第492回 東映長編を追いかけた
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中学から高校にかけて、あちこちの上映会に出かけて行って、過去の作品を観た。特に熱心に追いかけたのが東映長編だった。この場合の東映長編とは『わんぱく王子の大蛇退治』(1965年)、『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)、『長靴をはいた猫』(1969年)などを代表とする東映動画の長編アニメーションのことだ(定義は曖昧だが、一時期までの東映劇場作品を指す)。
自分が上映会に足を運んでいたのは、1980年前後のことだが、すでに東映長編の主要タイトルは古典的傑作群として扱われていた印象だ。実際には『太陽の王子 ホルスの大冒険』にしても、わずか12年くらい前の作品だったのだが、当時の僕の感覚としては「昔の作品」だった。そのあたりの時代感覚は、東映長編に関してだけでなく、TVアニメについても同様であったが。
自分が東映長編を追いかけはじめた理由ははっきりしている。「日本アニメーション映画史」や「アニメージュ」の記事を読んで、アニメファンとしては、これはチェックしなくては! と思ったのだ。勿論、子供の頃から、ある程度は東映長編を観ていた。僕が公開時に観たタイトルで一番古いのが、おそらくは『空飛ぶゆうれい船』(1969年)だ。『長靴をはいた猫』も記憶にあるのだが、TV放映かリバイバル(あるいは公民館などでの上映)だったかもしれない。その後の『ちびっ子レミと名犬カピ』(1970年)あたりからは観たタイトルが多い。
観ているか観てないかは単純に年齢の問題でもある。『太陽の王子 ホルスの大冒険』や『わんぱく王子の大蛇退治』といった比較的初期の作品は、「日本アニメーション映画史」や「アニメージュ」の記事を目にするまで、タイトルすら知らなかったはずだ。
前にも書いたと思うけれど、当時はビデオレンタル屋も少なかったし、ビデオソフト化されているタイトルも少なかった。アニメ専門チャンネルもネット配信もなかったので、過去の傑作を観ようと思ったら、上映会や名画座に足を運ぶしかなかった。
早稲田大学の学園祭で観たのは、確か『わんぱく王子の大蛇退治』と『どうぶつ宝島』(1971年)の2本立てだったはずだ。中学の冬休みに、東映動画(現・東映アニメーション)で、日替わりで東映長編の上映があった。とても毎日は通えないので、どれにいくかで悩んで『空飛ぶゆうれい船』に行った。子供の頃に観た作品ではあったが、アニメファンとしての目で観直してみたかったのだ。『長靴をはいた猫』も、その上映会で観たのかもしれない。
その頃、『ながぐつ三銃士』や『海底3万マイル』なども観たはずだが、どうやって観たのか覚えていない。友達が、地方での放映を録画したものを持っていた。カット版であったが、1本のVHSテープに何本もの東映長編が入っていた。彼に観せてもらったそのビデオに『ながぐつ三銃士』や『海底3万マイル』が入っていたのかもしれない。
こんな事を言うと、先輩のアニメファンに呆れられてしまうと思うが、15歳くらいだった僕には『わんぱく王子の大蛇退治』は、高級過ぎてピンとこなかった。今でも語りぐさになっているクライマックスのアクションには血も沸いたし、肉も踊ったけれど、それ以外のパートについては、自分の手には余るものだった。僕がこの作品のよさが分かるようになったのは、ずっと後の事だ。
『長靴をはいた猫』は、クライマックスの追っかけがとにかく楽しかった。格調高い作品であり、同時に愛すべきフィルムだと感じた。『どうぶつ宝島』は観る前から、宮崎駿が作画を担当した船上アクションに期待していたのだが、期待以上の仕上がりで、拍手喝采したいくらいだった。『どうぶつ宝島』はビジュアルに洗練されたところがあり、それも気に入った。
『空飛ぶゆうれい船』については、子供の頃にかっこいいと思ったところは色あせておらず、他にも素晴らしい部分をいくつも見つけた。一段とこの作品が好きになった。
その頃に観た東映長編で、もっとも感銘を受けたのが『太陽の王子 ホルスの大冒険』だった。それについては次回で。
第493回へつづく
(11.03.23)