第367回 『オレンジ☆ロード』と青春の空回り
本放映時に「このシリーズは、青春ものなんだな」と思ったのが、11話「鳴らさないで! ウエディングベル」(脚本/静谷伊佐夫、絵コンテ・演出/森川滋、作画監督/渡辺真由美)だった。
恭介は、まどかがどこかの誰かと結婚してしまうと思い込んでしまう。彼女の結婚を止めるために、髪をオールバックにし(多分、ポマードをたっぷりつけて)、ジャケットにネクタイ姿でバッチリ決めて、Abcbに向かった。その姿をまどかに笑われ、マスターには「あれ、誰かご不幸があったの?」なんて言われてしまう。しかも、まどかへの説得を始める前に、彼女は迎えにきた自動車で式場に向かってしまう。一度は意気消沈した恭介だったが、マスターの助言を受けて、自転車で結婚式場に向かう。
最後はダスティン・ホフマンの「卒業」のパロディになってしまうのだが、それはどうでもいい。懸命に自転車を漕いで、式場に向かう様子がいい。自転車で自動車に追いつけるわけもなく、急な坂道を一気に登ろうとしてへこたれる。超能力を使ってスピードアップするが、道を横断する親子連れが視界に入って、スピードを落としてしまう。脳裏にまどかとの思い出が次々に去来し、彼女への想いが高まる。おそらくは、自分のふがいなさも後悔しているのだろう。恭介は超能力を使うのも忘れ、ひたすらペダルを漕ぐ。決めていた髪はボサボサになり、ジャケットもどこかで脱ぎ捨ててしまった。それでも恭介は漕ぎ続ける。演出も選曲も素晴らしく、恭介の熱い想いを描ききった傑作だ。このエビソードは、観返しても胸にくるものがある。
勿論、まどかの結婚事件には「なーんだ」というオチがつく。やはり恭介の勘違いだったのだ。結婚式場にかけつけたものの、恭介は告白もしないし、この話で彼女と結ばれる事もない。大騒ぎは彼の一人相撲でしかなかった。ボロボロになるくらい必死になったけれど、得るものはなかった。自分のまどかへの気持ちを確認しただけだった。だけど、そういった空回りのみっともさなが、いかにも青春だ。
恭介がまどかを追って激走する話は、もう1本ある。16話「信じる 信じない UFOを見たまどか」(脚本/大橋志吉、絵コンテ・演出/森川滋、作画監督/後藤隆幸)だ。この回のクライマックスでは、恭介は自転車でバイクを追い越し(この話では超能力を使っていたようだ)、自転車を降りて川の中を走り、最後には雨傘をパラシュート代わりに大ジャンプまでして、まどかを追う。文章で紹介するとまるでギャグのようだが、ギャグではない。若さが迸った青春の疾走だ。この話も演出は森川滋だ。彼の作品は『オレンジ☆ロード』としては過剰なところがあったかもしれないが、その若々しい仕事ぶりは、青春ものと実に相性がよかった。
第368回へつづく
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(10.05.18)