第428回 『大魔獣激闘 鋼の鬼』
OVA『大魔獣激闘 鋼の鬼』は、平野俊弘(現・俊貴)監督の作品だ。リリースは1987年12月10日。ちなみに、彼はこの年に『戦え!! イクサー1 Act-3 完結編』と、『破邪大星 彈劾凰』第1巻と、このタイトルを発表している。原案・脚本は会川昇(現・會川昇)、メカデザイン・特技監督が大畑晃一、キャラクターデザインは恩田尚之。そして、作画監督が恩田尚之、大張正己、佐野浩敏という強力な顔ぶれだ。制作はAIC。平野監督は『マジンガーZ』のリメイク作品である『大魔神我』の準備を進めていたが、その企画は中断。『大魔神我』でやろうとした事をふたつに分け、かたちにしたのが『破邪大星 彈劾凰』と『鋼の鬼』だったと言われている。『破邪大星 彈劾凰』が陽性のスーパーロボットアクションだったのに対して、『鋼の鬼』はシリアスでリアルタッチのロボットものだ。まるで方向が違う作品であるが、企画経緯を考えれば、表裏一体の作品であるのだろう。
舞台は、近未来の軍事複合研究施設。3年ぶりにそこを訪れた青年タクヤ(声/古川登志夫)と、彼の友人であるハルカ(声/井上和彦)の関係を軸にして物語は展開。2人は異次元から訪れた巨大ロボットに乗り込み、戦う事になる。友人同士だからこそ、2人は殺し合わなくてはならない。終盤は、いかにも会川昇らしい、こってりしたドラマが描かれた。また、2人の関係には、同性愛的なニュアンスがある。いや、設定的にはホモでもなんでもないのだが、表現的にそう思わせるところがあった。それが恩田尚之の耽美的なキャラクターとマッチしていた。
当時のアニメ雑誌のインタビューで、平野監督は、この作品について「アニメで怪獣映画を作ってみたいんです」とコメントしている。確かに登場する2体のロボットのシルエットは怪獣のようだ。本作はこの時期のOVAとしては珍しく、ビスタサイズで制作されている。これもかつての怪獣映画へのオマージュからきているのだろう。中盤までアクションはなく、ロボットも登場しない。視聴者に、早くバトルが始まらないかなあと思わせ、ジラしにジラしておいて、最後にたっぷりと派手なロボットバトルを見せる構成だ。そんなところも、怪獣映画らしいといえば怪獣映画らしい。
2大ロボットの戦いは、ビジュアル的に充実した仕上がりで、『大魔獣激闘』のタイトルに相応しいものだった。アニメ的なデフォルメが強く、そのために怪獣映画的とは言えないかもしれないが、少なくとも僕的にはOKだった。ロボットの外見に関して、形状が呆れるほどに複雑であり、ディテールが細かいのも、作画マニア的にそそるポイントだった。ただ、スケジュールの問題か、作画的な難度が高すぎたのか、動画や仕上げが粗いカットがいくつもあった。
今の目で観ると、もっと映像を映画的に作れるだろうとか、會川脚本なら前半のドラマをもっと巧くもっていけるのではないか、などと思ってしまうけれど、それは20年以上経ったから言える事だ。当時はビスタのフレームを使った画作りに感心したし、シリアスなドラマに引き込まれた。『戦え!! イクサー1』と並ぶ、平野監督の代表作であるのは間違いない。
ところでこの作品のDVDは、レターボックスで収録されている。つまり、16:9のTVで観ると、上下左右に黒い帯が出てしまうのだ。せっかくのビスタサイズなのにもったいない。大型液晶テレビで『鋼の鬼』を堪能するのは、Blu-ray化される時までお預けだ。
第429回へつづく
(10.08.12)