【特報部】「The Art of 宇宙ショーへようこそ」
マニア必見!草薙が企画編集した背景画集の魅力

中座洋次さん

 先日公開がスタートした劇場作品『宇宙ショーへようこそ』。舛成孝二の初劇場作品である本作は、盛り沢山な内容、充実したビジュアル、コアなファンもファミリー層も楽しめる内容。この夏の期待作だ。関連出版物も数点出ているが、その中でも目をひいたのが、本作の制作にも参加している美術スタジオの草薙が企画編集を担当した「The Art of 宇宙ショーへようこそ」上下巻だ。
 草薙は今までも、美術ボードや背景を収録したCD-ROMや画集を発行してきたが、今回は1本の映画の美術で全2巻の大ボリューム。しかも、美術ボードや背景だけでなく、メインスタッフのインタビューも掲載。場面設計の竹内志保によるレイアウトも大量に収録しており、レイアウトマニアにも見逃せない内容となっている。
 どういった経緯で、この本が刊行されたのか。草薙の中座洋次社長に話をうかがってきた。ちなみに、WEBアニメスタイルが草薙に取材に行ったのは、2001年の夏以来、2度目だ。


—— これまで出してきた草薙さんの本の中でも、今回の「The Art of 宇宙ショーへようこそ」は、特に力の入っている企画なんじゃないですか。
中座 『宇宙ショーにようこそ』は、うちで一番のベテランの小倉一男が美術監督として長く携わっていたんで、映画が完成したときには、こういった画集をぜひ出したかったんですよ。
—— 上下巻の大ボリュームの本になったのは、どうしてなんですか。
中座 いや、最初は全3冊で考えていたんですよ。映画の絵コンテが、地球編、月編、宇宙列車編、プラネッット・ワン編、そして最後は発動編っていう風にちゃんと分かれていたんで、それに合わせて3部構成で作ろうと思っていて。
—— 美術の本として3冊ですか?
中座 ええ。でも、出版元の光村推古書院さんから「いくらなんでも3冊はちょっと」と言われて、最終的には前後編の2冊になりました。出版社としては、これでもかなり思い切った構成らしくて、何とか1冊にまとめたかったみたいな事を話されてましたね。
—— 奥付をみると、光村推古書院は京都の出版社なんですね。草薙さんとは、どういう関わりになるんですか。
中座 うちの画集は、全て光村推古書院さんから出してもらっています。ちょっと長い話になりますけど、最初の本を出す前、背景の画集をテーマ別に出したいっていう企画を、色々な出版社さんにもっていった事があったんですよ。関東近辺で何社か打診してみたんですけど、あまり感触がよくなくて。そんな時に、うちの資料の中に光村推古書院さんの本があったんですね。京都をテーマにした薄手の写真集をよく出してて、写真の再現度もかなり綺麗だったんで、こういう本を出しているところなら、もしかしたら……とメールを出したら興味をもっていただけて。そこから担当者さんと色々遣り取りして画集を出していただけたんです。それからずっと、光村推古書院さんにはお世話になってます。
—— 最初に出されたのは、どの本になるんですか。
中座 ゲームの背景集の「ぼくのなつのやすみ美術館」です。(本棚から現物を持ってきて)これです。
—— 手頃な大きさで、可愛らしい本ですね。
中座 この本は、光村推古書院さんの提案で出したんですよ。いい本なんですけど、画集としてはちょっと弱いなというのがあったんですね。なので、今度はもうちょっと画集らしい立派な本を出したいって希望を出したら、「それでは売れないんじゃないか……」と、ちょっと引かれてしまいまして。
—— 商売的に厳しいと言われてしまったんですね。
中座 次に出したのは、シリーズで出している「背景画集 草薙」の1冊目なんですけど、画の2次使用に関して権利関係をクリアするのが大変で、かなり費用もかかったんですね。でも、どうしても出したかったんで、光村推古書院さんを説得するために、半分買い取るみたいなかたちで契約して出してもらったんです。

●「背景画集 草薙」1〜6の書影

—— 1冊目の画集は、自費出版のような感じだったんですね。
中座 そうですね。駄目で元々だし、ちょっと勝負にでてみようと思って。そうしたら、これが有り難い事にかなり売れたんですよ。それ以降は、画の素材を定期的に揃えて渡せば、費用を含めて光村推古書院さんが責任をもって出版してくれる、という事になったんです。
—— その流れで、この「The Art of 宇宙ショーへようこそ」があるわけですね。
中座 やっぱり何冊か出してきて実績ができたんで、この企画ものってもらえました。担当の編集者さんからも、「最初がこれだったら、これだけ豪華本で出せたかどうかは分からない」って言われてましたね。


