【アニメスタイル特報部】『四畳半神話大系』感動のフィナーレ
シリーズ完走直後の湯浅政明監督に直撃!

湯浅政明カントク

 先週、感動的なフィナーレを迎えたばかりのTVシリーズ『四畳半神話大系』。放映終了直後からTwitterなどで「泣いた」「感動した」「今期最高の作品」等の賛辞が飛び交い、AmazonのDVD・Blu-ray予約ランキングでも上位に急上昇するという、目覚ましい反響を巻き起こした。湯浅政明監督のファンにとっては、まさにワールドカップ完全優勝級の喜びに湧いた出来事であった。アニメスタイル編集部はさっそくマッドハウスへ赴き、シリーズの制作を終えたばかりの湯浅監督からコメントをいただいてきた。


── 『四畳半神話大系』、完走おつかれさまでした!
湯浅 ああ、どうも。もうちょいありますけど(笑)。
── 今は、DVD・Blu-ray用の特典映像などの作業をされてるんですか。
湯浅 そうですね。あと、最終回で気持ちやり残したところのリテイクとか。次の仕事も、ちょろちょろ始まりつつあります。
── シリーズを終えられて、手応えはいかがですか?
湯浅 なかなか反応も悪くなかったんで、ホッとしましたね。いつも最終回をやったあとは微妙な雰囲気になるので(笑)。
一同 (爆笑)
── それはつまり『カイバ』『ケモノヅメ』では、最終回になるとみんなポカンとしてしまった、という……。
湯浅 そうそうそう。なんでかな? と思って、理由が全然分からなかったんですけど。それで今回はあまり何もやらずに、すんなりと最終回をやってみたんですが、それがよかったのかな。
── 余計な事をしなかったから?
湯浅 そうですね。それまでの話の流れで来たものを、そのまま気持ちよく閉じるだけにしました。
── 逆に言うと『ケモノ』や『カイバ』では最終回で何か新しい事を始めようとしたわけですよね。
湯浅 そう。何かひとつやろうとしてたんですけど、前の2本をやって、なんとなく「それって(視聴者的には)要らないのかなあ」と思ったので、今回は違うやり方でやってみました。そしたら、わりと好評だったので「ああ、そこらへんなのかな」みたいな(笑)。1本やるたびに探ってみてる感じですね。
── 今回の作品は、ラス前までの話数に関しては、あまり劇的なクライマックスまでいかないで、その一歩手前のところで巻き戻って終わりというパターンだったじゃないですか。その「肩に力を入れすぎない感」がよかったですよ。
湯浅 まあ、原作の持ち味もありますし、尺の問題とか、いろいろあるんですけどね。最初は、毎週ラストに蛾が出てくるのかと思ってたんですけど(笑)。ちょっと(盛り上がりが)物足りないのかな? とは、ずっと思ってたんですよね。でも、世間ってそのぐらいなのかな、って。
── 世間(笑)。
湯浅 最初に脚本の上田(誠)さんが書くものはもっとさっぱりしてて、それでもよかったのかな、とか思ったりもするんですけどね。1話なんかも、主人公が四畳半から出て、道すがらいろんな人に会いながら、最後に鴨川で花火で襲撃して終わる、みたいな。それも綺麗だなー、と思ったんだけど、不安だったので(笑)。ストーリーはもうちょっとほしいなあとか、でもお尻(最終回)はそれぐらいさっぱりでもいいのかなあ、とか。いろいろと逡巡しながら。
── そういう駆け引きがあるわけですね。
湯浅 そうですね、やっぱり3本目ともなると(笑)。
── ノイタミナ枠というのは意識されたんですか?
湯浅 多少、気が楽だった面はありますけどね。ノイタミナなら、ちょっとアートっぽくても平気とは聞いていたので。でも基本的には、地上波でやるという意識しかなかったです。今度は一般のお客さんが相手だ、という。元々、原作がそんなに分かりやすいスタイルの作品ではないので、分かりにくいなりに分かりやすくやろうとは、ずっと思ってましたね。
── スタッフワークの面では、今回いかがでしたか?
湯浅 そうですね、もう何回かやってもらった人達と、また新たに入ってきた人達と……今までの2本は自由にやってきてたので、今回はスタッフに「枠」の中に入ってもらうのが、思いのほか大変でしたね。いろいろと決め事がいっぱいあったので、そこに収まってもらうよう、理解してもらえるように努力したという感じです。結構、その作業が大変だったなあ、って。
── ああ、自由奔放な人が多いから。
湯浅 今までホント楽だったんだなあ、って思いましたね(笑)。
── 今後もこういうかたちでやっていきたいと思いましたか。
湯浅 そうですね。脚本家さんとの付き合い方も少し分かったような気がします(笑)。やっていくうちに、このぐらいのスタンスならやりやすいのかな、と思ったりして。まあ、上田さんにはホントによく付き合ってもらったな、と思います。後半は結構、勝手なやり方にしてしまったので(笑)。想像以上に能力の高い人だったので、ホントにありがたいと思ってます。
── 他にはどんな方の活躍が目立ちましたか?
湯浅 撮影もよく頑張ってくれましたね、文句も言わずに。かえってそれが申し訳ない部分もありますけど。演出の横山(彰利)さんは、文句を言いながらも頑張ってくれたし(笑)。文句を言われると、逆にこちらもいろいろ考える部分があって、それがまたプラスになっていったりしました。あと、音響もよかったですね。音響監督の木村(絵理子)さんも明るい方で、声優さんも面白い人ばかり連れてきてもらったし。ヨーロッパ企画の役者さん達もよかったですしね。あと、色彩設計の辻田(邦夫)さんにはすごく頑張ってもらいました。過去の場面とかでいろいろと色変えしたり、かなりいろんな事をやってもらってます。伊東(伸高)君にはいつもどおり、作監をバリバリやってもらって(笑)。萌えの要素を押さえながら、枚数の事もちゃんと考えてたし。結構、後半はまた大変な事になってしまったんですけど、頑張ってもらいました。

