【アニメスタイル特報部】あの次回予告はこうして生まれた!
『迷い猫オーバーラン!』サンジゲンの仕事に迫る

サンジゲンさん

 今回の特報部も、前回に引き続き『迷い猫オーバーラン!』の話題。各話監督制という斬新な試みと並んで話題になったのが、3DCGによる次回予告だった。梅ノ森家のメイド・佐藤と鈴木が毎回スピーディーかつコミカルな掛け合いを繰り広げ、バラエティに富んだ内容とハイクオリティな映像でファンを楽しませてくれた。本編に負けず劣らず魅力的な予告集を生み出したのは、『天元突破グレンラガン』『HEROMAN』などに参加しているCG制作会社・サンジゲン。今回は、サンジゲンの代表取締役を務める松浦裕暁に、『迷い猫オーバーラン!』での仕事についてうかがってきた(前回ご登場いただいた中山信宏プロデューサーも、ちょこっと特別出演)。


── 『迷い猫』の次回予告、毎週楽しみに拝見してました。
松浦 ありがとうございます。
── エンドクレジットでは、予告のスタッフはCG作画監督とCGアニメーターという役職で表記されてますよね。具体的には、どのようなシステムで作られていたんでしょうか。
松浦 大体、1人1話ずつで作ってたんですよ。キャラクターのモデリングとかはすでに作ってあったので、アニメーション自体は15秒、コンポジット(合成)まで含めて、1人のアニメーターがつけるようにしていました。まあ、途中でキャラクターの衣装替えとかもあったので、その都度モデリングだけは別の人間がやっていましたけど、基本的には1人1本でしたね。
── 普通のアニメでいうところの絵コンテは、どなたが描かれていたんですか?
松浦 コンテは……ないです。
── ないんですか(笑)。
松浦 まあ、ちょっとしたメモ書き程度で「こんな感じにしようか」とか。中には、レイアウトがあったものもありましたけど。
── 廊下を横移動で撮っている回(5話)とか。
松浦 そうですね。あと、温泉の回(4話)とか。BGが絡むようなところは例外的にレイアウトを描いて、大体それに合わせて作ったという感じです。
── 通常は、送られてきた音声素材に合わせてCG映像を作っていく感じなんですか。
松浦 いや、最初にシナリオを送っていただいて、それにざっくり目を通して、一応こちらでネタを考えるんです。
── それはどなたが?
松浦 僕と、CG作画監督と、もうひとり鈴木大介というスタッフがいるんですけど、その3人で全話分のネタ出しをして、大体の内容を考えておくんです。そのあとで、音声が上がってきたところで、合うか合わないかの判断をする。一方で、プロデューサーの福家(日左夫)さんに「いいですかねえ?」と、おうかがいを立てたりしながら(笑)やらせてもらいました。中には、ネタ的に困った話数もありましたけれども。
── というと、例えば?
松浦 水着の回(9話)ですね。「水着でやろう」という条件は最初からあったんですけど、どういう画にしようか、凄く困ってしまって。あれはずっと保留にしてました。
── 1人1話分という事は、各スタッフに担当話数を振って、同時にバーッと作っていったんですか。
松浦 そうですね。音声が上がったところから、同時に。まとめて4話分ずつくらい素材をいただいていたので。
── 例えば3話の漫才の回とか、アニメーションとして非常に面白かったんですが、技術的には高度な事をやってるんですか?

