主旋律と、同じ音型を繰り返す対旋律の組み合わせがモダンな美しさ。吉松隆、久石譲、渋谷慶一郎などミニマルをその作風に取り入れて昇華させた、現代日本の作曲家との近似性を感じさせる。24曲目「Broken Wing <奪われる自由>」におけるピアノの耽美的な響きは、少し天門の作風を思わせるし、Nakamura Kojiが過去のクラシックの大家ではなく、同時代の作曲家やアニメ音楽を取り込んで自らのものとしているようで嬉しい。彼の今後の作品にも要注目だ。

『エウレカセブンAO』
ORIGINAL SOUNDTRACK 1
(音楽:Nakamura Koji)

SVWC-7860/3,150円/アニプレックス
6月27日発売予定
[Amazon]

(価格はすべて税込)

(12.06.19)