明石さん

── そういえば、今回のヒロインは湯浅さんのストライクゾーン的にはどうだったんですか?
湯浅 ああ、うーん。基本的に、ストライクゾーンってないんですけどね。
── 今まではどちらかというと肉感的だったり、大人っぽかったり、わりとセクシーな女性キャラクターを描いてきたじゃないですか。まあ、『カイバ』は別として。
湯浅 まあね、結局メソメソ系のキャラクターになってしまっていたんで、強い女子を描きたいという思いはずっとあったんですよ。それが今回、多少はやれたかなという感じはしました。
── 明石さんみたいな、文系女子って湯浅さん的にはどうなんですか?(編注:明石さんは工学部所属でした。インタビュアー小黒のうっかりミスです。スミマセン!)
湯浅 どうなんでしょうねえ? 実際の相手としてどうだ、みたいな事はあんまり考えないんですけど。
── あの硬い感じが新鮮でよかったですよ。
湯浅 まあ、女子にはあれぐらい強くあってほしい、という願望もあるんですよね。あんまり女の子っぽくあってほしくないというか、もっとピシッといってくれ! みたいな。ちょっと女の子っぽくなると、「明石さんはそんな事しない!」って思ったり(笑)。女性キャラでいうと、今回、羽貫さんは難しかったですね。彼女の立ち位置がちょっとよく分からなくて、どうしてもただの酔っ払いになってしまいそうで。
── (笑)
湯浅 原作を見てると、なんとなく明石さんと羽貫さんって似てるんですよ。その描き分け方によっては、羽貫さんがステレオタイプに陥りそうだな、と思ってたんです。『めぞん一刻』に出てくる酔っ払いの女の人(六本木朱美)みたいになると嫌だなあ、とか(笑)。後半ちょっと「そうか、こっちか」っていうのが見えたんですけど、それが活かせる感じまでには行かなかったですね。
── それは、どのタイミングで?
湯浅 9話あたりで、主人公に「ちょっと付き合え」みたいな事を言って、蕎麦屋で飲むじゃないですか。そこで「あ、この感じか」っていうのが見えたんですけどね。ちょっと『エースをねらえ!』の愛川マキ的な。
── ああ、はいはいはい。
湯浅 でも気づいたら9話だったので、あんまりそれは活かせなくて。もったいない気がしました。
── じゃあ、その他の細かい事については、またの機会にぜひうかがいたいと思います。
湯浅 ああ、よろしくお願いします。
── 何はともあれ、おつかれさまでした!


 アニメスタイルでは今後も『四畳半』関連のインタビュー取材を行う予定なので、お楽しみに。さて、読者の皆さんもご存知のとおり、今月24日には池袋・新文芸坐にて「新文芸坐×アニメスタイルセレクション Vol.9 初心者のための? 湯浅政明」が開催される。そのトークゲストとして、湯浅政明監督の来場が決定した。トークショーは作品上映前に、50分ほど行われる予定。司会は本誌編集長・小黒祐一郎。どんな話が飛び出すかは、当日来場者だけのお楽しみだ。乞うご期待!

四畳半神話大系 第1巻
(初回限定生産版)[DVD]

価格/3990円(税込)
カラー/45分(2話収録)/16:9/片面一層/TV未放映エピソード(7分)、ヨーロッパ企画の京都案内
初回版特典/豪華ブックレット(中村佑介キャラクター原案イラスト完全収録)、偽どこでも四畳半(半畳サイズのレジャーシート)
[Amazon]

四畳半神話大系 第1巻
(初回限定生産版)[Blu-ray]

価格/5040円(税込)
カラー/45分(2話収録)/16:9(1920x1080p)/リニアPCM2.0chステレオ/TV未放映エピソード(7分)、ヨーロッパ企画の京都案内
初回版特典/豪華ブックレット(中村佑介キャラクター原案イラスト完全収録)、偽どこでも四畳半(半畳サイズのレジャーシート)
[Amazon]

●関連サイト

『四畳半神話大系』公式サイト
http://yojouhan.noitamina.tv/

“ノイタミナ”公式サイト
http://noitamina.tv/

マッドハウス公式サイト
http://www.madhouse.co.jp/

(10.07.09)