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巨匠・川本喜八郎の意欲作
『死者の書』ワールドプレミア



 7月8日、「第27回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」の前夜祭として、日本が誇る人形アニメーションの巨匠・川本喜八郎監督の新作長編『死者の書』のワールドプレミア上映が行われた。
 『死者の書』は70分の長編人形アニメーション映画。奈良時代、仏教という新しい文化に魅せられた一人の聡明な女性が、現世への執心ゆえにさまよう大津皇子の亡霊と出会い、互いに惹かれ合うという物語だ。
 それぞれに強い一念をもって通じ合う男女の生死を超越した交感。そして、大陸渡来の仏教文化と大和文化がせめぎあう時代の空気。このふたつが縦横に絡み合い、スリリングな緊張感をもって物語が紡がれていく。恐ろしくも美しい、神秘的なラブストーリーでありつつ、また優れて深遠な社会学的考察でもあるという、見応えたっぷりの意欲作である。
 陰影に富んだライティングの美しさや、的確な映画演出は揺るぎなく健在。夜、姫の寝所に亡霊がやってくる場面での、人形が持つ艶と凄味を感じさせる映像の迫力は、まさに川本演出の真骨頂だ。人物の細かな立ち居振る舞い、風にひらめくヒロインの薄衣など、繊細かつ瑞々しいアニメートも見所である。毅然としたヒロインを演じる宮沢りえを始め、声優陣の好演も印象的。
 原作は、民俗学者として有名な折口信夫の同名小説。川本監督は20数年前に初めてこの小説を読んで以来、ずっと映像化の企画を温めてきた。難解かつ映像表現の困難な内容という事もあり、監督自身も実現は難しいと考えていたが、2003年末になってようやく製作が始動。一般観客を初めとする後援者から「ひとこまサポーター」として製作資金を募るなどして、2004年4月にクランクイン。10ヶ月間の撮影と、ダビング等の仕上げを経て、今年5月に35mm長編映画として完成した。

 上映当日、川本監督はチェコのカルロヴィ・ヴァリ映画祭に出席していたため、来場は叶わなかったが、代わりにビデオメッセージが観客に届けられた。
 舞台挨拶に立ったPFFの荒木啓子ディレクターによれば、「映画の新しい才能の発見と育成」というテーマを標榜する同映画祭としては異例のセレクションながら、この作品を一般観客の前でいち早く上映したいという映画祭側の強い意向によって、「前夜祭」という特別枠を設け、今回の上映が実現したとの事。また、上映前には社会学者の宮台真司によるトークショーも行われた。

▲会場ロビーに展示された郎女の人形と織機(左)、当麻寺のセット(右)

 一般公開は2006年2月11日から。まだ半年以上も先になるが、それに先立ち、来る7月29日に完成披露上映会が東京・一ツ橋ホールで開催される。作品制作を援助したサポーターを主な対象とした上映会だが、一般観客の参加も可能だ(申し込み方法などの詳細は、下記公式サイト「川本喜八郎 Official Web Site」を参照)。
 本作は川本喜八郎の最新作というだけでも見逃せない作品であると同時に、知的探求心を刺激するスリリングな面白さと、幽玄の美を兼ね備えた、比類ないフィルムに仕上がっている。必見の作品だ。


■公開データ
2006年2月11日(土)より、東京・岩波ホールにて公開

■スタッフ
原作/折口信夫
監督・脚本・人形美術・アニメーション/川本喜八郎
製作/村山英世
プロデューサー/福間順子
撮影・照明/田村実、伊丹邦彦他
音楽/廣瀬量平
アニメーション/及川功一、森まさあき他
友情アニメーション/ユーリ・ノルシュテイン
企画/川本喜八郎新作人形アニメーション製作実行委員会
製作/桜映画社

■キャスト
藤原南家の郎女/宮沢りえ
大津皇子/観世銕之丞
魂乞の長老/三谷昇
身狭乳母/新道乃里子
大伴家持/榎木孝明
恵美押勝/江守徹
當麻の語部の媼/黒柳徹子
語り/岸田今日子

■公式サイト「川本喜八郎 Official Web Site」
http://www.kihachiro.com/

■『死者の書』完成披露上映会
日時:2005年7月29日(金)夜6時開場
来場ゲスト:川本喜八郎、岸田今日子他
会場:東京・日本教育会館一ツ橋ホール
一般料金:事前申し込み1500円、当日券1800円
※事前申し込み方法、会員特別料金等については公式サイトを参照の事

(05.07.12)

 
 
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