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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第2回 幻のVHDマガジン「アニメビジョン」

 今回は「アニメビジョン」について書く。連載第2回にして、早くも外し技である。自分が若い頃の仕事について話すなんて、まるでお年寄りみたいだ。実は最近、事務所のスタッフとか若いライターさんに「俺の若い頃はさ……」なんて話をしてしまう事がある。いかんなあ、そんなのは老け込んでいる証拠じゃないか。などと思いつつも書いてしまう。アニメマニアの方々、興味があったら読んでくだされ。

 「アニメビジョン」は1980年代後半にリリースされていたVHDのビデオマガジンだ。メーカーは、日本ビクター。今ではVHDなんて聞いたこともない人が多いだろう。レーザーディスクのライバルだったビデオディスクのことだ。VHDとレーザーディスクの関係は、ビデオで言えば、ベータとVHS。これからのメディアで言うなら、ブルーレイとHDDVDみたいなものだ。その戦いはレーザーディスクが勝利し、VHDは撤退していった。もっとも、今ではレーザーディスクの方も、ほぼ消えてしまったメディアだが。
 「アニメビジョン」のコンセプトはビデオ版のアニメ雑誌で、内容は新作の紹介、スタッフや声優のインタビューなど。新作アニメの連載もあったが、基本的には、今ならCSでやっているアニメの情報番組みたいなものだ。と言っても、当時のアニメ関係者のインタビュー映像なんて滅多に残っていないから、その内容はちょっと貴重なものになっている。昨年発売された『トップをねらえ!』のDVDBOXには、「アニメビジョン」に入っていた同作のインタビューが映像特典として再収録された。
 さらに説明すると、後の「アニメビジョン」には、VHSのビデオテープ版も出ている。僕はこのバージョンは見ていないが、VHDの内容を抜粋したもので、取材などのレアな映像はあまり入っていないらしい。

 大学時代に、僕はその「アニメビジョン」の構成をやっていた。参加したのは全巻ではない。手元に現物がないので正確には言えないが、Vol.6からVol.10あたりをやっているはずだ。僕が離れてからも、数号出ているはずだが、その内容についてはほとんど知らない。断っておくけど、以下の内容も記憶に頼って書くので、微妙な間違いがあるかもしれない。あったら、ごめん。
 僕がやっていた構成というのがどういう仕事かというと、雑誌の編集みたいなものだ。コンテンツの企画を立てて、素材をもらって、取材もして、ビデオ編集にも立ち会う。ビデオのクレジット原稿を書いて、ナレーション原稿を書いて、ブックレットも作る。
 上にはプロデューサーやディレクターもいたけれど、内容に関しては基本的にやり放題だった。別の言い方をすると、マニア全開。考えうる限り、最高のマニアックさを目指していた。しかも、その方向性に毛一本の疑いも抱かなかったのだから、若いというのは恐ろしい。今思うと、天下の日本ビクターの商品を、よくそんな若造に任せてくれたものだとも思う。喜んでそんな仕事をやる好き者が、他にいなかったのだろうか。
 僕はアニメ制作会社でアルバイトをした経験はあったけれど、マスコミの仕事は「アニメビジョン」が初めてだった。「アニメビジョン」を始めてしばらくしてから「アニメージュ」の仕事もやるようになった。自分の仕事歴をちゃんと作った事はないけれど、「アニメビジョン」の構成をやりながら、「アニメージュ」の記事を作っていた時期があるはずだ。そんな事をやっているうちに、ほとんど大学にはいかなくなり、退学。いや、放校になった。そんな意味でも「アニメビジョン」は忘れられない仕事だ。
 僕も自分が参加した号はずっと持っていたのだけれど、事務所の引っ越しのときに、見あたらなくなってしまった。数年前に、VHDのプレイヤーも壊れてしまったので、たとえソフトが出てきても、ウチでは再生できない。いや、むしろ、数年前までVHDが再生できたのが凄いと言えるかもしれないけれど。

