第68回 『うる星やつら』思いつくまま
多分、僕の同年輩の『うる星やつら』ファンは、ラムをセクシーなキャラクターだと感じていたのだろうと思う。僕はそういった方面のアンテナが発達していなかったのか、アニメ版のラムに関して色っぽいと感じた事はほとんどなかった。それは高田明美のキャラクターデザインや、初期の作画監督の絵柄が、あっさりしたものであったためかもしれない(ある程度放送が進んでから、こってりとした作画が見られるようになり、「これはエッチだ」と思った事はあった)。放映が始まって数年経って、同人誌即売会で、ラムのコスプレをしている女の子を間近で見た。つまり、半裸の女の子が、即売会会場を歩いていたのだ。その時に初めて「こんなにヤバいキャラクターだったのか」と思った。
本放映当時に、特に好きだったのが14回B(27話)「面堂はトラブルとともに!」、29回(52話)「クチナシより愛をこめて」の2本。いずれも山下将仁の作画パワーが炸裂したエピソードだった。特に「面堂は……」は興奮して観た。今観ても相当楽しめる。「クチナシ……」は作画暴走アニメの見本のようなエピソードだ。ただ、考えてみれば監督や演出家は、絵コンテの段階で「ああいう仕上がりになる事」を期待していたはずだ。普通のコンテだったら、あんな内容になりはしない。ではあるが、本放映時には「山下さんが暴走して大変なアニメになってしまった!」と思った。それから、山下作画+わけのわからないトリップ感の32回(55話)「ドッキリ図書館お静かに!」も印象的だ。
異色作と言えば75回(98話)「そして誰もいなくなったっちゃ!?」、78回(101話)「みじめ!愛とさすらいの母!?」が有名だろう。「そして誰も……」はミステリ仕立てでメインキャラが次々に死んでいく。「……さすらいの母!?」は本放送以来観返していないが、後の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』のプロトタイプともいえるシュールなエピソード。この頃の『うる星』は本当に「なんでもあり」で、スタッフのイケイケな感じを楽しんでいた。53回(76話)「決死の亜空間アルバイト」は、前半が悪夢のようなシュールな展開で、後半が女湯を舞台にしたお色気ドタバタというアンバランスさが素晴らしかった。ある意味、一番『うる星』らしい話だと思う。
キャラクターで言うと、メガネが一番好きだったかもしれない。メガネに関しても、当時は主なセリフを暗記しているようなファンが大勢いた。だから、僕のような者が好きだなんて言うのは、ちょっと申し訳ないのだが、一番感情移入できたのはメガネだった。彼とパーマ、チビ、カクガリのラム親衛隊のノリも好きだった。僕はラムに対してあまり思い入れはなかったが、彼らがラムに入れ込んでいるのには共感できた。演説好きだったり、バンカラ的だったりするメガネのノリは、僕達よりも1世代上の学生のものなのだろう。自分達にはない自意識の強さにも、ちょっと憧れた。「下駄履きの生活者」なんてフレーズも好きだった。だから、シリアス系の話の中では、彼がラムを彼女にできると勘違いしてしまう64回(87話)「さよならの季節」が印象的だ。彼がバトルスーツ(劇中では重モビルスーツと呼んでいる)を着て颯爽と現れた時は、拍手喝采だった。
最終回の1回前は「お別れ直前スペシャル輝け!!うる星大賞」というタイトルで、人気エピソードのベスト10を発表した。その1位は44回(67話)「君去りし後」だった。あたるとラムの関係に執着のあるファン(つまり正統派の『うる星』ファン)は、「君去りし後」や10回(19、20話)「ときめきの聖夜」が好きなのだろうと思う。僕もそれらの話を面白いとは思ったけれど、印象的な話としては、やはり「面堂はトラブルとともに!」や「さよならの季節」を選んでしまう。
『うる星』は欲望に忠実なキャラクターが、大勢出てくる作品だった。異性に対する欲求だけでなく、食欲も劇中で描かれた。頻繁に牛丼が出てきた。僕や友達も、当時よく牛丼を食べていた。だから、『うる星』を観返すと牛丼が食べたくなる。食事関係で印象的なのは、46回(69話)「買い食いするものよっといで!」だ。学校を抜け出して買い食いをしようとする生徒達と、それを阻止しようとする教師側の一大闘争を描いたエピソード。この話については、当時よりも今の方が好きかもしれない。いつも腹ぺこだった学生時代の思い出とクロスして、なんだか妙に懐かしく感じてしまう。僕にとって『うる星』とは、そういうところがある作品だ。作品の内容も若々しいし、作り手も若い。当然、観ていた僕達も若かった。照れ臭いので「僕達の青春のアニメだった」とまでは言わないが、『うる星』は学生時代の楽しい思い出や、気分とリンクしている。
前回と今回の原稿を書くために、DVDで『うる星』を観返してみた。数話分だけ観るつもりが、あんまり面白いので、結局20話以上観てしまった。本放送でヌルいと思った話も、今だと楽しんで観られる。それは主には、キャラクターの力によるものなのだろう。登場人物の自分勝手なところとか、乱暴なところがいい。最近の穏やかな美少女アニメに慣れてしまったので、余計にそう感じるのだろう。
第69回へつづく
TVシリーズ完全収録版 うる星やつらDVD vol.1
100分/片面1層/カラー/4:3/スタンダード/ドルビーデジタル/モノラル/1〜8話収録
価格/5040円(税込)
発売元/キティフィルム
販売元/ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
[Amazon]
(09.02.18)