第285回 『ドリームハンター 麗夢』スペシャルバージョン
『ドリームハンター 麗夢』は、アダルト作品からスタートした美少女OVAシリーズだ。主人公の綾小路麗夢は、見た目は少女だが、実年齢は不明。自動車を運転しているところをみると、本当は大人であるのかもしれない。彼女は、他人の夢に入る事ができる能力をもった私立探偵。お伴のペットは猫のアルファ、犬のベータだ。
1985年6月10日にアダルト版の『ドリームハンター 麗夢』がリリースされ、同年12月5日にエロチックな描写をカットし、新エピソードを足した一般作品『ドリームハンター 麗夢 麗夢登場/惨夢、甦える死神博士』がリリースされた。この一般作品版は「スペシャルバージョン」とも呼ばれている。おそらくは、アダルト作品であったが、キャラクター性が強く、アクションに見応えがあったため、リリース後に一般作品に切り替える事になったのだろう。「スペシャルバージョン」のあとも続編が作られ、4作目からはタイトルを『NEW DREAM HUNTER 麗夢』に変更。アダルト版を含めて、計6作が作られた。
ジャンルとしてはエロチックホラーアクションで、ロリコン風味もあった。麗夢は戦闘時には、ビキニ型の戦闘服を着た姿に変身する。『幻夢戦記レダ』と同様のビキニアーマーものだったのだ。「夢」がモチーフであり、エピソードとエピソードの間に、教育番組的なノリで、麗夢が夢についての解説するミニコーナーがあるのも、OVAとしてはユニークだった。
僕はアダルト版を観ておらず、最初に観たのが「スペシャルバージョン」だった。ホラー的描写を含めて、盛り沢山な内容だった。B級作品的であり、ギトギトしているところが楽しかった。1話「麗夢登場」だと、クライマックスで巨大竜と戦い、2話「惨夢、甦える死神博士」だと、死神博士と麗夢がミサイルランチャーを撃ち合う。半ば無理矢理に派手なバトルにもっていく感じもよかった。今の目で観ると、いかにも1980年代OVA的な展開だ。その後、発表された『ドリームハンター 麗夢』シリーズの作品を全部観ているわけではないが、僕が観た中では「スペシャルバージョン」が一番こってりしていた。
原作・総監督は奥田誠治、キャラクターデザインは毛利和昭。「『さすがの猿飛』のあの人が遂にキャラデザインになったのか!」と思ったものだ。作画ではシリーズを通じて、谷口守泰をはじめとするアニメアールのメンバーが結集。毛利和昭だけでなく、アニメアールの代表作のひとつになっている。また「スペシャルバージョン」に関しては、アニメアールのメンバーだけでなく、活きのいい若手原画マン達も参加。クオリティも絵柄もバラついていたが、作画の見せ場は多かった。これも若手アニメーターが大勢参加した、お祭り騒ぎのような作品のひとつだ。「スペシャルバージョン」でクレジットされている原画マンは、以下の通り。
村中博美、吉田とおる、寺田浩之、沖浦啓之、逢坂浩司、柳沢まさひで、佐々木かづひろ、井上哲、野中みゆき、田中あや子、山本佐和子、黄瀬和哉、浜川修二郎、糸島まさひこ、貴志夫美子、加瀬政広、山田香、中島美子、合田浩章、市川吉幸、伊藤浩二、北久保弘之、増尾昭一、田村英樹、菊池通隆、羽原信義、大貫健一、つるやま修
さらにノンクレジットで参加しているアニメーターもいる。あまりにも偏った意見で申しわけないのだが(作画マニアであるだけでも偏っているのに、作画マニアとしても偏っているのだ)、僕の一番のお気に入りは、井上俊之が作画した部分だ。「惨夢、甦る死神博士」前半で、榊警部が、死神博士が復活した事を麗夢に語っている場面の一部だ(猟奇殺人の現場を検証する警部、女性が襲われる夢をみる部分)。ストーリー的には見せ場でもなんでもないし、カット数も多くはないのだけれど、リアルでかっこいい。素晴らしく巧い。同時期の彼の仕事だと『はだしのゲン2』に匹敵するかっこよさだ。
ところで僕は、この作品のアダルト版を未だに観た事がない。アダルト版も、決してレアな作品ではなかった。僕の活動範囲だと、大手レンタル店のアダルトアニメコーナーに、1990年代末まではVHSのテープがあった。21世紀に入ってからもあったかもしれない。今でもパッケージデザインを思い出せるくらい何度も見かけた。だけど、気がついたらレンタル店から姿を消していた。アダルト版は、LDにもDVDにもなっていないのだ。どうしても観たかったわけではないが、レンタル店からなくなったのに気づいた時は、妙に悔しかった。
第286回へつづく
(10.01.14)