第206回 『北斗の拳』の南斗人間砲弾
前回(第205回 『北斗の拳』)でも書いたが、シリーズ中盤以降、レイ、トキ、ラオウといった英雄的なキャラクター達のぶつかりあいがメインになり、『世紀末救世主伝説 北斗の拳』はシリアス度が増していく。僕はシリアスになってからも楽しんで観ていたが、前半のノリも好きだった。本シリーズは4部構成となっており、南斗聖拳のシンとの決着がつくまでが第1部だ。第1部は突っこみがいのあるアニメオリジナルのエピソードが続出した。『北斗の拳』の本来の魅力とはズレた部分かもしれないが、あまりにも面白いので紹介したい。
15話「3つ数えてみろ! 死ぬのはお前だ!!」は、ケンシロウが、シン一味のザリアと戦うエピソード。ザリアの南斗暗鐘拳は、鐘の音を使って人間を操ったり、死んだ人間を復活させて戦わせたりする技だ。鐘の音を使うという時点で、拳法じゃないだろ、と突っこみたくなるが、南斗暗鐘拳は相手の身体を切り裂く力もあり、拳法らしいところがないわけでもない。南斗暗鐘拳に操られた人間は、肌が青とか紫といった凄い色になり、集団でケンシロウ達を襲う。どう見てもゾンビだ。クライマックスでは、首なしの死体達が甦ってケンシロウを襲う。ザリアは、ケンシロウに攻撃を受けて、アフロヘアーがカツラであった事が判明。さらにケンシロウに倒された途端に、ミイラのような姿に変貌し、さらに雷に打たれて死ぬというオマケつき。「今回のエピソードは、ホラー映画風ですよ」という作りは、東映動画の作品らしいとも言えるが、まさかケンシロウがゾンビと戦うとは思わなかった。『北斗の拳』全エピソードの中で、一番の異色作だろう。
19話「悪党ども! 死への片道切符を用意しろ!!」では、南斗人間砲弾が登場。武器を持った味方の兵を大砲に詰めて、敵に向けて発射するというキテレツな技で、当然、そんなサーカスの出し物のような技がケンシロウには効くはずもなく、飛んできた連中は瞬殺。これも「どこが拳法だよ」と突っこみたくなるが、一応、自分達の身体を使って攻撃しているので、拳法ではないにしても、格闘技の範疇ではある。南斗人間砲弾は、シン一味のガレッキーという男が編み出したものだ。ケンシロウにやられて身体が硬直したガレッキーは、気球に乗せられた人質の子どもを助けるために、気球に向かって大砲で撃ち出される。撃ち出されたガレッキーは、気球を突き破って、そのまま地平線の向こうまで飛んでいくという大馬鹿なオチ。こんな展開でも、ケンシロウがずっとシリアスに受け答えしているのが、またおかしい。
シンの部下はおかしな奴ばかりだなと思っているところで、20話「悪夢の総力戦! 俺の拳は100万ボルト!!」では、南斗列車砲が登場。これは単なる列車砲であり、もやは格闘技ですらない。どうして南斗の冠がついてるのか、まるで分からない。日本中の視聴者が「それは拳法じゃないだろう!」と叫んだに違いない。18話からアニメオリジナルのジェニファという女性戦士が登場していたが、彼女はこの南斗列車砲によって生命を落とす。キャラが立っていただけに、こんな色物っぽい攻撃で死んでしまうのが意外だった。
突っこみながらも、そういったバカバカしさを楽しんでいたのは言うまでもない。
第207回へつづく
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(09.09.08)