広島国際アニメーションフェスティバル2010
暑さと熱気と台風に包まれた映画祭
小川びい
灼熱と形容したい暑さと台風が接近する中で、今年も広島国際アニメーションフェスティバルが開かれた。今回で第13回、日本でアニメーションの国際的な映画祭が開かれるようになって、いつの間にか4半世紀が経っていたのだ。また今年は国際アニメーション協会(ASIFA)50周年という事もあり、広島25周年、ASIFA50周年を記念したプログラムが多数組まれた。初期の頃と異なり、今や観客も出品者も学生が中心。著名作がこれだけまとまって見られるのは、学生にとって非常に意義ある機会を提供したと言えるだろう。
映画祭の目玉であるコンペティションにも、やはり各国の学生の卒業制作作品がいくつも選ばれていた。聞くところによると、これは各地の映画祭でも同様だそうだ。世界的にアニメーション芸術についての高等教育がいかに盛んになっているか、裏返すと、卒業後、制作を続けていくのがいかに難しいか、その両方を物語っているといえよう。大会期間中に開かれた講演で、東京藝術大学大学院でアニメーション専攻の教授を務める山村浩二は、この事について触れ、「大学あるいは大学院は、短編アニメーション制作ためのプロダクションとしての機能を担っている」と語っていた。資金ばかりでなく、豊富な機材や設備、人的なバックアップなど、学校教育機関が提供できるものは大きいというのだ。
だが、結果的にコンペティションで賞を得たのは、厳しい状況の中でアニメーション制作を続けている作家達だった。
グランプリに輝いたのはノルウェーで活躍するアニタ・キリの新作『アングリー・マン』。児童虐待を受けている、子どもたちを勇気づける内容だ。カット・アウト(切り絵)を中心として様々な技法を組み合わせ、素材も紙だけではなく、布や毛なども駆使し、多彩な手法とテーマへの真摯なアプローチ、ファンタジックな展開が魅力的だった。
一方、ヒロシマ賞には、オルガ&プリットのピャルン夫妻による『ダイバーズ・イン・ザ・レイン』が選ばれている。プリットはかねてよりソ連時代からアニメーション作家として活躍。近年はフィンランド、エストニアでアニメーション教育にも腕を振るっている大御所。夫妻の共作はこれが3作目。昼夜すれ違いながら生きているダイバーと医師のカップルの日常を淡々と描いており、アンニュイなムードと独自のユーモアが光った。
また観客賞には、アルゼンチンのサンティアゴ・ブー・グラッソ『ジ・エンプロイメント』。エンターテインメント系の作品の少なかったコンペの中で、もっとも風刺性の高かった1本である。
「今回のコンペは不作」との声も上がる中で、みっつとも、それぞれ存在感を示していた数少ない作品であった。受賞も当然であろう。
その一方で、世界的には長編アニメーションの制作が急速に盛んになっており、この広島にもその傾向が大きく反映され、クロアチア、ノルウェー、ロシアの長編が次々と上映された。これほど各地から長編が集まったのは、ちょっと記憶にない。ピクサーに代表される3DCG長編の成功も大きく影響しているのだろう。
そのピクサー、そして親会社であるディズニーの短編上映と監督のセミナーが、筆者にとって特に印象に残ったプログラムだった。
ディズニーの短編は『Tick Tock Tale』。おんぼろの時計を主人公にした洒落た作品で、被写界深度の表現が見物。そしてピクサーの短編は『トイ・ストーリー3』の併映になっている『デイ&ナイト』。こちらはカトゥーンと3D表現との融合が興味深い。
両作品の監督の話には、両社の制作総指揮を務める、ジョン・ラセターの名前が事あるごとに挙がり、その影響力の大きさをまざまざと感じさせた。ラセターが、ディズニーとピクサーの関係をどう舵取りしていくのか、短編から長編へとつなげていくような動きはあるのか、興味はつきない。
全体として充実した大会だったと思うのだが、ひとつ残念だったのは、上映時の画郭のミスが目立った事だ。本来16:9であるべき『ウォレスとグルミット』が4:3のサイズのままかかったときにはめまいがした。コンペ作品でも、画郭が間違っているのではと疑わしいままでの上映があった。世界各地からの様々なメディアに対応せねばならない苦労は想像するにあまりあるが、それでも画郭は上映の基本だ。ぜひとも次回はこのような事がないよう望みたい。次回開催の2012年を楽しみに待っている。
●公式サイト
広島国際アニメーションフェスティバル
http://hiroanim.org/
(10.08.13)