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『ウォレスとグルミット』最新作はモンスター映画!?
ニック・パーク監督来日記者会見




 人気シリーズ『ウォレスとグルミット』待望の新作にして、初の長編作品となる『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』が、このほどついに完成。主役はもちろん、発明家のウォレスと愛犬グルミットの名コンビだ。巨大野菜コンテストが開催される町で、畑を食い荒らす野良ウサギの捕獲に、ウォレスたちが乗り出した事から幕を開ける大騒動。独特のユーモアと奇想天外なアクションをふんだんに交えた、クレイアニメ史上最大級のエンターテインメント活劇だ。
 本作は先日アメリカで公開され、初登場にして興業収入No.1を記録した。日本でも来年3月の公開に先駆け、東京国際映画祭に特別招待作品として参加。それに伴い、監督のニック・パークが来日し、記者会見が行われた。
 会見では、監督と共に来日したスーパーバイジング・アニメーターのロイド・プライスによる作品のメイキング解説が行われた。構想5年、撮影に18ヶ月を費やしたという本作。劇場長編にスケールアップされた事で、今までにない大がかりな美術や、凝りに凝った照明効果などが実現できたという。撮影期間短縮のために巨大な屋敷のセットを3つ作ったり、ウサギたちが機械の中で回転浮遊するカットでは珍しくCGIを使っている、といった逸話も語られた。また一方で、ひとつのシーンに20人以上のキャラクターが登場する集会の場面では、2分の映像を撮影するのに6ヶ月かかったとか。
 そしていよいよ、ニック・パーク監督がステージに登場。会場は大きな拍手に包まれた。
パーク 温かい歓迎、どうもありがとう。この映画祭に招かれて、とても光栄です。