松浦 いや、そうでもないですよ。ボケとツッコミでやってくれとか、派手に動いてくれとか、おおよそ「こういう事をやりたい」という話はこちらでしますけど、アニメーション自体については担当者にお任せです。技術的にも、基本的には関節を動かしてアクションさせるだけなので、何かを撮影してロトスコープで動かしたりとか、そういった事はしてません。もう普通に、ゼロから作っている感じです。
── 7話についていた予告で、PCモニターの前ではしゃいでる回があるじゃないですか。あそこで、手描きアニメのマンガ風表現みたいな事をやってましたよね。
松浦 あれも、アニメーターのアドリブですね。特に僕らの方で指示をしたというわけではないです。
── それは個々の担当者による演出なんですね。じゃあ、各スタッフにとっても楽しめる仕事だった?
松浦 そうですね。とにかく「自由に、面白くやってくれ」という話をしたので、それぞれに楽しんでもらったかなと思います。僕らも、ゲラゲラ笑いながら作ってましたから(笑)。福家さんとの最初の話し合いの中でも言ってたんですけど、シリーズの始めの話数ではあまり動かさずに、後半に行くにしたがって派手に動かしていく。で、観ている人が「あ、やっぱりCGだったんだ!」って気づく、みたいな。そういう事ができたら面白いですよね、という話をしていたんですよ。だから最初の頃は意識して、ちょっと大人しめにやってるんです。
── 確かにそうですね。1話や2話では、ほとんど動きがないですし。
松浦 で、後半の方ではしっかり動かすようにする。そういう仕込みも含めて、毎回のネタを考えていました。
── 元々、ギャグを考えるのは得意なんですか。
松浦 うーん、どうですかねえ? でも、音声素材をもらってたので、あとはそのテンションに合わせて作るという作業でしたから。こちらで特にギャグを考えたというわけではないです。
── 声に合わせて映像的に芝居をどうつけるか、という。
松浦 そうですね。台詞がすでにあるので、そういう意味では作りやすかったと思います。
── 技術的に苦労された回とかはありますか?
松浦 ネタ的には、さっき言った水着の回なんですけど、技術的に難しかったところは……チアリーディングですかねえ。
── 最後の次回予告(11話)ですね。
松浦 あれは、ポンポンの表現が結構難しかったんですよ。CGだと、かなりリアルになっちゃうんですよね。短冊が1本1本見えてしまって、それだと絵として全然面白くない。それを潰しつつ……技術的には、塗り分けを2色にするとか、そういうレベルなんですけど。そうやって潰して、なおかつラインをある程度出るようにして、セルっぽく見えるようにする。動きとかも、わりと自動的に動くようにはプログラミングしてるんですけど、そうするとヘンに伸び縮みしたりして、ゴムみたいな素材に見えちゃうんですよね。そのあたりを調整する作業は、ちょっと苦労しました。
── なるほど。
松浦 あと、全体的には、布の表現には気を遣いましたかね。基本的に、2人ともメイド服を着てるじゃないですか。要するに、服の布地が重なってるんですよね。
── ああ、スカートの上にエプロンがあるとか。
松浦 そうです。そうなると、制御が凄く面倒くさくなってくるんです。かといって、上の布地も下の布地も全部一緒に動かすと、凄く硬い感じになってしまいますし。そこら辺も難しかったですね。
── これはうまくできたぞ、という自信作は?
松浦 やっぱり、漫才の回は凄く評判がいいですね。動きが早いのと、ああいうコミカルなものはやりやすいんだなあと思いました。あと、温泉の回も意外に好評ですね。顔はあんまり見えてないんですけど「背中の芝居がいい」とか言ってもらえたりします。水着の回も評判がいいですね。ライトなエロが入ってて(笑)。

