003『キャシャーン Sins』(2008〜2009年・TV)
テキスト担当/磯部正義
【あらすじ】
ロボットたちが次々と朽ち果てていく“滅び”に満ちた世界。その荒れ果てた地を、キャシャーンは記憶を失い、あてどなくさ迷っていた。「キャシャーンを喰らえ」と迫りくるロボットたちを圧倒的な力で蹂躙しながらも、己の過去が分からない苦しみにさいなまれるキャシャーン。そんな光の見えない旅の道すがら、キャシャーンはリンゴというロボットの少女と出会う。
【解説】
竜の子プロダクションの名作『新造人間 キャシャーン』(1973〜74年)を、マッドハウス制作で大胆にリメイク。オリジナル版は、1993年にはOVA化、2004年には実写映画化もされるほど根強い人気を持つタイトルだ。今回のアニメ化においてもオリジナル版の持っていたハードな雰囲気——単純な二元論で割り切れない世界観、孤独に戦うべく運命づけられた主人公など——は踏襲され、いっそう後戻りのできない形で突き詰められている。キャシャーンやそのライバル・ディオたちが有する並外れた戦闘能力を描写したアクションは、本作の大きな見どころのひとつといえるものだが、そこに爽快なカタルシスはない。馬越嘉彦の手になるキャラクター達の、画面をねじり、歪曲させながら戦う姿は、エモーショナルであると同時にやりきれない厭戦感に満ちている。そんな悲痛な情感を、監督の山内重保は見事な筆致で描き出した。
ロボットたちにとっての「死」を意味する“滅び”がひたひたと迫る世界。暗い、赤茶けたような色彩で描写されたその画面からは、鉄錆の匂いが立ちのぼるような気がする。逃れようのない終末感で覆われた世界について「説明」ではなく、あくまで映像と音の積み重ねによって表現しようとする姿勢は、監督が一貫して追求してきた方向性といえるものだ。全24話の旅路は明朗なものではないが、とりかえのきかない魅力にあふれている。
【スタッフ】
原作/竜の子プロダクション
シリーズ構成/小林靖子
キャラクターデザイン/馬越嘉彦
音楽/和田薫
音響効果/野口透
撮影監督/棚田耕平
編集/木村佳史子
美術監督/李凡善
色彩設計/辻田邦夫
アニメーション制作/マッドハウス
監督/山内重保
声の出演/古谷徹、宮原永海、皆口裕子、チョー、矢島晶子、内海賢二
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