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COLUMN
アニメ様の七転八倒[小黒祐一郎]

第94回 『旧ルパン』の「プライドとスリル」

 ちょっと前の話になるが「LUPIN THE BOX -TV&the Movie-」のライナーノートで収録作品の全解説を書いた。劇場版は全3作、TVシリーズは『旧ルパン』『新ルパン』『PARTIII』を合わせて、全228話。解説を書くにあたって、ほぼ全話を観返した。どの話も何度か観ているのだけど、通して観ると、ちょっと違ったものが見えてくる。

 『旧ルパン』に関しては、ルパンが若いと思った。若造と言ってもいい。僕が歳をとったので、そう思うようになったのかもしれない。ルパンの年齢は、劇中で一度も明らかになっていないと思うが、『旧ルパン』の彼はまず間違いなく、今の僕よりも年下だ。勿論、山田康雄や小林清志の芝居も若いのだが、それだけではない。
 特に前半の「大隅ルパン」と呼ばれるアダルトな路線のエピソードにおいて、ルパンが若い。立ち振る舞いも若い。悪党としても、後の彼と比べると、ちょっとチンピラっぽいところがある。
 例えば、第2話「魔術師と呼ばれた男」のラスト。ルパンと次元が地面に寝っ転がって空を見るところなどは青春の香りすらする。同じ話で、2人が慣れない感じで料理の支度をしているところも何やら若者っぽい。

 中でも興味深かったのが、第4話「脱獄のチャンスは一度」だ。この話で銭形に捕まったルパンは、逃げるチャンスがあっても逃げ出さず、1年間も独房に留まる。死刑執行のドタンバで脱走し、銭形に自分と同じ屈辱を味わわせようとしたのだ。
 しかし、捕まってすぐに逃げ出しても、死刑寸前に逃げ出しても、銭形の悔しさはさほど変わらないのではないか。客観的に見れば、1年も独房にいたのは彼の自己満足のためだ。彼自身は、自分がギリギリでの大逆転を狙った事を「素晴らしいゲームを楽しんでいるんだ。処刑か脱獄か。万に一つの失敗も許されない、際どいゲームをな」と言っている。傷ついた自分のプライドを回復させるためには、1年もの月日をかけたゲームに勝利する事が必要だったのだろう。
 この話を観返して驚いたのは、後の『ルパン三世』ではあり得ない話だからだ。お宝のためでもなく、女のためでもない。プライドを守るため、スリルを楽しむために、1年もの歳月を無駄にする。そのギラギラした感じ、ストイックさは、後のルパンにはない。スリルを味わうために命がけのゲームに挑むようなことは、後の彼ならやらないだろう。
 この話で、彼がそこまでプライドにこだわったのは、一種の潔癖さのためだろう。意地悪な見方をすれば、まだ自分に自信がないから、逆にプライドにこだわっているのだ。スリルを味わいたいと思うのは、自分の実力を試したいからでもあるのだろう。散々修羅場をくぐった後のシリーズのルパンなら、銭形に捕まったくらいで、そんなに思い詰める事はない。その意味では「脱獄のチャンスは一度」の彼はまだまだ経験値が足りない。若いのだ。でも、彼の若さが出ているからといって、この話が面白くないわけではない。むしろ、すこぶる面白いエピソードだ。

 「大隅ルパン」の彼は、他のエピソードでも、誇りのために行動する事が多い。「魔術師と呼ばれた男」で白乾児と戦ったのも、最終的には自分のプライドのためであるし、第7話「狼は狼を呼ぶ」で敵地に乗り込んだのも、彼自身が語ったように「ルパン家の誇り」のためだ。第1話「ルパンは燃えているか……?!」で、トリックを使ってアリバイ作りをしてまで、レース中にスコーピオンのアジトを襲ったのは、スリルを求めたからなのだろう。単にスコーピオンを倒すだけなら、あんな面倒くさい作戦に挑む必要はない。
 「プライド」と「スリル」は、「大隅ルパン」の重要なキーワードなのだろうと思う。それは若さと表裏一体だ。若いからこそ、プライドのために戦い、命がけでスリルを求める。「大隅ルパン」の全てのエピソードで、プライドとスリルのために戦っているわけではないが、「ルパンは燃えているか……?!」「魔術師と呼ばれた男」「脱獄のチャンスは一度」等、よりルパンが魅力的に描かれているエピソードはプライドの話であり、スリルの話だ。
 「大隅ルパン」のルパンは確かに若い。だが、彼が若造だからこそ、面白かったのではないか。「大隅ルパン」には、後の『ルパン三世』にはない緊張感がある。それは突っ張って生きているルパン自身から生じているものだったのではないか。

 以下は余談。
 後に制作された『カリオストロの城』で、中年となったルパンが「俺は一人で売り出そうと躍起になっている青二才だった」と言って、10年以上前の自分を回想している。その回想の中には『旧ルパン』オープニングをリメイクしたカットもある。つまり、ここで話題になっている「青二才だった頃」とは『旧ルパン』の頃を指すと考える事ができる。
 しかも、その回想でルパンが乗っているのは『旧ルパン』後半の彼の愛車であり『カリ城』でも乗っていたフィアットではなく、『旧ルパン』前半のベンツSSKなのだ。わざわざこの車を出しているのには意味があるのではないか。マニアックに深読みすれば、『カリ城』のルパンが青二才だと言ったのは、『旧ルパン』前半の彼だったという事になる。もしそうなら『ルパン三世』シリーズの劇中でも、「大隅ルパン」の彼は若かったと言及されていたという事になる。

 

■第95回に続く

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(07.06.11)

 
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