第371回 『オレンジ☆ロード』のほろ苦さ
TVシリーズ『きまぐれオレンジ☆ロード』には、タイムスリップをモチーフにした話が数回ある。最初が32話「誕生日は二度来る!? 時をかける恭介」(脚本/富田祐弘、絵コンテ・演出/新林実、作画監督/山本哲也)であり、次が38話「恭介時間旅行! 3度目のクリスマス」(脚本/大橋志吉、絵コンテ・演出/須田裕美子、作画監督/林桂子)だ。32話は、『オレンジ☆ロード』としては珍しくSF色が強い話で、僕は当時感心してアニメージュのコラムで取り上げたはずだ。ただ、その後に放映された38話は構成が凝っており、面白さでいったら、こちらの方が上だった。
38話「恭介時間旅行! 3度目のクリスマス」はクリスマスパーティの話だ。そのパーティは小松と八田の仕切りで、カップルでないと参加できない。なりゆきで、恭介はひかるをパーティに誘う。まどかは、クリスマスイブは姉に呼ばれているというのだ。パーティがはじまり、恭介は、まどかが言った事は嘘であり、彼女が寂しいイブを過ごしている事を知る。
その後、階段から転げ落ちてしまった恭介は、それをきっかけにして、運よくイブの朝にタイムスリップする。今度はまどかをパーティに誘うが、パーティ会場の前で、二股をかけていた事がひかるにバレてしまい、結局、2人から振られてしまう。恭介は、今度は自分の意志で階段を転げ落ちて、またイブの朝にタイムスリップ。まどかとひかるの両方に声をかけて、2人を連れてパーティに向かう。
タイムスリップするたびに、恭介はAパート頭に戻る。戻るのは、パーティの準備中にクリスマスツリーから恭介が落ちる場面だ。具体的に言うと、階段を転がった次のカットで、パーティ会場の床に恭介が落ちるという繋がりになる。この繋ぎ方が、演出的にシャープであり、かっこいい。また、恭介に詰め寄った勇作が事故に遭う、迷っているお婆ちゃんに道を教える、勇作がペットをパートナーにしてパーティにやっているというシチュエーションを繰り返し、繰り返すたびに、少しずつ違った結果になるのも面白い。話を作り込んでいる感じがいい。ちなみに、この話を久しぶりに観直して、細田守版の『時をかける少女』に似ていると思った。さらに余談をつけ加えると、この「恭介時間旅行! 3度目のクリスマス」には、ちゃんと理科実験室の場面もある。これは「時をかける少女」へのオマージュだろう。
シチュエーションの積み重ね方は違っているが、恭介がイブの日を3度体験して、最終的に2人を連れてパーティに行くまでは、原作と同じ展開だ。原作ではそのままハッピーエンドになり、恭介、まどか、ひかるが乾杯したところで終わる。ところがアニメはその続きがある。パーティが始まったところで、恭介の祖父母が、サンタクロースの衣装を着て、空飛ぶソリでパーティ会場に飛んでくる。祖父母も超能力者なのだ。超能力がバレてはまずいと思った恭介は、慌てて会場から飛び出すが、空飛ぶソリにぶつかって、そのまま階段を転げ落ちてしまう。転げ落ちた次のカットは、準備中のパーティ会場の床に落ちる恭介。つまり、不本意にもまたAパート頭に戻ってしまったわけだ。そこでアニメ版のこの話は終了。展開をひとつ足してアンハッピーエンドにしているわけだ。
アニメ版では、恭介がうまくやれないまま終わり、観ている側もモヤモヤしたものを抱えたままエンディングを観る事になる。この脚色は『オレンジ☆ロード』における原作とアニメ版の関係を端的に示している。ホンワカした原作に対して、アニメ版はドライだ。「2人の女の子と仲よくなるなんて、世の中そんなに上手くいくわけないだろ!」という作り手の主張が、こめられているように思えてならない。
本放映時には、話の作り込み、シャープな演出、オチの意外さを楽しんだけれど、今観返すと、モヤモヤした終わり方が切なくていい。ほろ苦さがいい。恭介が床に落ちたところで、小松と八田が、恭介に声をかける。八田は「メリークリスマス! ミスター優柔不断!」と冗談を言う。つまり、恭介は、まどか達と上手くやるためにタイムスリップを繰り返し、そのたびに「ミスター優柔不断!」と言われてしまうわけだ。作り手の嫌味が効いている。
タイムスリップは関係ないが、31話「まどかと勇作! 青春かけおち行進曲」(脚本/富田祐弘、絵コンテ・演出/横山広行、作画監督/貴志夫美子)も終わり方が印象的だ。具体的な事は書かないけれど、よくある「いい話」と正反対の終わり方だった。このラストシーンも好きだ。青春って切なくて、ほろ苦いものだよなあと思う。
第372回へつづく
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(10.05.24)