●「The Art of 宇宙ショーへようこそ」上巻、本文より

—— 本の作り方としては、まず企画を立てて素材を出すのは草薙さんで、編集は光村推古書院さんと草薙さんの共同でやるかたちなんですか。
中座 そうですね。まず絵の素材と構成案を京都に送って、光村推古書院さんがレイアウトしたラフデザインが戻ってきたら、それにこうしたいっていう注文をつけさせてもらって。その時に、画につけるコメントを僕の方で書いたり、他の人に頼んだりもします。今回の『宇宙ショー』本では、関わっているスタッフが多いので、舛成(孝二)監督、石浜(真史)さん、竹内(志保)さん、あと、うちの美監の小倉のインタビューを入れました。
—— 確かに、今までの画集と比べて、読ませる内容になってますよね。
中座 「背景画集 草薙」シリーズは、やっぱり草薙だけってイメージになってましたけど、今回は完全に『宇宙ショー』に焦点を当てた作りになってますからね。外の会社の方の名前もちゃんと出しつつ、できるだけ多くの人に見てもらえればという気持ちで作っています。
—— ウェブの告知で、竹内さんのレイアウトが載ると書かれていて驚いたんですよ。僕らは線画もみたいですけど、背景会社が出す本にしてはちょっと珍しいなあと。
中座 草薙でも、ゲーム関係の仕事なんかでは、ちゃんと線画の背景も描いてるんですけど、どうしても画集だと背景だけを集めたいなって気持ちがあるんですよね。ただやっぱり、竹内さんの線画は魅力があるので、折角の機会ですし、できるだけ載せようと。それに、線画って余程の事がないかぎり見る機会がないじゃないですか。こうやって本に載せれば、結構貴重な資料になるかなと思いましたので。


●「The Art of 宇宙ショーへようこそ」に掲載されたレイアウト

—— マニア的にも、この線画は相当嬉しいですよ。
中座 そうですか(笑)。同業のアニメーターの方にも、「あ、ここまでやってたんだ」と思ってもらって、多少引きになると嬉しいですね。掲載した線画は、背景を起こす作業で使ったスキャンデータだと薄かったんで、印刷用にスキャンし直してもらってるんですよ。かなりクリアに線がでていると思いますよ。
—— 背景については、制作スタジオに渡した完パケデータを印刷に使っているんですか。
中座 そうです。ただ、実際の画面では、キャラクターを載せたときに監督や撮影さんの意向で画面を締めたりするんで、画集に載っているのは、実際の画面より若干明るくみえるかもしれませんね。
—— なるほど、なるほど。美術チームの完パケ状態のものを入稿しているから、実際の画面よりも若干明るいものが多いと。
中座 ええ。作業的な事でいうと、今回大きかったのは、映画の公開に間に合わせるように準備したってことですね。映画が終わって、みんなが忘れた頃に出すっていうのは避けたかったので。公開時にこういう画集を出すっていうのは、よくスタジオジブリさんがやっているじゃないですか。ああいうのって、やっぱり上手いなあと思っていたんですよね。かなり苦労しましたけど、無事出せてよかったです。


●「The Art of 宇宙ショーへようこそ」下巻、本文より

—— できあがった本をみて、手応えはいかがですか。
中座 制作中に考えていたアイデアが、かなり実現できた画集になったので満足してますね。さっき話したインタビューやレイアウトの掲載もそうですし、このプラスチックのカバーもちょっと工夫してるんですよ。画の構成上、本の形は横長にしたかったんですけど、やっぱり本屋さん的には縦置きにした方が何かといいらしいんですよね。だから、カバーにちょっと工夫をして。
—— あ、なるほど。横長の本を、書店や本棚では縦に置けるように、カバーの方を細工したわけですね。
中座 カバーに載せたキャラクターは、ウェブ告知用に石浜さんに描いていただいたものなんですよ。映画が完成して、時間の余裕があるときにお願いできたんでラッキーでした。色々な背景を合成したものに載せられるように、みんなが旅しているようなイメージでとお願いして描いてもらったんですけど、その絵を運良くカバーにも使う事ができて。この画は、草薙のサイトで購入してくれた人への特典ポストカードにも使わせてもらいました。

●KUSANAGIショップ購入特典のポストカード(3枚セット)

—— 今後も、本は作っていかれるおつもりですか。
中座 会社が続くかぎり、やっていきたいという気持ちはあります。最初に画集をだす理由として、数日かけて描いた画が、映像では数秒で流れておしまいなのは寂しいっていうのがあったんですよ。勿論、それがアニメの背景の宿命ですし、映像で感動してもらうのが一番なんですけど、画集というかたちで改めて背景を見てもらえると嬉しいなと。スタッフにとっても、こういう風にまとまると1つの喜びになるんですよね。1年に1冊でも、出版社さんが協力してくれる間はできるだけ出し続けていきたいです。


●書籍情報

「『宇宙ショーへようこそ』背景美術画集 The Art of 宇宙ショーへようこそ」上

光村推古書院/B5横・192頁/各3360円(税込)
[Amazon]

「『宇宙ショーへようこそ』背景美術画集 The Art of 宇宙ショーへようこそ」下

光村推古書院/B5横・192頁/各3360円(税込)
[Amazon]

●関連サイト
『宇宙ショーにようこそ』公式サイト
http://www.uchushow.net/

草薙公式サイト
http://www.kusanagi.co.jp/top.htm

(10.07.01)