アニメ様365日[小黒祐一郎]

第93回 『戦国魔神ゴーショーグン』

 この作品は、本放送では楽しく観ていたのだが、その後、まとめて観直した事はない。こんな時のためにLD BOXを買っておいたのだ。せっかくだから全話観直してから原稿を書こう、と思ったのだけど、他の仕事が忙しくて、その時間がとれなかった。WEBアニメスタイルでは『戦国魔神ゴーショーグン』の原作者である首藤剛志さんに連載してもらっている。首藤さんが見ているところで『ゴーショーグン』の話を書くだけでも緊張するのに、記憶モードで書かなくてはいけない。ここは開き直って、進める事にしよう。
 『戦国魔神ゴーショーグン』については、本放送時から「人を食った番組」だと思っていた。最初に変だと思ったのは主題歌の歌詞だ。ロボットアニメ史上空前の、中身のない歌詞だった。「赤いボタンを……」で始まり、後半は「宇宙」と「スペース」と「ナンバー1」を繰り返すだけ。マジメにやる気あるのかな、と思った。その歌詞が狙ったものだったかどうかは分からないが、シリーズが進むにつれて、その妙な歌詞が、作品内容にマッチしている事が分かった。
 放映されたのは、1981年7月3日から12月28日。全26話。製作プロダクションは葦プロ。原作と構成は、これが出世作となる首藤剛志。彼の仕事でいうと、その前の『巴里のイザベル』を面白いと思っていた。ただし、本放送時は『巴里のイザベル』の脚本家と、この作品の物語を作ったのが同じ人物である事には気づいていなかった。キャラクターデザインは、スタジオZ5が担当。本橋秀之が主人公側、平山智が敵側、亀垣一がメカのデザインを担当したのだそうだ。放映中からアニメファンに支持され、後にTV版を再構成した劇場版、完全新作のOVAが作られ、首藤剛志による小説版も人気シリーズとなった。
 この作品の最大の魅力は、超がつくほど個性的なキャラクター達と、彼らの軽妙洒脱なセリフのかけあいだった。ゴーショーグン側の北条真吾、キリー・ギャグレー、レミー島田のトリオもユニークだったが、敵対するドクーガのレオナルド・メディチ・ブンドル、ヤッター・ラ・ケルナグール、スグーニ・カットナルの3幹部は、さらに強烈だった。美形であり、自分の美学を重視するブンドルはナルシストで、何かにつけて「美しい」のセリフを連発。出撃時には、クラシックの名曲を流すという奇天烈な人物。元プロボクサーのケルナグールは、名前どおりの乱暴な男だが、フライドチキンチェーンのオーナーで、愛妻家。カットナルは精神安定剤を愛用。彼は確か某国大統領の息子で、親関係のトラウマがあった。劇場版では3幹部が登場するドクーガのCMが最大の見どころだった。単に個性が強いだけでなく、作り手がキャラクターに思い入れしているところが心地よかった。この作品は、後の様々な作品のキャラクター造形に、影響を与えていると思う。
 予告編も面白かった。『ゴーショーグン』のタイトルで、まず思い出すのは、ドクーガの3幹部、レミーの「シー・ユー・アゲイン」のフレーズ、それから各話の予告編だ。各キャラクターが単独で、あるいは、かけあいで話をするのだが、途中からどんどん悪のりしていった。ブンドルが「レミー・島田、きみはけなげで美しい」と決めれば、別の予告ではケルナグールが「こんな予告出るんじゃなかった」と後悔したり。あんなに予告が楽しみだった番組は初めてだった。
 物語の大筋は、グッドサンダー陣営とドクーガ陣営による、超エネルギーのビムラーをめぐっての戦い。そして、ケン太という少年を中心にした展開だった。ケン太は、ビムラーの発見者である真田博士の遺児だ。自信がないので、TVアニメ25年史の解説を引用すると「大宇宙の意志・ビッグソウルに選ばれた真田ケン太が、宇宙生命体に変革していく過程をタテ軸に」して、様々な登場人物のドラマが描かれた、とある。『ゴーショーグン』の世界では万物に心があるとされていた。メカにも心があり、シリーズ終盤では、ゴーショーグンの必殺技ゴーフラッシャーが、敵メカの心を目覚めさせる能力を持つに至った。最終的には「主人公と主人公ロボが、敵を倒す」という物語ですらなくなっていた。実は主人公は、ゴーショーグンに乗り込む、真吾、キリー、レミーの3人ではなく、ケン太だった。ストーリーとテーマが一致しており、作品として矛盾はなかったはずだが、普通のロボットアニメに慣れていた僕は、面白いと思いつつ、当惑もした。破天荒な印象が強い作品だが、敵組織ドクーガに企業としての一面があったり、物語にマスコミが絡んできたりするあたりは、それまでのロボットアニメにはないリアルさだった。
 『戦国魔神ゴーショーグン』は、僕にとってはパロディチックな作品だった。少なくとも当時は、そう思っていた。パロディといっても、具体的な何かの作品を茶化しているわけでも、なぞっているわけでもない(35身合体ゴッドネロスは『六神合体ゴッドマーズ』のパロディだったが、これは特別な例だろう)。あえて言えば、それまでのやたらと深刻ぶっていたロボットアニメや、SFアニメのパロディだった。今までにないタッチの作品だなと思ったし、アニメが変わっていくのも感じていた。

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「シナリオえーだば創作術」 首藤剛志
(『戦国魔神ゴーショーグン』の話題は第34回から)

第94回へつづく

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(09.03.26)