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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第100回 タツノコ的な『ザ☆ウルトラマン』

 随分前の話だけど、データ原口さんに「サンライズで一番タツノコの血が濃い作品が『ザ☆ウルトラマン』である」と教えてもらった。この作品のチーフディレクターは『科学忍者隊ガッチャマン』『宇宙の騎士テッカマン』等のハードSFアクションを手がけた鳥海永行。タツノコの看板監督だ。そして、キャラクターデザインが、やはりタツノコ作品にはなくてならない二宮常雄であり、メカニカルデザインのメインが大河原邦男、美術のメインは中村光毅(ちなみに、この2人が参加した『機動戦士ガンダム』は同時期の作品)。そりゃあ、タツノコの血が濃いよなあ、と思っていた。
 ところが『ザ☆ウルトラマン』DVD-BOX解説書の作品リストを見たら、それだけではない事が分かった。各話のコンテに、もうひとりタツノコを代表する監督である布川ゆうじ。各話の作画には須田正己、井口忠一の名前。さらに前回触れたように、なかむらたかしも原画を描いているし、湖川友謙もペンネームで参加。どこからどこまでがタツノコ系スタッフかの一線を引くのは難しいが、他にも作画や演出で、タツノコ作品のクレジットでよく名前を目にするスタッフが並ぶ。このまま『ガッチャマン』が作れそうなメンバーだ。
 音響ディレクターは「タイムボカン」シリーズも手がけている鳥海俊材。みみずくの竜役の兼本新吾が、『ザ☆ウルトラマン』で巨漢のマルメを演じたり、「タイムボカン」シリーズでお馴染みの滝口順平が、コメディリリーフのピグにキャスティングされているあたりもタツノコ的。印象的なのは「ウルトラ」シリーズで人気悪役のバルタン星人を、ベルク・カッツェでお馴染みの寺島幹夫が演っている事だ。こういった部分は、少なくともファンの立場としてはタツノコ的と思える。
 では、そんなスタッフで作られた『ザ☆ウルトラマン』は、いかにもタツノコ的な作品だったのだろうか。それを確認するためもあって、初期話数をDVDで再見してみた。ここで「実にタツノコ的だった」と言い切れればいいのだが、なにしろ題材は「ウルトラマン」だし、キャラクターも吉田竜夫のものではない。「見るからにタツノコ的」というわけではなかった。それでも、スーパーマードックに代表されるメカ描写を含めた、デザインや演出のシャープさがタツノコ的だと感じた。それから、第1話を観るとコミカルな芝居が『いなかっぺ大将』風だった。これは二宮常雄の個性が発揮された部分なのだろう。ハードSFアクション路線ではないが、それもタツノコ風と言えばタツノコ風。オープニングの宇宙で回転するウルトラマン、ポーズを決める科学警備隊メンバー、発進するスーパーマードックのカットは1コマ作画なのだが、1コマの使い方の見本ともいえる格好よさ。このセンスは間違いなくタツノコのものだ(ちなみに、宇宙で回転するウルトラマンは、後期オープニングではなくなってしまう)。
 ところが、『ザ☆ウルトラマン』の13話で鳥海永行はチーフディレクターを降板し、14話以降は神田武幸に交替。それと前後して、布川ゆうじ、須田正己、井口忠一といったメンバーは外れてしまう。他の作画、演出のスタッフも入れ替わっていった。これと前後して、布川ゆうじは株式会社スタジオぴえろ(現・ぴえろ)を設立し、翌年1月には同社の第1作である『ニルスのふしぎな旅』の放映がスタート。『ニルス』のチーフディレクターは鳥海が務めている。彼は、その後、スタジぴえろで『太陽の子エステバン』『DALLOS』『エリア88』といった作品を手がけていく。
 鳥海が『ザ☆ウルトラマン』を降板した具体的な理由、あるいは『ザ☆ウルトラマン』があのようなスタッフ編成で作られた理由を、僕は知らない。間違いないのは、もしも、彼が降板する事なく、その後もサンライズで作品を作り続けていたとしたら、サンライズの歴史は変わっていたという事だ。前々回にも触れたように、サンライズのカラーが確立する上で、タツノコ系スタッフの存在が重要なファクターだったと思われる。もしも、彼がそのままサンライズで作品を作り続けていたなら、サンライズは、演出面でもタツノコのカラーが強くなっていたはずだ。タツノコ系の作画スタッフも、もっと大勢参加していたのだろう。
 先日、「ANIMESTYLE ARCHIVE スカイ・クロラ 絵コンテ」の巻末記事のために、押井守監督に取材をし、鳥海永行の演出が非常に完成されたものであり、押井がその影響を強く受けている事を再確認した。押井演出のシャープさのルーツは、鳥海作品にあったのだ。彼が、鳥海から演出論を学んだ作品が『ニルスのふしぎな旅』だった。つまり、鳥海永行が『ザ☆ウルトラマン』を降板しなければ、『ニルス』に参加する事もなく、今の押井守もなかったわけだ。『ザ☆ウルトラマン』にアニメ史的な「if」を見たというわけだ。

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■第101回に続く


(08.08.29)

 
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