第124回 『タイムボカンシリーズ 逆転イッパツマン』
『タイムボカンシリーズ』は「ギャグ+メカアクション」をコンセプトにした、タツノコプロの看板タイトルだ。同シリーズは、初期からマンネリギャグが売りであったが、放映が続くうちに煮詰まり感が強くなり、観ていて辛くなっていった。そんな事はないよ、と言うファンもいるかもしれないが、少なくもと僕はそう思っていた。このシリーズに感じていた不満を吹き飛ばしてくれたのが、第6作『タイムボカンシリーズ 逆転イッパツマン』だ。タイトルが示すように、劣勢を覆す逆転ホームランのような作品だった。放映されたのは1982年2月13日から1983年3月26日。総監督の笹川ひろし、シリーズ構成の小山高男(現・高生)、担当ディレクターの植田秀仁と、メインスタッフは前作『ヤットデタマン』と、ほぼ同様のメンバーだ。
それまでの『タイムボカンシリーズ』も、ほとんどがヒーローものの形をとっていたが、『逆転イッパツマン』ではそれを強化。主人公の豪速九=イッパツマンを、いかにもタツノコ的なアクションヒーローとした。前作『ヤットデタマン』にもあった主人公側の巨大ロボットも、引き続き登場。逆転王と三冠王だ。そして、それまでのシリーズとの最も大きな違いは、シリアスドラマを導入した事である。さらに「イッパツマンと豪の関係は?」「隠球四郎の正体は?」といった謎をいくつも仕掛け、視聴者の興味を引く構成をとった。
『逆転イッパツマン』では主人公側も3悪側もサラリーマンであり、それも新味だった。主人公側の豪速九、彼に憧れる放夢ラン、ハル坊は、色々な時代に荷物を届けるタイムリース社に勤務しており、ムンムン、コスイネン、キョカンチンのクリーン悪トリオは、ライバル企業であるシャレコーベリース社の社員だった。クリーン悪トリオ側のドラマで、サラリーマンの悲哀が、笑いと共に描かれる事が多かった。また、両陣営のキャラクターを設定を地に足がついたものにした事で、キャラクターの存在感が増していた。
豪速九を、これまで名ナレーターとして『タイムボカンシリーズ』に参加してきた富山敬が演じていたのも、ずっと観ていたファンとしては嬉しかった。イッパツマンの決めゼリフは「待ちに待ってた出番がきたぜ。ここはおまかせ逆転イッパツマン!」というものだが、このセリフが「遂に富山敬の出番がきたぜ」という意味にもとれて、聞いていてニヤニヤしてしまう事があった。
また、ズッコケの表現として、キャラクターが「シビビン!」と叫んで、画面内を縦横無尽に飛び回るパターンが使われていた。ミニコーナー「人間やめて何になる?」も悪くなかった。お馴染みコクピットメカの扱いを含めて、ギャグも全体にキレがよかった印象だ。シリアスさだけでなく、ギャグもよかったのだ。
シリーズ最大の盛り上がりを見せたのが、30話「シリーズ初!悪が勝つ」から始まる三部作だった。「シリーズ初!悪が勝つ」では、打倒イッパツマンに燃えるコスイネンが、瞬間硬化弾を使ってイッパツマンと逆転王の動きを止める作戦を決行。同時に、シャレコーベリース社の隠球四郎がダイヤモンド弾丸で狙撃し、イッパツマンは爆発。この時点で、豪とイッパツマンの関係は明らかになっておらず、これからいったいどうなるのかという強烈な引きで、この話は終了。超シリアス展開と、7年にわたって負け続けてきた悪玉トリオが、遂に勝利したという2点において、強烈なインパクトを残したエピソードとなった。『タイムボカンシリーズ』で、最も有名な話数だろうと思う。最後に勝利したクリーン悪がハシャギまくるシーンがあるのだが、それを観て、嬉しくなったのを覚えている。
31話「登場!新イッパツマン」では、新しいイッパツマンと、逆転王に代わる新ロボットの三冠王が登場。三冠王は、変形バンクが抜群に格好いい。当時、業界の友人から、長崎重信の作画だと聞いたけれど、その後、裏をとる機会がない。また、三冠王の合体シーンでは、山本正之が歌う挿入歌「嗚呼!三冠王」が流れるのだが、これがまた名曲。本放映時には、三冠王の合体シーンで相当燃えた。この話では、後半のキーになるキャラクターである星ハルカがレギュラー入りしており、続く32話「イッパツマンの大秘密」では、豪とイッパマンに関する秘密が明らかになる。
30話から32話の3本は、かなり熱中して観た。短くはあったけれど、一週間に放映されているアニメの中で、『逆転イッパツマン』が一番面白かった時期が、確かにあった。その後の展開も決してつまらなくはないのだが、30話から32話に匹敵するほどの盛り上がりが、終盤になかったのが残念だった。
第125回へつづく
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(09.05.14)