アニメ様365日[小黒祐一郎]

第39回 劇場版『地球へ…』

 岡本喜八総指揮の『科学忍者隊ガッチャマン』、市川崑監修の『銀河鉄道999』、浦山桐郎監督の『龍の子太郎』、今井正監督の『ゆき』と、アニメブーム期には、実写の大物監督を劇場アニメにスタッフとして招聘するケースが多かった。有名な監督に参加してもらう事で、映画として箔を付けたかったというのもあったのだろう。中には名前を貸しただけで、実際には何もやっていないケースもあったようだ。恩地日出夫監督の『地球へ…』は、前に取り上げた『龍の子太郎』と同様に、実写の監督がアニメを手がけ、大きな成果を残した作品だ。
 『地球へ…』の原作は竹宮恵子(現・惠子)。舞台は人類の大半が宇宙に移住し、コンピュータに管理されている未来世界。人工子宮によって生まれた子供達は、血のつながらない両親に育てられ、14歳になると「目覚めの日」を迎え、「成人検査」を受ける。それによって、それまでの記憶を失い、両親と離れて、大人として暮らす事になる。この時代には、ミュウと呼ばれる超能力者達がおり、危険分子と見なされていた。ミュウではないかと疑われていたジョミー・マーキス・シンは、「目覚めの日」に処刑されそうになるが、ミュウ達の手によって助け出される。ジョミーは、ミュウの長であるソルジャー・ブルーの意志を継ぎ、リーダーとなって人類の故郷である地球(テラ)を目指す。物語はミュウ側の主人公であるジョミー、体制側の主人公であるキース・アニアンを2人を中心に進んでいく。原作の掲載誌は「月刊マンガ少年」。最終回が掲載された5月号が発売されたのが1980年4月6日で、劇場版が公開されたのが同年4月26日。原作の完結直後の公開だった。なお、この原作は2007年にTVアニメにもなっている。
 僕はこの映画でも徹夜をしている。初日だったか、2日目だったかは覚えていない。今の事務所がある池袋の映画館だった。入場者にセル画プレゼントがあったのだが、この時はひどいセルをもらった。地球側の名もなき兵士のセルで、しかも、「被せセル」だった。つまり、間違った色を塗ってしまったセルの上に、修正するために載せるセルだ。動画の線がトレスされてはいるけれど、塗られているのは修正部分だけであり、1枚の画になっていない。ひどいセルではあるけれど、それゆえにもらった時の印象が、鮮明に残っている。
 「マンガ少年」をずっと読んでいたので、原作は既読だった。物語は原作に沿っており、大きな改変はない。劇中で20年近くの歳月が流れる長大な物語で、登場人物も多いのだが、少なくとも初見時には、足早ではあるが、ダイジェスト的な仕上がりだとは思わなかった。物語がギッシリと詰まっている映画だと思った。この原稿を書くためにDVDで観返して、尺が112分しかない事に驚いたくらいだ。ただ、劇中で月日が流れた事を示すのに「3年後」「5年後」「10年後」とテロップが出る。僕が行った劇場では、そこで笑いが起きた。WEBアニメスタイルで、この作品について恩地監督に取材しているが、監督もその箇所の笑いについて触れていた。他の劇場でも同様だったのだろう。笑いが起きたのは、その唐突さ、構成の強引さゆえだろう。観客が集中して観てたからこそ、時間の飛躍で、物語の流れが分断された事によってショックを受け、それが笑いになったという言い方もできる。
 物語が原作に沿っているにも関わらず、原作とは、微妙に感触の違う作品だった。原作は、繊細で柔らかい印象の作品だった。フワっとしたところがあり、それが魅力だった。劇場版は、全体にカッチリとした感じで、理知的に作られている印象だった。そして、瑞々しさ、清々しさを感じた。原作が「思春期」の気分を物語に込めたものだとしたら、劇場版は「青春物」だったと思う。どうしてその違いが生じているのかは分からない。おそらくは絵柄であったり、キャスティングであったり、役者の芝居によって、そして、演出的な語り口によって、その違いが生じているのだろうと思う。
 恩地監督の取材する前に、予習のつもりで彼の実写映画を観てみた。これは僕の思い込みかもしれないが、空気感が『地球へ…』に近いと思った。機会があったら、他の恩地監督の作品をじっくり観てみたいと思っている。青春物らしさが出ているのは、音の力も大きいのだろう。音楽は巨匠佐藤勝が担当。主題歌はダ・カーポだ。ダ・カーポは、後に『名探偵ホームズ』の「空からこぼれたStory」等、いくつものアニメ関連楽曲を歌う事になるが、最初のアニメ主題歌が『地球へ…』だった。これは名曲だと思う。
 劇場で感動のあまりに涙を流したりはしなかったが、気持ちよく観る事ができた。今では、傑作だと思っている。映像的にも様々な試みが行われており、ドラマ、映像、音楽のいずれもが、新鮮な印象の作品だった。映像については、次回触れる事にしたい。

第40回へつづく

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(09.01.06)