DVD-BOXの解説書をお手伝いする事になり、サンプルビデオを観たら止まらなくなった。いい年をした大人が、このような作品を観て喜んでいてはいけない。それが分かっているけれど、やめられない。ふと気がつくと、続けて12話分も観ていたりする。ちょっと観ただけでも人間としてダメになりそうなのに、一度に12話も観たからには完全にダメである。青葉春助風に言うと、ザ・ダメ人間。何の話かと言うと『The・かぼちゃワイン』の話だ。
『かぼちゃワイン』については知らない方も多いだろうから、作品の概要から始めよう。サンシャイン学園に転校してきた青葉春助は、ナリは小さいが男らしく生きたいと考えている熱血漢。学園に着いた途端に、朝丘夏美という女生徒に惚れられてしまった。長身の夏美には、エルというニックネームがついていた。Lサイズのエルだ。奔放で情熱的なエルは、春助に積極的にアプローチを続ける。硬派の春助は、彼女を煙たがるポーズをとっているが、内心は彼女の事が好きなのだ。放映されたのは1982年7月から1984年8月で、全95話。原作は「週刊少年マガジン」に連載されていた三浦みつるの同名マンガで、制作は東映動画(現・東映アニメーション)。
さっき「ちょっと観ただけでも人間としてダメになる」と言ったけれど、これはホメ言葉だ。ダメになるくらい楽しいのである。ジャンルで言えば、学園お色気ラブコメディだ。ラブコメディに「お色気」がつく。
普通のラブコメは、物語が進むにつれて主人公であるカップルの距離が縮んでいき、たとえば最終回で結ばれたりするのだけど、春助とエルの関係は1話からすでにでき上がっていて、その後はひたすら2人のアツアツぶりを描いていく。DVD-BOX2巻の解説書では、大半の脚本を書いた雪室俊一さんに話をうかがっている。雪室さんは、この作品について「『新婚さんいらっしゃい』という番組がありますよね。あれの馬鹿々々しさに近いのかもしれない」とおっしゃっていた。さすがは雪室さん、上手い事を言う。確かに『かぼちゃワイン』は春助とエルのバカップルぶりを楽しむ作品だ。アイキャッチには毎回「春助くん、だーい好き」というエルの甘々なセリフが入り、各話の本編の最後はアツアツのシチュエーションになり、ハートマークが2人を囲んで終わるというパターンが繰り返される(ただし、このパターンはシリーズの途中から)。
問題なのは「学園お色気ラブコメディ」の「お色気」の部分である。シリーズ初期は大人しいものなのだが、物語が進むにつれて、どんどんエスカレートしていく。以下は2年めのサブタイトルリストからの抜粋だ。
60話「ナヌッ!! エルのパンティ情報」
61話「ふたりっきりの 新婚アパート」
62話「エルと二人で かけおち修業」
63話「エルがホテルで SOS!!」
64話「急接近!! 少女A」
65話「立入禁止!! 土曜の夜」
66話「ナヌッ赤ちゃんが 欲しくなった!?」
67話「ついに絶交!! おれとエル」
68話「エルを勝手に 脱がせるな!」
サブタイトルを見ただけでも「ええっ!?」と驚くようなものが並んでいる。例えば、63話の「エルがホテルで SOS!!」。普通の番組だと、タイトルが際どいものでも、実際に観てみるとそんなに過激な内容ではない場合が多い。実際に『かぼちゃワイン』でもそういう例はあるのだが、この話は本当にサブタイトルどおり。エルが、悪い男にだまされてホテルに連れ込まれる話だったのだ(男を演じているのは、若き日の千葉繁)。ホテルの一室で乱暴されそうになった彼女は風呂場に逃げ込み、「その前に、シャワーを浴びさせてください」と言って時間を稼ごうとする。あまりに彼女の対応がオトナなので笑ってしまった。ちなみに、春助もエルも中学2年生である。
63話はシリーズ中でも過激な話なのだが、他のエピソードでもエルの下着姿、入浴シーンなんて当たり前。上記のリストの中からエピソードを紹介すると、60話「ナヌッ!! エルのパンティ情報」では毎朝エルの下着の色を、電話で春助に伝えてくる正体不明の人物が登場。果たして、その謎の人物の正体は? その目的は? 61話「ふたりっきりの 新婚アパート」では春助のオジキのはからいで、春助とエルは、旅行中の新婚さんのアパートで暮らす事になった。勿論、春助は嫌がるのだが、エルは新婚ごっこが嬉しくてノリノリ。2人は新婚さんが使っているダブルベッドで寝る事になる。自分がエルにナメられていると思った春助は、ベッドの中で彼女に迫って驚かそうとする(勿論、簡単にエルにかわされてしまう)。こうやってストーリーを紹介すると、なんだかヤバそうだが、基本的に、物語はホンワカな雰囲気で展開しており、呑気に観られる番組だ。
笑ったのは、75話「テッキン公認 ふたりの時間」。春助は金持ちが飼っているアヒルを助け、それを感謝した金持ちは、学校に春助の銅像を建てる事にした。春助は銅像を建てられるのが嫌で、なんとかその計画を阻止したい。同級生の小太郎が、中学生に相応しくないハレンチな場所に出入りすれば、銅像の計画がなくなるのではないかと言いだし、春助とエルは同伴喫茶に行く事になる。同伴喫茶なんて、今の若い人には分からないだろうけど、カップルが入ってイチャイチャするための大人の店だ。劇中では、同伴喫茶のある繁華街が、ちゃんといかがわしく描写されている。57話「エルが胸キュン! タイムカプセル」は、春助が、子供の頃に埋めたタイムカプセルを掘り出す話。カプセルを埋めた場所にモーテルが建っていたため、春助とエルは客としてモーテルに入る事になる(ちなみに57話は原作にもあるエピソードだが、原作では客としてモーテルに入る展開はない)。勿論、モーテルに入ったからといって、一線を越えるような事はないのだが、40年を越えるTVアニメの歴史の中にあって、同伴喫茶やモーテルに入った中学生は、春助とエルくらいしかいないだろう。これをゴールデンタイムに放送していたのだから、大らかな時代である。
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[DVD情報]
「The・かぼちゃワイン DVD-BOX1」
XT-2330-7 /カラー/約1200分(48話収録)/8枚組/ドルビー・デジタル(モノラル)/片面2層/スタンダード
価格:37485円(税込み)
封入特典:16頁ブックレット
発売日:2006年9月27日(「DVD-BOX2」11月29日発売予定)
発売元:東映アニメーション・コロムビアミュージックエンタテインメント
販売元:コロムビアミュージックエンタテインメント
[Amazon]
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