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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第25回 脚本家の取材は難しい

 最近とあるアニメ作品で文芸のお手伝いをしています。いえ、本業もサボってはいませんよ。早朝から夕方まで事務所で自分の仕事をやって、夕方にプロダクションに入って打ち合わせ等をこなして、夜に事務所に戻ってまた自分の仕事をやるとか、そんな感じ。二重生活です。ますます普通の生活が遠のいています。
 文芸というのは、脚本のとりまとめ役です。今回お手伝いしている作品では監督がシリーズ構成を兼ねているので、そのフォローをやっている感じです。なんで、編集者がそんな事をやっているんだ? と言われそうですが、その理由はまたいずれ。

 時々、どうして小黒さんは脚本家の取材をあまりしないんですか? と訊かれます。確かにアニメーターや演出家に比べると、脚本家の取材はあまりしてないんですよ。脚本家の仕事が外側からだとあまり分からないのが、その理由のひとつです。アニメの世界では決定稿になった脚本の内容が、絵コンテの段階でガラリと変わるなんて珍しくありません。あるいは決定稿になるまでに、監督やシリーズ構成の(あるいは、プロデューサーの)の手が入る事もあるわけで、どこからどこまでが脚本家の仕事かは一線が引きづらい。
 脚本家の方に「あのシーンがよかったですよ」と言ったら、「私はそんなシーンは書いていません」なんて返された事が何度かあります。印象的なセリフの多いある作品で、メインライターの方に取材したら、僕が記憶していたのがどれも脚本にないセリフだった事もありました。ギャフン。

 ある人に「本気で脚本家に取材するなら、フィルムを見て取材をするのではなく、脚本を読むべきだ。できる事なら、第一稿、決定稿、完成したフィルムを比較してから取材するべきだ」と言われた事もあります。これはごもっとも。本当に研究家的にあたるなら、そこまでチェックすべきでしょう。
 會川昇さんや小中千昭さんのような、個性が強い脚本家の方の仕事なら、「なるほど、完成作品ではこうなっているけど、脚本はこう書かれているに違いない」と、フィルムを観て推理する事も可能ですね。あるいは監督の個性を手がかりに「この話のこの部分は監督の色、ここは脚本家の色だろう」と考えながら観る事もできる。作画をチェックして、どれが作監の仕事でどこが原画の仕事かをあてる感覚に近いわけですが、それができる作品は、あまり多くないかなあ。
 倉田英之さんの『かみちゅ!』や、大河内一楼くんの『プラネテス』のように1人の脚本家が全話のシナリオを書いている作品なら、その脚本家が作品の物語をまとめる中心人物になっているであろう事は予想できるわけで、安心して取材ができます。

 最近、DVDの仕事で『雪の女王』の脚本を何冊か読んだんですが、これはなかなかスリリングでした。出崎統監督が脚本の内容を変える事は、ファンの方ならご存知でしょう。『雪の女王』の場合も、確かにコンテで内容が変わっているんですが、単に変えているんじゃなくて、脚本をバネにしてコンテ段階で飛躍している感じなんですね。出崎さんが脚本と格闘して、次のステップに跳んでいる。そういう部分が読みとれて非常に面白かった。
 自分が文芸のお手伝いをしている事もあって、ちょっと脚本に興味が出てきました。知りたいのは、どんなふうに脚本が決定稿になり、フィルムになっていくか。その過程ですね。

 

■第26回へ続く

(06.03.15)

 
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