 さて、ようやく本題だ。その「アニメビジョン」で、今でも自慢できるコンテンツがふたつある。タイトルは「Collection Collection」と「Anime Creators」。両方とも自分で企画を立てたコーナーだ。「Collection Collection」はビデオソフト化されそうもない短編フィルムを丸ごと収録するコーナーで、摩砂雪作画の『サンダーキャッツ』のオープング、庵野秀明の初監督作品『夢幻戦士ヴァリス』のプロモーションビデオ、出崎統コンテの合作作品『バイオニック6』のパイロットフィルムなどを収録した。こうしてタイトルを書き出すと自分でも呆れるくらい、マニアックなラインナップだ。当時、このコーナーを目当てに「アニメビジョン」を買う人が100人はいるよ、なんて冗談で言っていたけれど、本当に100人もいたのか、今となってはそれも疑問だ。
 僕にとって大きな仕事だったのが、もうひとつの「Anime Creators」だ。これは「WEBアニメスタイル」でやっている「animator interview」の映像版みたいなものだ。毎回、1人のアニメーターを取り上げて、作画担当シーン、原画を撮影した映像などで構成。場合によっては本人に登場して喋ってもらった。本人が映像に登場することがなくても、解説書にインタビューのテキストは掲載した。僕がやっている時に取り上げたのは、梅津泰臣、なかむらたかし、板野一郎、いのまたむつみ、大張正己、庵野秀明といった方々。この仕事は、かなり勉強になった。
 何年か前に片づけものをした時に、インタビューを掲載した解説書が出てきた。読んでみたら、今のノリと全然変わらない。今の方が、文章としての読みやすさとかを考えてるけれど、基本は同じ。自分の変わらなさに呆れるやら感心するやら。

 「Anime Creators」では、原画を撮った映像が面白かった。作品制作中の原撮ではなくて、改めて35ミリフィルムで原画を撮影して、その映像を収録するのだ。タイムシート通りのタイミングをつけるのではなく、1秒に原画を2枚ずつ見せるかたちで撮影する。撮るのはフィルムだけど、ビデオに落とすから、後でコマ送りしやすいように1秒30コマで考えて、1枚を15コマずつ撮影した。アニメーターが描き終わった原画の束を、パラパラパラめくって動きを見る。あの「パラパラ」を映像で再現したいと思ったのだ。
 その「パラパラ」を、全部の回でできたわけではない。ちゃんとできたのは、板野さんの回と庵野さんの回くらいだった。板野さんの回と庵野さんの回では、タイミングがベタづけのパラパラ原画を見せた後に、同じカットの本編映像を見せる構成になっているはずだ。例えばバルキリーがミサイルを避ける原画を見せた後に、その本編カットを見せる。原画撮りの方は1カットに5、6秒かかるけど、実際の画面はずっと短くて、一瞬で終わったように見える。パラ、パラ、バラ、パラ、パラ、ビュン! って感じだ。「この原画が、動くとこうなります!」というのが、実感できる構成だったと思う。自画自賛。
 その「パラパラ」の映像は、僕が原画を撮影スタジオに持っていって、撮ってもらった。撮影の注意書きも書いて、要するに撮出しみたいな事をしたわけだ。考えてみると、アニメ雑誌編集者にはなかなかやる機会のない、貴重な体験だ。
 板野さんに登場してもらった回は、彼がビリヤードをしてる映像から始まる。当時、板野さんはビリヤードに凝っていて、買った台をスタジオに置いていた。ご本人から、どうせ自分を撮るならビリヤードをやっているところを撮ったらどうだ、と提案してもらったのだ。なかなか面白い映像になっていたと思う。庵野さんの回では、山賀博之さん達が庵野さんについてコメントしている。これも観返したら、相当に面白いんじゃないかと思う。
 充実した回もあれば、中味の薄い回もあるが「Anime Creators」は、面白い仕事だった。同じようなスタイルで、ビデオマガジンが作れるならまたやってみたい。企画と予算のある人は声をかけてください。よろしく。

 その後も、僕は、色々とマニアックな仕事をやってきたわけだけど、ひょっとして「アニメビジョン」の仕事が、一番濃かったのかもしれない。20代の頃の仕事の方が充実していたなんて、ちょっとばかり悔しい。
 

■第3回へ続く

(05.01.20)

 
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