『マイマイ新子と千年の魔法』
昭和30年代を生きる少女達を瑞々しく描く
マッドハウスと片渕須直監督による劇場長編『マイマイ新子と千年の魔法』がこの11月に公開される。原作は高樹のぶ子の自伝的小説「マイマイ新子」。昭和30年代の山口県防府市を舞台に小学生・新子の生活を描いたこの小説を、片渕監督は大胆かつ繊細に脚色。地元の想像力豊かな小学3年生の少女・新子と、都会から転校してきたちょっと気弱な美少女・貴伊子との友情を軸にして、彼女達の成長を躍動感豊かに、ファンタジックに描き出している。
丹念なロケハンと執拗な資料調査が生み出した、細やかな生活描写が何よりも魅力だ。片渕監督によれば、これまでマッドハウス作品にあまりなかった、児童向けというジャンルに挑戦したいという制作会社の意向があり、それに2人の女の子が主人公の企画を考えていた監督の構想が合わさって、結実したのだという。この原作が選ばれたのは、丸田順悟社長が同じ山口出身というのも大きかったようだ。一方、原作には薄い、1000年前の歴史上のストーリーを現実と並行させるという構想は片渕監督自身によるもの。少女達が生きる昭和の物語と、幻視される歴史上の世界とがいかに交錯するか。単なる生活アニメに収まらないトリッキーな仕掛けが映像に緊張感を与え、予想外の展開へと誘う。
新子を演じる福田麻由子、貴伊子を演じる水沢奈子、2人の若手女優のキャスト、村井秀清とMinako"mooki"Obataによる、スキャットを前面に押し出した音楽など、音響面での果敢な挑戦も面白い。
ところで、片渕監督といえば、『あずきちゃん』(各話演出)、『名犬ラッシー』(監督)といった日常描写の名手として知られる一方、『BLACK LAGOON』(監督・シリーズ構成)のようなハード・ミリタリー・アクションの旗手として名を憶えている者も多いだろう。一見遠いこの2系統について、監督自身はこんなふうに語っている。「人間には負の部分、不幸の部分があります。それを描かなければならないという思いが、『アリーテ姫』の後半をやっていて特に募ったんです。そのときに出会った企画が『BLACK LAGOON』でした。この作品を手がけた事で、また希望が描けるようになったんです」。
その言葉どおり、『マイマイ新子』は、きらめくような日常と、酷薄な現実、そのふたつをしっかりと描きつつ、その先に希望を見せる作品となっている。様々な要素が絡み合いながら、ひとつの作品に美しく織り上げられていくさまをぜひ見てほしい。
『マイマイ新子と千年の魔法』
11月21日より全国ロードショー
●キャスト
新子/福田麻由子
貴伊子/水沢奈子
清原諾子(清少納言)/森迫永依
●スタッフ
原作/高樹のぶ子 ※高は「はしごだか」
脚本/片渕須直
キャラクターデザイン、総作画監督/辻繁人
演出/香月邦夫、室井ふみえ
画面構成・作画監督/浦谷千恵
作画監督/尾崎和孝、藤田しげる
メインアニメーター/尾崎和孝、今村大樹、川口博史
美術監督/上原伸一
音楽/村井秀清、Minako"mooki"Obata
アニメーション制作/マッドハウス
監督/片渕須直
●公式サイト
http://www.mai-mai.jp/
(09.11.02)