その115 思いつくまま1983年
アニメージュ文庫「また、会えたね!」の編集期間の出来事で印象深いことと言えば、1983年8月に日比谷公会堂で開催された「ゴジラ30周年記念 伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」です。この演奏会は先頃亡くなられた竹内博さんたちの尽力で実現したもので、傑作「SF交響ファンタジー」の初演でした。私にとって生のオーケストラで伊福部メロディを聴くのは初めての機会でしたので9ヶ月のおなかを抱えて夫と2人で出かけました。現在ほどの猛暑ではありませんでしたが夏の盛りで、開場まで近くのベンチで休んでいました。いざ入場開始となった入り口のところで池田憲章さんとばったり会いました。お互いにきちんと顔を会わせるのはこれが初めてでした。たぶん周囲には「PUFF」で名のみ知る、あるいは将来知り合うことになる同好の士があふれていたと思います。演奏会は素晴らしいの一語に尽きる夢のようなひと時でした。生の太鼓の音がおなかの中まで大きく響き渡りました。これが胎教になったのかどうか、生まれた子供はこちらの記憶力の衰えをサポートしてくれる怪獣博士に育ちました。
TVでは、なかむらたかしさんの作画センスの光る『未来警察ウラシマン』、富野由悠季総監督の下、今川泰宏さんたちが各話演出を務めた『聖戦士ダンバイン』、高橋良輔監督によるリアル・ロボットアニメの頂点と称されるハードタッチの『装甲騎兵ボトムズ』、3年の長きに渡って放送され、キン消しと呼ばれるキャラ消しゴムがブームになった東映動画の『キン肉マン』、スタジオぴえろ魔法少女路線の第1弾『魔法の天使クリィミーマミ』、杏里の歌う主題歌が大ヒットし、以降のアニメソングのありようを変えてしまうことになる『CAT'S EYE』、現在に至るもファンが生まれ続け、現実にも多くのプロサッカー選手を生み出すきっかけとなったサッカーアニメの代名詞『キャプテン翼』等々、アニメ史においても社会的にも根強い人気と話題を堅持し続ける作品が輩出した年です。
1980年代はアニメ冬の時代と言われますが、この年の劇場アニメにその兆候が見られます。前年の『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』『1000年女王』『わが青春のアルカディア』『THE IDEON 接触篇/発動篇』等の話題作をもってアニメブームを牽引して来た劇場用SF大作の公開がひと山を越えたとも言え、この年3月の『宇宙戦艦ヤマト 完結編』の公開が象徴するように、SF大作、及び松本零士ブームが終息に向かい、TV放送中の『うる星やつら』の劇場長編化第1作『オンリー・ユー』に見るように劇場アニメはTVの拡大版としての位置に傾きつつあります。
同じく3月公開の『幻魔大戦』など、大友克洋さんによるキャラクターデザイン、なかむらたかしさん、森本晃司さんら気鋭のアニメーターの参加、スペシャルアニメーションとクレジットされた金田伊功さんのエフェクト作画、この作品を契機に超能力の発現を立ち昇る炎のように描く手法の開発など、アニメ的見どころも多いのですが、ブームを呼ぶには至りませんでした。
個人的にも生活サイクルが変わり、TVアニメがほとんど見られなくなりました。前述の諸作品もリアルタイムでは全話を通して見ているものはありません。唯一熱中して見ていたのが前年10月から始まった『さすがの猿飛』で、主題歌「恋の呪文はスキトキメキトキス」も心地よく、いのまたむつみさんたちの描く可愛い女の子とパワフルなアクション、豊富なパロディで毎回楽しみでした。
一方で「科学戦隊ダイナマン」「宇宙刑事シャリバン」と東映特撮の充実ぶりが目覚ましく、TVアニメよりむしろそちらに夢中になっていた時期です。
キャストではダイナブラックを演じたJACの俊英・春田純一さん、ダイナピンクの萩原佐代子さんがお気に入り。特にクールな美貌の萩原さんは後に『超新星フラッシュマン』(1986年)で悪の華レー・ネフェルを魅惑的に演じ、特撮ヒロインの星の1人となりました。
「ダイナマン」では鈴木武幸プロデューサーの主導により、敵方内部の抗争やロマンスの描写に重きを置く長浜忠夫式ドラマティックアニメのテイストが取り入れられ、敵組織側のデザインワークには『闘将ダイモス』で実績のある出渕裕さんが起用され、アニメ的な悪の美形キャラも登場する等、非常に効果を上げています。また「快傑ズバット」同様、琵琶の響きを生かした京建輔さんの音楽に乗せたダイナミックなOPは爆発戦隊の異名をとるほどで、私的戦隊主題歌のベスト5に入ります。
「宇宙刑事ギャバン」の成功を受けての第2弾「宇宙刑事シャリバン」は「ギャバン」で培った全ての要素をさらに先鋭化し、ビジュアル、ストーリー両面で東映特撮のこれも私的ベスト5に入る作品です。特に小林義明監督の脂の乗り切った演出センスは青光りする映像美とシュールなストーリーの相乗効果で異彩を放ち、必殺技シャリバンクラッシュの迫力と共に記憶に強烈に焼きついています。人気も沸騰し、当時の熱気はアニメージュ文庫の一環として「シャリバン」関連本が刊行されたという事実が雄弁に語っているでしょう。
一方、グループえびせんの上映会にも招かれてよく出かけました。現在は司会もできる歯科医としてお馴染み、当時は大学生で東京在住だった、はらひろしさんと、先頃惜しくも亡くなられた片山雅博さんの名コンビの進行で繰り広げられる映像の饗宴の楽しさは忘れられません。目玉は伊福部マーチに乗って果てしなくと思われるほどの質量で展開される、えびせんメンバー全員参加のしりとりアニメ。いずれも甲乙つけがたく連続するフィルムは「動かす」というアニメーションの根源的な魅力にあふれ、グループ名の元になったCMの「やめられない止まらない♪」のフレーズそのものの楽しさに満ちていました。片山雅博、一戸享、鈴木明子、はらひろし、舟久保てるみ、北村和則、角銅博之、斉藤紀生、桂沢左京、飯田つとむ、ふくやまけいこ、原口智生、石田卓也、片渕須直等々の参加メンバーを見るだけでそのすごさが伝わると思います。
上映作品も、片山雅博さんの洒脱な似顔絵による抱腹絶倒の映画パロディアニメ「日本映画迷名作大全集」シリーズ。かの庵野秀明さんにペーパーアニメの魅力を知らしめ、後にNHKで新作が放映されたほどの完成度を誇る、はらひろしさんのギャグセンスとタイミング抜群の「セメダインボンド」シリーズ。現在は東映アニメーションのプロ演出家として活躍する角銅博之さんのショートホラー『錆びた館』。えびせん合唱団のお囃子つき石田卓也さんの可愛くも楽しいねんどアニメの数々。今見ても、いや今だからこそオール手作りの持つ力が光を増すのかもしれない傑作が綺羅星のごとく輝く上映会でした。それは作品だけでなく、その時間と空間それ自体がかけがえのない宝物だったのです。
その116へつづく
(11.09.02)