▲ニック・パーク監督 ▲パーク監督と仲良く来日、ウォレスとグルミット

▲おなじみ「Cheeeeese!」のポーズをとる3人 ▲会場に陳列されていたキャラクターの人形

── 初長編となる今回の作品で苦労した点は?
パーク 苦労といえば、やはり全ての行程が手作業であるという事。さっきもロイドが言っていたけど、教会での市民達の集会シーンはとても大変だった。それと、長編作品になったからといって、ヘンに洗練された画になる事は避けたかった。(前作の)『チキンラン』の時もそうだったけど、多くのスタッフが関わる大作という事になると、どうしてもみんな頑張りすぎて、洗練された映像になってしまう。それは誰の責任という事でもないけれどね。だがクレイアニメーションの魅力は、その素朴さにある。そこが僕らのこだわりであり、アードマン作品のユニークな部分なのだと思う。『ウォレスとグルミット』では、その感覚を守りたかったんだ。悪く言えば、前作より技術的には後退したのかもしれない。でもそれは、僕らが観客の皆さんに見せたかったもの、つまりクレイアニメの魅力なんだ。だからキャラクター達にはわざと(アニメーターの)指紋の跡を残したんだよ。
── 今回の作品で、ウサギが重要なキャラクターとなった経緯について。
パーク 共同監督のスティーヴ(・ボックス)と一緒にアイデアを出し合っている時、僕はいつものクセで紙にいろんな落書きをしていた。その中になぜか、ウサギと野菜の画があったんだ。それがとても魅力的でね。ウォレスの家の菜園にウサギたちが出現して、野菜を食い荒らしてしまう話は面白いんじゃないか、と思ったんだ。その後、そこからまた長編用にストーリーを固めていったのだけど……知ってのとおり、これまでの『ウォレスとグルミット』では、いろんなジャンル映画のテイストをちょっとずつモチーフに取り入れている。例えばSFだったり、フィルムノワールだったり。今回の作品では、30年代のユニヴァーサル怪奇映画や、50〜60年代のハマー・ホラーなどの古典恐怖映画のテイストを加える事を思いついたんだ。バーで喋ってる時に出てきた案なんだけど、まるで金鉱を掘り当てたみたいな気分だったよ。「今度の『ウォレスとグルミット』は“ベジタリアン・ホラームービー”だ!」ってね(笑)。登場するモンスターは人狼(WEREWOLF)ならぬ、人ウサギ(WERE-RABBIT)なんだ。
── 作品ごとに“英国的な”感覚を増していく作風について。
パーク 実は、それがアードマン作品の特色なんだと思う。というか、それ以外の作品を作る術を知らないといってもいい。『ウォレスとグルミット』が世界中で人気を得た時、各国での反応を見て、初めて自分たちの作品は英国的なんだと気づいたくらいで、全くの無意識の産物なんだ。今回の『野菜畑で大ピンチ!』では、アメリカのドリームワークスからの製作援助があって、彼らが持っている長編映画製作のノウハウはとても役立った。一方で、プロデューサーのジェフリー・カッツェンバーグは、僕らの“英国的な”部分が作品の魅力である事を理解してくれていて、自分たちのスタジオで好きなようにやらせてくれた。だからこの作品は、自分としては全てホームグラウンドで作れたという感覚なんだ。
── 会見の前に行われた、宮崎駿監督との対談の感想は?
パーク 僕は宮崎さんの大ファンで、彼の作品はみんなとても好きだ。彼は、自分のビジョンに忠実な作品を作り続けていて、なおかつそれを実現させている。アーティストとして、とても尊敬しているよ。実際にお会いしてみると、宮崎さんはとても気さくでざっくばらんな人だと分かった。通訳を介さなければ話せないのが残念だったよ。
── 数あるアニメーション表現の中で、クレイアニメにこだわる理由は?
パーク 僕はもちろん宮崎駿さんの作るセルアニメも好きだし、CGアニメなら『Mr.インクレディブル』が大好きだ。なぜ『Mr.インクレディブル』かというと、あの作品もアーティストが機械をコントロールして、自分のビジョンを明確に映像化した作品だから。僕にとって粘土は、ユーモアやストーリーテリングなど、僕のスタイルを表現するのに最も適した素材なんだ。それが醸し出す雰囲気もね。そしてなんといっても粘土の魅力は、自分の手で直接、キャラクターの動きや表情を作れる事。人形のおでこを少し動かすだけで、その表情がどんどん変わっていく。そうしてでき上がった映像には、アニメーターの魂が込められているんだ。もしCGでやっていたら、今のグルミットは誕生していないよ。
── ウォレスが発明する様々な発明品のアイデアは、どこからインスパイアされるのか。
パーク 僕は子どもの頃から、発明家になりたかったんだ。いろんなアイデアを実際に具現化できるというのは、クレイアニメの魅力とも通じる。そしてクレイアニメなら、どんな発明も具体化できるしね。インスパイアされるのは、自分の描いた落書き(イメージボード)だったり、大好きなH・G・ウェルズやジュール・ヴェルヌの小説、それに「タイム・マシン」のようなSF映画をヒントにしたりしているよ。
── シリーズの前作『ウォレスとグルミット 危機一髪!』に登場した人気キャラクター、羊のショーンの再登場が叶わなかった事について。
パーク ストーリーを練る段階で、ショーンやウェンドレン(前作のヒロイン)を登場させる案はあった。だけど、これまでの作品でもそうだったように、『ウォレスとグルミット』の新作は、全く新しいキャラクターだけで勝負したいと思ったんだ。ショーンについては、別のTVシリーズをアードマンで現在製作中だよ。

 会見の最後には、ウォレスとグルミットがステージに登場し、会場を大いに沸かせた。3人が肩を並べ、チーズ好きのウォレスがとる独特のポーズを一緒にやってくれたり、終始和やかな雰囲気の漂う記者会見だった。


『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』
Wallace & Gromit in the curse of the Were-Rabbit


●キャスト
ウォレス/ピーター・サリス
ヴィクター/レイフ・ファインズ
レディ・トッティントン/ヘレナ・ボナム・カーター

●スタッフ
監督/ニック・パーク、スティーヴ・ボックス
脚本/スティーヴ・ボックス&ニック・パーク、マーク・バートン&ボブ・ベイカー
製作/ピーター・ロード、デイヴィッド・スプロクストン、ニック・パーク
提供/ドリームワークス・アニメーションSKG、アードマン・フィーチャーズ
配給/アスミック・エース

2006年3月18日(土)より、シネカノン有楽町、渋谷アミューズCQN他にて全国ロードショー公開

●公式サイト
http://www.wandg.jp/

(05.10.31)

 
 
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