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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第66回 TVマンガが「アニメ」になった時

 先日の細田守さんとの対談で『パンダコパンダ』について触れたので、この連載で『パンコパ』について書こうかと思った。いや、まてよ。『パンコパ』について書くなら、先に1980年代前半の「宮崎駿の評価の高まり」について説明しておいた方がいいか。いや、それについて触れるなら、アニメブームについて書いておくべきか。と、どんどん書くべき内容がさかのぼってしまった。そういったわけで、今日はアニメブームについての話だ。

 1978年の劇場作品『さらば宇宙戦艦ヤマト ―愛の戦士たち―』は大ヒットを飛ばし、そこから、第1次アニメブームが巻き起こった。『さらば宇宙戦艦ヤマト』で始まったブームが、劇場『銀河鉄道999』でさらに高まり、『機動戦士ガンダム』で最高潮を迎えた。劇場作品が次々と公開され、アニメ雑誌が創刊され、ラジオで関連番組が放送され、グッズが発売され、イベントが開催された。武道館を使ったイベントまであったのだ。それがアニメブームだ。現在に至るまでのアニメを取り巻く状況の基盤が、このアニメブームで形作られている。

 この第1次アニメブームで中心になった受け手は、ティーンや大学生、当時の言葉で言えば「ヤング」層だ。ブーム以前には、アニメーションは「TVマンガ」「マンガ映画」等と呼ばれており、子どものためのものと考えられていた。幼児の頃には楽しんで観ていても、成長していくうちに卒業してしまうものだった。ところがアニメブームで「TVマンガ」や「マンガ映画」と呼ばれていたものが、「アニメ」と呼ばれるようになった。ブームをきっかけにして、子どものためのお楽しみが、若者のための娯楽と認知されるようになったのだ。「アニメーション」でもなく「アニメ」だ。呼び名がアニメに変わり、世間での扱われ方が変わった。ティーン以上のファンを対象にした作品も、沢山作られるようになった。それは僕達にとって、とても大きな変化だった。
 自分の事で言えば、僕も小学校の5、6年生の頃には「自分も、もう子どもじゃないんだから、いつまでもTVマンガを観ていてはいけないんだろうな」と感じて、意識的に観る量を減らしていた。アニメブームがなければ、そのままアニメを観なくなっていたかもしれない。『さらば宇宙戦艦ヤマト』の公開は、中学2年の時だった。その前後に、それまで「TVマンガ」だと思っていたものが「アニメ」だという事になった。アニメは子ども向きのものではないから、中学生になって見続けていいのだ。そんなよくわからない理論武装をして、中学になっても胸を張ってアニメを見続けた。アニメの本を買い、イベントに参加し、スタジオ見学に行った。程度の差こそあれ、同年輩のアニメファンは似た体験をしているはずだ。煎じ詰めれば、僕にとってのアニメブームとは「TVマンガと呼ばれていたものが、アニメと呼ばれるようになった事だ」と言い切れてしまうのかもしれない(その後、月日が流れて「アニメ=若者の娯楽」と言い切れなくなっていった。単純に言葉の使われ方の問題なのかもしれないが。それはまた別の話)。
 前に話題にした『機動戦艦ナデシコ』の14話「『熱血アニメ』でいこう」で、僕はプロットに以下のようなやりとりを入れていた。冒頭で『ゲキガンガー3』のアキラとジュンペイが、TVで『ナデシコ』を観ていると、ケンが「なんだ、マンガなんか観ているのか」と声をかける。すると、アキラとジュンペイが「マンガ? 遅れているなあ。今はアニメって言うんだぜ」と答える。『ゲキガンガー』の舞台は1970年代であるから、アニメブームのネタを入れられると思ったのだ。本編では使ってもらえなかったのは残念だったけれど、気に入っている台詞だ。「マンガじゃないんだ。アニメなんだ」。つまり、中学生や高校生が観てもおかしくないものなんだ。それがアニメブーム当時の僕達の気分だった。

 アニメブーム期の作品についても触れておこう。『さらば宇宙戦艦ヤマト』が公開された1978年、翌年の1979年は日本アニメの黄金期でもある。出崎統&杉野明夫コンビは『宝島』と劇場版『エースをねらえ!』を、りんたろうは『宇宙海賊キャプテンハーロック』と劇場版『銀河鉄道999』を、富野由悠季(当時は喜幸)は『機動戦士ガンダム』を、高畑勲は『赤毛のアン』を、宮崎駿は『未来少年コナン』『ルパン三世 カリオストロの城』を発表している。後に名作と呼ばれる作品が次々と生み出されている。
 『鉄腕アトム』の放映開始から15年。国産TVアニメの歴史が始まった頃から活躍してきたクリエイター達が、作り手として成熟してきた時期なのだ。そんな時期だからこそ、ブームが盛り上がったとも言えるし、ブームの高まりが作り手に力を与えたとも言えるだろう。熱い時代だった。その熱さの中に身を置くのは心地よかった。
 思春期にブームを体験した僕達は、アニメブーム・ストライクの世代だ。こういう話をすると、若い読者は「オジサンが昔の事を自慢している」と思うかもしれない。だけど、それは構わない。もっと自慢したいくらいだ。それくらい幸せな事だったと思っている。僕達は、ビートルズの日本公演を見に行った洋楽ファンのようなものなのだ。あと20年経っても、30年たっても僕達の世代は、アニメブームの思い出を大事にしているに違いない。


 

■第67回に続く


(06.08.10)

 
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