第364回 『オレンジ☆ロード』とセックスと青春
TVシリーズ『きまぐれオレンジ☆ロード』の特色として、セックスを積極的に取り上げていた事が挙げられる。勿論、劇中でベッドシーンはないが、かなり際どいところまでやっていた。それまで、『うる星やつら』でも「契る」なんて言葉が出てきて驚かされたし、『めぞん一刻』にも性的な話題はあったが、『オレンジ☆ロード』はもっとあからさまであり、場合によってはギトギトしていた。原作にもそういった大人っぽいところはあるのだが、TVシリーズはその部分を意識的に押していた。自分が本放映時に中学生くらいだったら、ドキドキして観ていただろうと思う。
最初に驚いたのは3話「気分はゆれて ローリング初デート」(脚本/寺田憲史、絵コンテ/小林治、演出/郷満、作画監督/杉山東夜美)。小松と八田がディスコの前で恭介達を待っている場面だった。小松と八田の目当ては、恭介が連れてくるはずのくるみとまなみだ。小松と八田は、くるみ達に興味があり、期待に胸を膨らませていた。その場面で八田が取り出した風船を、小松は避妊具だと勘違いして、慌てる。八田が取り出したのはゴム風船であり、ギャグとしてはたあいもないものだったが、小松達の下心や、性に関する興味がモロに出た描写だった。それまでのラブコメアニメでは考えられない生々しさで、「TVアニメでこんな事をやるんだ」と思ったのを覚えている。恭介達がディスコに行く話自体は、原作にもあるのだが、風船を使ったギャグはアニメのオリジナルだ。
4話「ひかるちゃん!? お騒がせのC体験」(脚本/富田祐弘、絵コンテ/池上和彦、演出/玉野陽美、作画監督/深大寺三十郎)では、くるみの発言がきっかけで、恭介とひかるがベッドインしたという噂が学校中に流れてしまう。これは原作にもあるエピソードだ。4話はサブタイトルも、かなり思わせぶり。作り手はTVドラマ「毎度おさわがせします」的なノリを意識していたのかもしれない。ちなみに「毎度おさわがせします」は1985年に第1シリーズを放映。本作が始まった1987年には、第3シリーズを放映していた。
その次の5話「2人のひみつ、 とまどいアルバイト」(脚本/寺田憲史、絵コンテ・演出/松園公、作画監督/八幡正)で恭介は、まどかが喫茶店Abcbでバイトをしている事を知り、彼女の仕事を手伝う。バイトが終わった後、恭介とまどかは店で酒を呑む。恭介達は中学生だが、『オレンジ☆ロード』は劇中に飲酒シーンもあるし、まどかとひかるはタバコも吸う。今では考えられない作品だ。酒を呑んだ後、2人は終バスを逃してしまう。バス停前のベンチに座ったまどかは、恭介に「ねえ、今晩、泊めてくれない? ひかるには黙っているよ……」と言い、恭介にもたれかかる。その日、恭介の父親と妹達は出かけており、自宅は彼1人だったのだ。そう言われた恭介は、当然、焦りまくる。演出的には、その場面をねっとりとは描いてはいないし、ひかるがまどかを迎えにきたため、それ以上の進展はなかったが、シリーズ序盤のポイントになる場面だった。TVシリーズは、そのセリフこだわっており、後のエピソードで、まどかがどうしてそんな事を言ったのかが描かれる事になる。
22話「大人の関係!? まどか秘密の朝帰り」(脚本/寺田憲史、絵コンテ・演出/池上和彦、作画監督/八幡正)は強烈だった。ホテルと思しき建物から、早朝、まどかと見知らぬ男が出てくるのを恭介が目撃。その後、恭介はゆかりという女性に連れ回されて、最後に2人はホテルの前に立つ。恭介は焦り、そして、「本当に、大人の関係をする事になってしまうとは……」と例のナレーション。ゆかりと恭介は手を繋いだままホテルに入り、廊下で口づけをかわしそうになる。盛り上げるだけ盛り上げて、やはり「なーんだ」というオチがつくのだが、途中までの展開はアダルティ。恭介がゆかりに連れ回され、ホテルに入るのはアニメオリジナルの展開だ。
ホテルと思しき建物からまどかと一緒に出てきたのは、まどかの従兄弟で、バンドをやっている秀一だった。まどかもバンドに参加しており、恭介が目撃したのは、朝までライブの打ち合わせか、練習をしていた日の帰りだったようだ。そして、ゆかりは秀一の恋人だった。ゆかりは、43話「傷心のひかる! 追いかけて冬海岸」(脚本/富田祐弘、絵コンテ・演出/森川滋、作画監督/山本哲也)で再登場する。この話で、ついに恭介は、彼女と関係を持ってしまう。ゆかりのマンションで、2人で酒を呑んで、いい雰囲気になる。そして、恭介は彼女のベッドルームで目を醒ます。枕元にティッシュの箱と丸められたティッシュがあるのにも注目したい。劇中ではっきりと2人が関係を持ったとは語られてはいないが、状況からして、やったと見るべきだろう。春日恭介、童貞喪失。中学生を主人公にしたラブコメアニメとしては、ショッキングな展開だった。43話は童貞喪失を別にしても、異色作であり、傑作である。それについては改めて触れる事にする。
一番笑ったのが、29話「泣くなジンゴロ! 愛と青春の発情期」(脚本/寺田憲史、絵コンテ・演出/森川滋、作画監督/林隆文)だ。サブタイトルになっているジンゴロとは、春日家のペットである猫の名前だ。猫の発情期をテーマにするのも、ちょっと凄いが、面白かったのは、前半の保健室のシーンだ。恭介がひかるを相手にして、ジンゴロの発情期について話をしていると、ひかるは恭介が自分の身体を求めていると勘違いしてしまう。彼女はそのまま保健室のベッドで結ばれるつもりになり、席を外して、水道で口をゆすぐ。そのあたりのひかるの舞い上がりぶりが凄まじい。これから起きる事を妄想し、セーラー服の袖でヨダレをぬぐったりする。このシークエンスはラブコメというよりは、エロコメ。最近のアニメだと『B型H系』に近いノリだ。僕はこのシークエンスがお気に入りで、アニメージュのTVアニメーションワールドで、ここだけ抜き出して、フィルムストーリーにしてしまった。
29話で、女子更衣室を覗こうとしてた小松が「思春期と発情期は、理性との戦い」と言っている。思春期と発情期を同等に扱ってしまうところが『オレンジ☆ロード』らしいと言えるかもしれない。ストイックな演出で、思春期のセックスへの興味を描いていたために、他作品にはない味わいが生まれていた。
第365回へつづく
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(10.05.13)