アニメ様365日[小黒祐一郎]

第437回 『BLACK MAGIC M-66』

 『BLACK MAGIC M-66』も、理想的なOVAのかたちを見せてくれた作品だった。原作は士郎正宗のマンガ「ブラックマジック」。その中の「BOOBY TRAP」を元にした作品だ。監督は、士郎正宗と北久保弘之の2人。クレジットされている役職は、士郎が「原作・監督・脚本・絵コンテ」であり、北久保が「監督・構成・キャラクターデザイン」。2人がどのように仕事を分担したのかについて僕は知らないが、北久保がプロデューサー的な仕事、アニメ用のデザイン、演出処理を担当。士郎がストーリーと絵コンテを担当したのだろう。本作のエンターテイメント指向は、北久保のものでもあるのだろうと思っている。青心社から本作の絵コンテ本が発売されている。絵コンテ自体の情報量は驚くほど多い。また、巻末に士郎の手になるキャラクターや美術のデザイン原案、ストーリー案が収録されており、細部まで彼がプラニングしている事が分かる。
 リリースされたのは1987年6月28日。47分ほどの作品だ。作画監督は沖浦啓之、メカニック作画監督が吉田徹。クレジットから察するに、作画の主力はアニメアールとアトリエ戯雅、宇都宮智(現・うつのみや理)や大平晋也といったメンバーも、原画として参加している。

 タイトルになっている「M-66」とは、自律型機動歩兵の事だ。主人公は女性ジャーナリストのシーベル(声/榊原良子)。ストーリーは至ってシンプルだ。M-66を輸送していたヘリが墜落。M-66が動きだし、人々を襲う。M-66には、開発者の孫娘であるフェリス(横山智佐)のデータが標的として仮入力されており、彼女の命を狙う。M-66は強力であり、追ってきた軍人達を蹴散らしていく。この事件を追っていたシーベルは、なりゆきからフェリスを守ることになる。
 本作は単純に面白い作品だった。そして、単純に面白いものが、いかに素晴らしいかを思いしらせてくれた作品だった。内容が分かりやすい上に、安っぽくないのも重要な点だ。男まさりの女性ジャーナリストが、お嬢様を助けながら、凶悪な殺人アンドロイドから逃げ続ける。いくつもの危機を乗り越え、最後には機転と運で、殺人アンドロイドを倒す。アクション満載であり、そのアイデアも豊富。ドキドキハラハラ。まるでよくできたハリウッドのSFアクション映画を観ているようだった。M-66が軽業的な体術を使うところも面白いし、ワイヤーを使った戦闘も目新しいものだった。描写は基本的にリアルタッチであり、特にエレベーターの中で、M-66とシーベル達が対峙する場面は、背景動画を使った演出が効いており、臨場感があった。

 スタッフ的な事でいえば、若手アニメーターであった沖浦啓之の名を知らしめた作品でもあった。彼は本作の制作中に20歳になったのだそうだ。誤字ではない。ハタチである。早熟にもほどがある。リリース当時は、そこまで若いアニメーターだとは知らなかったが、巧い人が出てきたな、とは思った。メカや人物のかたちのとり方を、かっこいいと思った記憶がある。今の目で観ると粗いところもあるのだが、当時の感覚としては、かなりリアルな作品であり、ビジュアル的にも見応えがあった。
 もうひとつ付け加えると、本作で見事なのは、登場人物の紹介。設定の説明を最低限に抑えて、見せ場中心に構成しているところだ。だから、50分弱の長さでも満足度は高い。

第438回へつづく

ブラックマジック M-66

カラー/47分/ドルビーデジタル(ステレオ)/片面1層/スタンダード
価格/3990円(税込)
発売・販売元/バンダイビジュアル
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ブラックマジックM66絵コンテ集

青心社/単行本/1344円
ISBN : 9784915333309
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(10.08.25)