アニメ様365日[小黒祐一郎]

第414回 『うろつき童子』もう少しだけ

 『うろつき童子』初期3部作は、大変に刺激的であり、ギラギラした作品だった。そんなアニメは観た事がなかった。SF伝奇アクションとしても、アニメーションとしても見応えがあった。劇中にある破壊願望や、人間に対する不信感のようなものも、若い僕達には心地よかった。アダルト作品であるので、当時にしても、多くの人が観たわけではなかったけれど、濃いめのアニメファン(騒いでいたのは、大半が若い男性だったとは思うが)にとっては、かなりの話題作だった。
 今の目で観ると『うろつき童子』初期3部作も、リリース当時ほどには刺激的な作品ではない。それは僕が年齢を重ねたためでもあるし、『うろつき童子』の後、多くの刺激的な作品に触れてきたためでもあるだろう。だから、若い人が観ても、当時の僕達のような衝撃を受けたりはしないかもしれない。ではあるのだけれど、初見時に受けたインパクトは大変なものだった。それが重要だ。当時の印象を文章のかたちにしておきたくて、前回までの原稿を書いた。
 『うろつき童子』初期3部作について、実はちょっと残念に思っていた事がある。作品が残念なのではなくて、扱われ方が残念なのだ。あれほどインパクトがあり、傑作と評されてしかるべきタイトルであるのに、作品として扱われる機会がほとんどなかった。見逃しているだけかもしれないけれど、少なくとも、僕の印象としてはそうだ。
 アニメ史を振り返って、傑作や意欲作であるのにも関わらず、語られる機会が少ないタイトルがいくつかある。僕にとっては、その代表が『うろつき童子』初期3部作なのだ。あんなに凄い作品なのに、どうしてこんなにも、作品として語られないのだろうかと、ずっと思っていた。勿論「アダルトアニメの大ヒット作」として、あるいは「触手アニメの先駆け」としては話題になる事はあるが、それとはちょっと別の話だ。
 20歳くらいの若いアニメファンが『うろつき童子』を知らないのは当然としても、1980年代のOVAを沢山観ているような、30代のアニメマニアと話していて、彼が『うろつき童子』の事をよく知らなかったりするとがっかりする。いや、『1』がリリースされた頃には、彼は未成年だったわけだから、観ていなくとも仕方ないのだが。
 アダルトアニメという作品の性質ゆえに、後の世代に感想や評価が伝わりづらかったのだろう。自分の事を振り返っても、積極的にこの作品を語ってきたわけではなかった。文章にしたのは、この一連の原稿が初めてだ。そんな負い目もあって、「アニメ様365日」では『うろつき童子』初期3部作についてきちんと書こうと思っていた。ある程度の文章量がないと、伝えたい事が伝えられないだろうとも思っていた(少ない文字数で「包丁で×××を切っちゃうのが凄い」と書いても、単に変なアニメだと思われるだけだ)。
 きちんと伝えられたかどうかは分からないけれど、前回までの5回で、『うろつき童子』初期3部作について、書ける事は書いた。少しだけ、負い目がなくなった。

第415回へつづく

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(10.07.23)