── 各回とも全て、同じモデルを使ってるんですか。
松浦 ええ、同じものです。
── あのぐらいの肉体表現ができるものは、最初に作ってあるんですね。
松浦 そうですね。
── 水着の回とかで、胸が揺れてる表現なんかは、その都度、微調整をされてるんですか?
松浦 ああ、メイド服の体と、裸の体とは別モデルなんですよ。
── 水着回の胸のアップとかは、別にモデリングし直した新作なんですね。
松浦 そうです。骨もちょっと違うんですよ。裸の方は、それ用に胸にも骨が入ってたりします。
── 2人とも、少なくともメイド服を着ている姿の時は、わりと人形っぽい感じが強調されてるじゃないですか。やろうと思えば、もうちょっと有機的に動かす事はできるんですよね。
松浦 ええ、できます。
── そのあたりの按配もコントロールされてたんですか。
松浦 うーん、そういう意味では、ちょっと探っていた部分もありますかね。もし2クール目があれば、もっと違う動かし方をしていたかもしれません(笑)。
── でも、あの人形っぽさが逆にキャラクター性になっていて面白かったですよ。
松浦 ああ、ありがとうございます。予告に関しては、本編の画ができる前から、結構作り始めちゃってたんですよね。「本編ではどうなるんだろう?」と思いながら。あとから考えると(予告でも)もっと弾けてもよかったかな? と思ったりもしました。
── サンジゲンさんとしては、『迷い猫』本編中の3DCGを作るのがメインで参加されて、余技として毎回予告を作る、みたいなスタンスだったんですか。
松浦 そうですね。そもそもは本編中の3DCGを作るという事で参加したんですけれども、福家さんの方から「ちょっとこういうのもやってみる?」と言われて「やるやるやる!」と(笑)。面白そうだったので。
── 本編だと、例えば11話のブルマが回ってるエンディングとかも作られてるんですよね。
松浦 ああ、はい。あのブルマは、チアリーディングの予告用の素材をほぼ作ってあったので、それをうまく流用してます。
中山P あ、そうなんだ!(笑)
松浦 腰のところからぶった切って使いました。ちょっと調整はしてますけどね。
── あれはフィニッシュまで作られてるんですか。それとも、クルクル回ってるブルマの素材を渡すだけ?
松浦 本編に関しては、基本的にCGの素材を作って、あとは撮影さんにお渡しするという感じでしたね。
── 噂によると、別エンディングとしてスパッツ・バージョンも制作準備中だと聞いたんですが……。
中山P よろしくお願いします!
松浦 ハハハハハ(笑)。
── ブルマといえば、チアリーディングの予告でブルマを指で直すところも、描き手の情熱を感じたんですが(笑)。
松浦 あれも担当アニメーターのこだわりですね(笑)。
中山P 各話の担当アニメーターについては、単純に割り振ったんですか。それとも「このネタならこの人だろう」みたいな感じで個別に振っていった?
松浦 ある程度の希望は訊きつつ、割り振りました。だけど、新人とか若手は一切関わってないんですよ。ほぼ中堅・ベテランの面子ですね。
── それはどうしてなんですか?
松浦 サンジゲンとしては、今後、どうしてもキャラクターアニメーションをやっていきたいという希望があるんですね。そのフラッグシップになるような画にしたいな、と思ったんです。それで今回は、中堅・ベテランのクラスで、キャラクターアニメーションに興味があるようなスタッフをパッと集めて、それぞれ「1週間で作ってくれ」と。
── えっ、全部1週間で作ってたんですか。
松浦 ええ。実質5日間ぐらいですかね。CG作画監督としてクレジットされている藤澤(俊幸)さんという方は、基本的には手描きのアニメーターをやられている方なんですよ。スタジオライブに所属されているんですけど。
── ああ、あの藤澤さんですか! お名前はよく拝見してます。
松浦 凄く仲良くさせてもらってるんです。やっぱり3DCGによるキャラクターアニメーションとなると、僕らには先輩がいないんですよね。だから作画アニメ的な作法を含めて、ちょっと見てもらえないですか? とお願いしたら、面白そうだという事で快諾してもらって。それで藤澤さんに入ってもらってるんです。
── 実際には、芝居づけを見てもらったり?
松浦 ええ。「作画だとこうはしないよ」とか「こうした方が、よりいいよ」とか。温泉の回の、背中の芝居とかも結構指示してもらったりしてます。
── どうやって指示するんですか。画に描いて渡したりとか?
松浦 それもあります。あと、社内のモニターでラッシュチェックみたいな感じで見ながら、「ここはもっとこうなるんだよ」とか「ここの脂肪はこうなるんだよ」とか(笑)、細かいところまで見てもらってますね。
── かたちの取り方とか。
松浦 そうです。それができてるか、できてないかで全然違う、という部分ですね。
── そこで手描きっぽいテイストというか、キャラクターアニメーションのエッセンスを付加しているわけですね。
松浦 僕らは(2D作画の)真似はできるんですけど、どうやって本物にするかという部分では、やっぱり実際の作画監督の方に見てもらうのが有効かなと思ったんですよね。

── なるほど。サンジゲンさんは、キャラクターアニメーションの仕事もされてますよね。
松浦 はい、ぼちぼちやらせてもらってます。
── 普段はエフェクトだったりメカだったり、3DCGらしいものを作る仕事が多いんですか。
松浦 そうですねえ。それでも今年は、キャラクター絡みの仕事が多いですね。半分以上になってきましたから。今回の『迷い猫』や、他の作品でもこういう事をやらせてもらって、「そこまで作れるんだったら、もっとやってみる?」という話もいくつかいただいているので、挑戦している最中です。
── 『迷い猫』の予告も、今後、サンジゲンさんがキャラクターアニメーションをやっていく上でのワンステップとして作られたものなんですね。
松浦 はい。これまで3DCGでキャラクターアニメーションを作っても、なかなか地上波で流れる機会がなかったんですよね。それで、これはチャンスだと思って。
── 凄く目立ってましたよ。
松浦 ありがとうございます(笑)。
── 他の作品はエンディングが終わったら止めちゃう事も多いんですけど、『迷い猫』は毎週ちゃんと最後まで観よう、と思わせてくれました。
松浦 結構、巷で話題にもなってくれたみたいなので、嬉しかったですね。
── 今後もこういうものを作っていきたいですか?
松浦 やりたいですねえ、やっぱり。僕らはこれまで、メカとかを作る事が多かったので……。
── あと、ガンダムのモニターとか。
松浦 そうです、そうです(笑)。やっぱり感情を表現するという事の魅力、ですね。キャラクターの芝居を作る上で、そこがいちばん面白いと思います。メカの芝居は「かっこよさ」とか「勢い」とか「迫力」とかいった要素を表現するのがメインなんですけど。キャラクターの場合は、それらの要素も含めての「感情」を表現する事ができる。そういう芝居を作る事ができるのが、やっぱりいちばん面白いと思いますね。


2010年7月21日
取材場所/東京・下井草
取材/小黒祐一郎
構成/岡本敦史

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発売・販売:ジェネオン・ユニバーサル
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●公式サイト

『迷い猫オーバーラン!』
http://www.patisserie-straycats.com/

●関連サイト

サンジゲン
http://www.sanzigen.co.jp/

(10.08.24)