第11回 『ルパン三世[旧]』
『旧ルパン』は魔力を持った作品だ。そう思う事がある。僕もそうだし、同年輩のファンには、いまだに特別な思い入れのある人が多いだろう。現在に至るまで、数多くのアニメ『ルパン三世』が作られているにも関わらず、その存在が霞む事はない。例えば後の『ルパン三世』シリーズで、『旧ルパン』的なラインを狙った作品もあるのだが、決して『旧ルパン』にはならない。「キャラクターに魅力がある」とか「クオリティが高い」といった言葉では表現しきれない何かがある。つまり、魔力があるのだろうと思う。
『ルパン三世』第1シリーズ、通称『旧ルパン』の本放送は1971年から1972年。かつてなかったヤング向けのアニメーションとして企画された作品であり、アダルトな感覚、奇抜なアイデア、銃や自動車のリアルな描写と、様々な新機軸を打ち出した。斬新な内容にも関わらず視聴率は伸びず、放送は全23本で終了。後のたび重なる再放送で人気に火がつき、やがて第2シリーズが作られる事になる。
僕が『旧ルパン』を初めて観たのも再放送だった。その時、裏番組で人形劇「新八犬伝」をやっていたのを覚えている。「新八犬伝」の放送は1973年4月から1975年3月だそうだ。「新八犬伝」は終盤までは行っていなかったはずなので、僕が初めて『旧ルパン』を観たのは1973年か1974年だろう。とすると、当時の僕は9歳か10歳だ。最初に観たのが14話「エメラルドの秘密」だった。高畑・宮崎色の強いエピソードだ。ゲストキャラのキャサリンにルパンが翻弄されるドタバタや、最後の鮮やかなどんでん返しに惹かれた。なんて面白い番組なんだろうと思った。次の再放送では1話から観た。
1話「ルパンは燃えているか・・・・?!」はカーアクション、お色気、どんでん返しと盛り沢山な内容。「裏切りは女のアクセサリーのようなものさ」という名セリフに、子供ながらに痺れた。犯罪組織スコーピオンのボスの「コースは山あり、谷あり、意外な落とし穴があるかもしれない」は、子供にも分かりやすいエッチなセリフだった。前後のカットを交互に見せる凝ったシーンの切り換え、レースカー同士が入れ替わる時のストップモーションも、「テレビまんが」で観た事のない格好よさだった。2話「魔術師と呼ばれた男」は強敵パイカル(白乾児)との対決を描く、ハードボイルド&アダルト編。これは純粋に、ルパンとパイカルの対決を楽しんだ。小学生にはアンニュイなんて言葉が分かるはずもないが、あの乾いたムードは新鮮だったはずだ。
その後もずっと楽しんで観た。とにかく格好いい番組であり、面白い作品だった。特に好きだったのは、ルパンと五ヱ門の派手な大立ち回りが楽しい5話「十三代五ヱ門登場」、同じく五ヱ門編の7話「狼は狼を呼ぶ」、破天荒な敵に破天荒なトリックで立ち向かう13話「タイムマシンに気をつけろ!」、前述の14話「エメラルドの秘密」、最後のルパン流物量作戦が鮮やかな19話「どっちが勝つか三代目!」だった。どの話も1ヶ所は好きなところがあった。そして、再放送をするたびに観た。
何度か再放送を観た後で、雑誌や同人誌でマニアックな情報を得るようになっていった。リアリズムを重視した作品であり、出てくる銃や自動車は実際にあるものだという事。前半と後半で監督が変わり、大きな路線変更があった事。先立ってパイロットフィルムが作られており、その映像がオープニングで使われている事。細部に遊びが多く、1話の逮捕令状に裁判官として、監督の大隅正秋の名前が書かれていたり、劇中に大塚康生や宮崎駿をモデルにしたキャラクターが登場したりしている事。そういった知識を得て、次の再放送では、その部分に注目して観た。元々が凝って作られた作品だけに、細かいところをチェックする楽しみがあった。
僕が『旧ルパン』を初めて観てから、すでに35年も経つわけだが、いまだに飽きない。まだ新鮮な気持ちで観る事ができる。今でも、ある場面の原画を描いたのが誰なのか気になる事があるし、もしも、監督交代がなければどんな作品になっていたかを夢想する事もある。また、以前からシリーズ前半のハードボイルド路線のルーツが、どんなところにあるのかを調べている。先日もオールナイトで、大和屋竺がペンネームで脚本を書いた「処女ゲバゲバ」という映画を観た。ドライかつシュールな作品で、ああ、やっぱり「魔術師と呼ばれた男」は大和屋竺のカラーが強いのだなと思った。
第12回へつづく
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(08.11.18)