第478回 「ＴＶアニメ25年史」と「劇場アニメ70年史」（６）
前回の原稿について、読者の方から間違いを指摘していただいた。『名門！ 第三野球部』の放映開始日が間違っていたのだ。という事は「ＴＶアニメ25年史」の校了日もズレる事になる。「僕の記憶が正しければ……」と前置きしていたが、記憶が正しくなかったのだ。一応、言い訳をしておくと「25年史」に掲載されている『名門！ 第三野球部』開始日のデータも間違っている。当時のアニメージュをひっくり返してみたところ、この作品の放映開始日は告知されていたものと変更されており、「25年史」の記述はそれに合わせているようだ。昨日の原稿は修正した。ご指摘感謝。やっぱり慌てて原稿を書いてはいけないと反省した。
とにかく「25年史」が発売された。ある有名マンガ家の怒りに触れて、書店から回収されたという噂が流れたが、それは「25年史」で、そのマンガ家の原作作品に関して、写真の掲載が許可がおりなかった話（その部分は空白になっており「※版権所有者の承諾が得られず、写真掲載ができませんでした」と説明が添えられている）が、曲解されて伝わったのものだろう。回収されたと誤解されてもおかしくないくらい、「25年史」はよく売れた。あっという間に書店から消えたと記憶している。ではあるが、増刷はされなかった。前にも書いたように、この本は「創刊10周年記念だから」という理由で写真の掲載料などについて、各版権元に便宜を図ってもらっていた。そういった経緯があったので、売れたからといって再販するわけにはいかなかったのだと聞いている。
業界の評判はよかったそうだし、僕の友人も好意的な感想をきかせてくれた。ただ、僕自身は本の仕上がりにがっかりした。「25年史」は誌面に凸凹がある本になってしまったのだ。写植に入れた直しが半端に直っていて、結果的におかしな文面になっているところがあるし、写真の上に写植が重なってしまっている箇所もある。写植を作字をしなくてはいけない個所に、作字した写植が貼られておらず、仮に入れておいた★の文字のまま印刷されてしまったところが数ヶ所ある。そうなってしまったのは、無茶な進行と、校正段階でのツメの甘さのためだったのだろう。
読者の方達はあまり気にならなかったかもしれないし、数年経って読み直してみたら、自分でも意外としっかりとできた本だと思えたのだけれど、とにかく本ができあがった時には、そういった凸凹が残念でならなかった。あんなに頑張って、完璧を目指したはずなのに、どうしてこんなボロボロの出来になってしまったのだろうかと思った。しばらくの間、「25年史」の仕上がりは、僕にとってトラウマとなった。
「70年史」にも触れておこう。「25年史」の校了の１月後に「70年史」も校了した。「70年史」の追い込みは「25年史」よりはずっと楽だった。「70年史」は「25年史」よりも扱う作品が少なかった。さらに「70年史」は３部構成であり、第１部は『白蛇伝』以前の作品を扱い、第３部は読み物風の構成で、非商業作品を扱っていた。第１部はアニメーション研究家の渡辺泰さん、第２部は同じく岡田英美子（おかだえみこ）さんが担当しており、僕はそのパートには触れていない。第２部の『白蛇伝』以降の商業作品を担当しただけだ。本の仕上がりについても、凸凹は少なかったはずだ。
「25年史」「70年史」に関わった日々は、苦労ばかりだった。仕事の中でケンカもしたし、友情に亀裂も走った。ではあるが、いい事もあった。この本の仕事で、自分は経験値がたっぷりと増えた。ＲＰＧ風に言えば、ライターとしてのレベルが何段階もあがった。集中して仕事をしたのもよかったのだろうし、他のライターの原稿をチェックする作業も勉強になった。原稿執筆に自信がついたし、アニメについての造詣も深まった。自分の中で、それまでバラバラだったアニメに関する知識が整理され、系統づけられた。自分の中にアニメ年表ができた感じだった。なんだ、偉そうな事を言っているなあ、と思われるだろうが、本当にそうだった。たまには説教くさい事を書くけれど、やはり、若い頃の苦労はやっておいた方がいいようだ。
編集作業中に、亀山修さんに「25年史」と「70年史」の仕事が終わったら、ご褒美に酒を呑みにつれていってもらう約束をしてもらっていた。銀座あたりのリッチな店にでも連れていってもらえるのかと思っていたのだが、亀山さんが連れていってくれたのは、中年のママが１人でやっているバーだった。今思うと、いかにも年季の入った編集者が行きそうな、渋い店だったのだけど、当時の僕は、申し訳ない事にちょっと拍子抜けしてしまった。ママに相手にしてもらっても、リラックスして話をする事もできず、居心地が悪かった。今となってはそれもいい思い出だ。
第479回へつづく
（10.10.26）