アニメ様365日[小黒祐一郎]

第101回 裏ビデオ

 1982年には、劇場版とTVの『コブラ』がある。だが、その前に、裏ビデオについて話をしておきたい。ビデオデッキが生活に入ってきて、僕達のアニメライフは一変した。観る事よりも、ビデオをコレクションする事が重要になっていった。視聴スタイルも変わった。気に入った場面を繰り返して観たり、コマ送りして映像をチェックする事が可能になり、そういった事に熱中した。つまり、活動がよりコアな方向に進んでいった。ビデオデッキを手に入れた事で、当時の言葉で言えば、より「マニア化」、今の言葉なら、より「オタク化」していった。
 アニメライフが、ビデオを中心にして回るようになった。友達に録画を頼んだり、仲間で集まってビデオを観たりするようになった。大学に入った頃には、地方にマニアの知り合いができていたので、再放送の録画を頼んだり、逆にこちらでしか放送していない番組の録画を頼まれたりした。念願の『大空魔竜ガイキング』の金田伊功回が観られたのも、大学に入ってからだ。そんな中、僕の周りに裏ビデオが出現した。
 裏ビデオという言葉は、無修正のポルノビデオを指すのが本来の使い方だと思うが、この頃は、アニメや特撮の裏ビデオも流通していた。と言っても、都内限定の話題だろうし、その存在を知っていたのはマニアの中でも一部だっただろう。一般に流通していないレアなアニメをレンタルするビデオ屋があり、過去の特撮番組を有料でダビングするショップがあったのだ。勿論、アンダーグラウンドな世界の話である。言い訳になってしまうが、当時の僕達は著作権に関する意識が低かった。以下の話は、違法にアニメを観る事を勧める意図ではなく、単に昔そういった事があったという思い出話だ。
 まず、過去の特撮番組を有料でダビングするショップについては、友達に、チラシを見せてもらった。そのチラシには、かつての特撮番組のタイトルがズラリと並んでいた。地方での再放送を録画し、それをマスターにしてダビングしていたのだろう。当時は特撮もののビデオソフトもまだ少なく、正規の方法では、過去の作品を観る機会が少なかったのだ。チラシに掲載されていたダビング料は千円単位だったが、「ウルトラセブン」12話だけがベラボウに高く、1本1万8千円したと思う(確かそのくらいだった。あまりの高さに驚いたので、価格を覚えている)。僕は12話を観た事がなかったので、是非観たかったが、とてもそんな金は出せなかった。それから、僕達の著作権に関する意識が低かったとはいえ、その金額を見れば、ヤバいものである事が分かった。それもあって、手を出さなかった。国内未放映の合作アニメ、パイロットフィルムのビデオをレンタルしているショップについては、友達から噂を聞いた。今となっては都市伝説みたいな話だが、実際に彼はそこからレンタルしたビデオを持っていたので、本当にその店があったのだろう。当時、噂を聞いたのは、その2軒だ。有料ダビングをやっているショップは他にもあったのかもしれないが、僕は知らない。
 白状してしまうと、僕も、何度かレンタルショップ経由と思しき裏ビデオを観た。さすがに自分でレンタルはしなかったが、友達に観せてもらった。当時、東京ムービー新社作品は海外との合作が多く、それが雑誌で紹介される事もあった。観てみたいと思っていたそれらのタイトルが、裏ビデオとして流れてきたわけだ。僕が観たのは『コブラ』パイロットフィルム、『宇宙伝説ユリシーズ31』パイロットフィルム、国内で公開される前の『名探偵ホームズ』だ。今回は記憶モードで書いているうえに、そもそもが友達に見せてもらったものなので、その3本が、間違いなくレンタルショップ経由のものだったという確信はないが(ショップ経由ではなく、業界の知人から流れてきたものかもしれない)、とにかくその3本を1982年頃に、友達の家でビデオで観た。『コブラ』パイロットについては次回触れるが、「これって、劇場版より面白いんじゃないか」と思った。『宇宙伝説ユリシーズ31』のパイロットは、作画がテレコム・アニメーションだった。友達の家で一度観ただけなので、記憶は曖昧だが、本編とは全くキャラクターが違っていた。いかにもテレコムらしく、エネルギッシュに動いていたような気がする。『名探偵ホームズ』は音声が入っておらず、画だけのビデオだった。話は「小さなマーサの大事件!?」で、意外と地味なシリーズだなと思った。その流れなら、途中まで作られて幻で終わった合作作品『ルパン8世』のビデオも流通していそうなものだが、なぜか『ルパン8世』だけは一度も観ていない。友達は「そのレンタルショップには、他にもこんなタイトルがあったよ」と教えてくれた。その中には観てみたいものもあったが、彼が借りてこなかったので観られなかった。
 裏ビデオと言えば、少し後の話になるが、1984年に人気アダルトOVAシリーズ『くりぃむレモン』のリリースが始まる。その修正前のビデオが出回った事があるらしい。これは本来的な意味での裏ビデオだが、それを観たかどうかは記憶にない。一度くらいは観たかなあ。別の友達が「これが無修正版だ」と言って観せてくれたような気もする。さらに別の友達が『くりぃむレモン』のヤバいカットのセルを持っていたので、どちらにしても、僕は修正前の画は観ていた。セルを見た時のインパクトが強くて、無修正ビデオの印象が消し飛んでいるのかもしれない。
 ビデオというものが刺激的な存在で、それにワクワクしていた頃の話だ。ダビングショップのチラシにしても、ヤバいと思いつつも、そのアンダーグラウンドな感じにちょっと魅力を感じていたような気がする。『コブラ』や『宇宙伝説ユリシーズ31』のパイロットに関しても、作品そのものの面白さと別に、通常は観られないものを観られる嬉しさがあった。そういったビデオに関連したドキドキ感が、後の『くりぃむレモン』を含んだOVAに繋がっている気がする。

第102回へつづく

(09.04.07)