アニメ様365日[小黒祐一郎]

第425回 『魔境外伝 レ・ディウス』

 『魔境外伝 レ・ディウス』は、僕にとって「いつか観返したいOVA」だった。これはリリース当時にも、あまり話題にならなかったタイトルだ。アニメ雑誌でも、大きく扱われたのを見かけた記憶がない。ビデオレンタル店でたまたま手にとって観てみたところ、なかなかよかった。集中して観たわけではなかったので、頭からじっくりと観直したかったのだが、すでにビデオの返却時間が迫っていた。よし、時間がある時にまたレンタルしよう。そう思ったのはいいけれど、再見するきっかけがなく、あっという間に20数年が過ぎてしまった。
 あっという間に20数年が過ぎたなんて、若い人は冗談のように思うかもしれないけれど、本当にあっという間だった。他の多くのOVAと同じように、気がついたら、レンタル店から、この作品のビデオパッケージは姿を消してしまっていた。昨年、事務所近くのレンタル店で発見したのだが、次にその店に行った時には、すでに撤去されていた。いい機会なので、この原稿を書くために、ネットオークションで中古ビデオを落札。ようやく再視聴する事ができた。

 ビデオがリリースされたのは1987年12月1日。50分弱の作品だ。異星を舞台にしたロボットアクションであり、主人公のライオット(声/矢尾一樹)は、女性型人工生命体であるスピカ(神代智恵、現・知衣)とセネカ(中村敏美)と共に旅をしている。彼らの目的は無限のエネルギー鉱物資源リドを手に入れる事だ。ヒロインは、そのリドと因縁のある少女ユタ(水谷優子)。敵はデムスター一味のカイザー(若本規夫)だ。終盤ではライオットが巨大ロボットのレディウスに乗り込んで、敵ロボットと対決。ジャンルとしては、ヒーローロボットものである。
 主要スタッフは以下のとおりだ。


脚本/園田英樹 演出/加戸誉夫 絵コンテ/鍋島修 監督/根岸弘
キャラクターデザイン/阿乱霊 アニメーションキャラクター/田村英樹
メカニックデザイン/羽原信義、佐野浩敏、大森貴弘 作画監督/本橋秀之
メカニック作監/佐野浩敏、羽原信義 美術監督/島崎唯 音響監督/清水勝則
音楽/難波弘之 原画/工藤柾輝、西澤晋、羽原信義、松尾慎、西井正典、新井浩一、寺東克己、村田美樹子、伊藤久美子、佐藤裕一、大森貴弘、堀川耕一、江面久、高橋敏雄、高見明男、戸倉紀元、中山勝一、山本正文、吉川佳正、野中みゆき、井上哲、アニメアール、スタジオギグ
製作/東宝株式会社、葦プロダクション


 ビデオパッケージに記されたキャッチコピーは「『イクサー1』の阿乱霊が描く 未来世紀アニメーション」。企画としては、マンガ家である阿乱霊のキャラクターがセールスポイントだったと思われるが、それを元にアニメーターの田村英樹がキャラクターデザインをおこしており、さらに実際の画面は、作画監督である本橋秀之の画風でまとめられている。阿乱霊の持ち味も、田村英樹の持ち味も出ているとは言いがたい。聞いた話だが、田村英樹のデザインと別に、本橋秀之が作画用のキャラクター設定をおこしており、それを元に作画が進められたのだそうだ。
 主人公側の4人のキャラクターの内の3人が、少女キャラである事。そして、スピカとセネカがレディウスと融合し、パワーアップさせるという設定。そして、3人の少女の軽いノリが、いかにもこの頃のOVAらしい感じだ(話は変わるが、セネカは、おそらくは芝居慣れしてないであろう役者さんの演技のため、なかなかインパクトのあるキャラクターとなっている)。見どころは終盤のロボットアクションだ。レディウスと敵ロボットのバトルは、ボリュームもたっぷり。佐野浩敏、羽原信義をはじめとする若手アニメーター達の作画が炸裂。おそらく、一番濃密な原画を描いてるのが佐野浩敏だろう。バトルが始まってからは、他に話をふったりせず、ストレートにアクションのみをやっている。それが非常に気持ちがいい。

 コアなロボットアニメファンとして言わせてもらうと、『魔境外伝 レ・ディウス』には『六神合体 ゴッドマーズ』を思わせるところが随所にあった。まず、主人公がロボットの名前を叫んで、それを呼び出すところが『ゴッドマーズ』的。キャラクターがロボットのコクピットにいるカットの構図も『ゴッドマーズ』風。アクションの途中で、ロボットの脚を長めに描くところも『ゴッドマーズ』を彷彿させるものだった。他の処理にもそういったところがあった。
 『ゴッドマーズ』を思わせるところが多いのは、作画監督が本橋秀之だったからだけでなく、絵コンテを鍋島修が担当していたからだ。若手スタッフのリスペクトもあったのだろう。その一方で、若手アニメーター達のメカ作画は、ディテール、ボリュームの出し方、タイミングなどは、当時最新のものだった。『ゴッドマーズ』はヒーローロボットアニメとして完成度の高い作品だった。それを、最新の作画と若手のエネルギッシュな仕事で進化させたものだと、僕は捉えている。

 第415回 『破邪大星 彈劾凰』でも書いたように、リアル系のロボットアニメに少し飽きてきた頃だった。『魔境外伝 レ・ディウス』は『破邪大星 彈劾凰』と同じく、「やっぱり、ヒーローロボットアニメっていいよなあ」と思わせてくれる作品だった。

第426回へつづく

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(10.08.09)