第72回 アニメーターにならなかった理由(番外編1)
これはいわゆる代原というやつで、新しい「アニメ様365日」の原稿がない日にアップされるものだ。これがアップされたという事は、なんらかの理由で、僕が今日の分の原稿が書けなかったというわけだ。わざわざ代原である事を、本文中で明らかにする必要はないのだけど、これを書かないと、いきなり前回までの流れから外れた話題になる理由が分からないと思うので、書いておく。
以前、井上俊之さんに「どうして小黒君は、アニメーターにならなかったんだ?」と訊かれた事がある。つまり、そんなに作画に興味があるのなら、アニメーターになりたいと思うはず、と井上さんは思ったわけだ。そう言ってもらったのはありがたいが、どうしてなのだろうか。「××になりたいと思った理由」なら言葉にしやすいが、「なりたいと思わなかった理由」を言葉にするのは難しい。あえて言えば、絵が下手だからだろう。気が短いので、丁寧に線を引くような作業に向いていないというのもある。
井上さんに言われて数年経って、突然、自分が絵を描くようにならなかった理由に気がついた。僕は、小学生の頃はマンガ家になりたいと思っていた。生意気にペンとインクを買ってきて、ペン入れの練習をしていた時期もあった(その時に、丁寧に線を引くような作業に向いてないのが分かった)。きっちりとマンガを模写してみようと思った事があり、その時に好きだった手塚治虫の「三つ目がとおる」と「ブラック・ジャック」を模写する事にした。ところが、改めて単行本を見てみると、「三つ目がとおる」も「ブラック・ジャック」も主人公のキャラクターの絵が安定していない。回によって目等の描き方が違っているのだ。いずれも1巻とか2巻とか、若い巻数の単行本だった。ブラック・ジャックに関しては、髪の処理がまちまちだった(35年も前の話なので、今見るとどうだか分からないが)。あれ、どうなっているの。どれを模写すればいいんだ。そう思って、単行本をひっくり返して、キャラクターの描き方のバリエーションについて調べ始めた。徐々に変化しているわけでもない。ひょっとして雑誌の掲載順と単行本の収録順が違うんじゃないか、なんて思った。いやな小学生だ。そして、描き方のバリエーションについて調べていくうちに、それに熱中してしまい、模写に関する意欲がどこかにいってしまった。
絵を描くのが好きになる人なら、描き方にバリエーションがある事に気づいても、その中で一番好きな絵を模写するのだろうと思う。僕はそうではなかった。要するに、小学生の頃から絵を描くよりも、絵をチェックする事の方が好きだったのだ。
第73回へつづく
(09.02.24)