WEBアニメスタイル｜アニメ様365日第390回　『ミスター味っ子』と変態料理人募集

第390回　『ミスター味っ子』と変態料理人募集

　昨日までの原稿で、『ミスター味っ子』について書きたい事はだいたい書いた。もうひとつ書いておきたいのは、トリップシーンに代表される派手な描写と、第２部クライマックスにあったような観ていて照れくさく感じるドラマは、表裏一体だったという事。その両者は、表現している感情と、表現方法が違うだけで、どちらもキャラクターの感情を真っ直ぐに表現したものだ。つまり『ミスター味っ子』とは、キャラクターの感情表現に重きをおいた作品だった。そのあたりについては、考えをまとめてから、いつか書きたいと思う。
　第380回「『ミスター味っ子』続き」でも書いたけれど、僕は『ミスター味っ子』では色々な仕事をやらせてもらった。やはり一番思い出深いのが、アニメージュ文庫の「ミスター味っ子　うまいぞーＢＯＯＫ」だ。久しぶりに読み返したが、頑張って作っている。放映が終わった後に作った本だが、カラーページでフィルムストーリーにしたのは、１話「天才料理人・味吉陽一登場！」、９話「決着ステーキ・コンテスト」、20話「日本の味・お茶漬け勝負」、28話「激闘！大阪城・　カレー丼春の陣」。シリーズ初期の話ばかりだ。第３部や第４部のクライマックスを取り上げるよりも、第２部までの傑作をピックアップした方が、『ミスター味っ子』の魅力を伝えられると判断したわけだ。巻末の今川泰宏監督へのロングインタビューも、充実したものになっている。自分で充実しているなんて言うのもどうかと思うけれど、とにかく、当時の僕は頑張っている。
　アニメージュの記事で思い出深いのは「変態料理人募集」だった。1988年の８月号（vol.122）のアニワルで、今川監督に長めのインタビューをとった。そのインタビュー記事は、以下のようなかたちで終わっている。

ＡＭ　最後にファンに一言。
今川　うーん。
ＡＭ　ファンレターきますか。
今川　こない（笑）。あっ、これ載せてください。「あなたの考えたトリップシーン、あなたの考えた変態料理人を募集します」
ＡＭ　応募したらテレビに出ますか。
今川　面白いのがあったら出します。それからマジメに見てください（笑）。マジメなアニメですから。マジメに見てくださいというか、ぼくはマジメに作っていますので。
ＡＭ　ギャグアニメではない。
今川　ぼくらは非常にマジメに作っていますから、人を笑わせようなんて思っていません。ベースはものすごくマジメに作っています。そのうえにたまたまいろんなものが乗ってますけど。
ＡＭ　なるほど。そのいろんなものがハデすぎるわけですね。
（'88年６月16日）

　といった経緯で、インタビュー中に、トリップシーンと変態料理人のアイデアを募集する事が決定。アニメージュ読者から、沢山のアイデアが寄せられ、３ヶ月後の11月号（vol.125）で、結果を発表した。一番面白かったのが、変態料理人のアイデアで、東大医学部卒の刺身料理の天才であり、包丁のかわりにメスを使う男についてのものだった。記事では「このアイデアは多少手を加えられてテレビに登場する可能性が高いそうだ」と説明しており、実際にそのアイデアはアレンジを加えられて、本編で使用された。それが、第３部で登場した味将軍グループの阿部一郎だった。アニメージュの記事から、『ミスター味っ子』のキャラクターが生まれたのも嬉しかったし、それが七包丁最強という特別なキャラクターであったのも誇らしかった。
　アニメ雑誌の記事と作品をリンクさせる面白さを初めて感じたのが、この募集企画だった。後にこれを発展させた記事を、僕は『新世紀ＧＰＸサイバーフォーミュラ』や『美少女戦士セーラームーン』でやる事になる。僕が、１人の監督を追いかけて何度も話をうかがったのも、『ミスター味っ子』における今川監督が初めてだった。この募集企画以外にも記事のアイデアをいただいたし、アドバイスもしてもらった。取材の合間での世間話も楽しかった。自分自身の仕事としても『ミスター味っ子』は思い出深い作品だ。